【闘病】夫の「男性不妊」にショック隠せず… ~不妊治療から出産するまで~

不妊治療は、身体的・精神的・経済的な負担が大きく、夫婦の絆や日常生活にも少なからぬ影響を与えるものです。橋口さんご夫妻も、不妊の原因が男性側にあると判明し、戸惑いや衝突を繰り返しながら治療に向き合ってきました。人工授精から体外受精へとステップアップし、心身の不調や夫婦間のすれ違いを乗り越えて妊娠を叶えるまでの道のりには、夫婦の本音や葛藤、そして絆の深まりがありました。不妊治療のリアルな一歩一歩を、橋口さんの実体験を通してお届けします。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年7月取材。

体験者プロフィール:
橋口 和奈
東京都在住、1992年生まれ。2018年に入籍し、翌年27歳の時に妊活をはじめる。半年ほど自己タイミング法を行ったのち、不妊治療専門のクリニックにて検査を行い男性不妊が発覚し治療を開始。人工授精を3回行った後、AMHの値が年齢より低かったため顕微授精へステップアップ。2回目の移植にて妊娠し、2021年に第一子を出産した。

記事監修医師:
鈴木 幸雄(産婦人科専門医・婦人科腫瘍専門医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
6ヶ月の自己タイミング法でも妊娠せず、検査をしたら男性不妊が発覚

編集部
不妊症が発覚したときの経緯について教えてください。
橋口さん
2018年に結婚し、妊活を始めたのは翌年です。私が27歳のときでした。当時はタイミング法を半年継続したのですが上手くいかず、そのときたまたま「精子検査キット」というものが市販されているのを知り、試してみました。
編集部
結果はいかがでしたか?
橋口さん
芳しくなく、精子の運動率がほぼゼロに近い結果でした。旦那と話して、まずは男性専門のクリニックに行って診察を進めました。その後、私もブライダルチェックなどでお世話になっていた不妊治療専門クリニックで一緒に治療を進めることになりました。
編集部
どうやって治療を始めたんですか?
橋口さん
男性専門のクリニックでも精子の検査を受けたのですが、その時の数値はあまり悪くありませんでした。そのとき「頑張れば自然妊娠できる」と先生に言われたので、ちょっとホッとしていたのですが、数値は変動することもあるそうで、不妊治療専門クリニックでもう一度検査を受けました。すると結果は再び悪く、「顕微授精じゃないと妊娠は無理」とのことでした。先生にお願いしてもう1回検査をしたら前回よりは若干成績が良く、「人工授精ならギリギリいけるかもしれない」という結果になり、治療を始めようということになりました。
編集部
その不妊治療専門クリニックで治療を開始したのですか?
橋口さん
はい。私もそこで不妊症の検査を受けたのですが、年齢の割にAMHの数値が低いことがわりました。「治療を始めるなら早いほうがいい」と考え、すぐに治療を開始しました。
編集部
男性不妊がわかったときの、二人の様子は?
橋口さん
とてもショックでした。「旦那の方がショックなんだから」とわかっていても、旦那に気の利いた声がけをする余裕もなく、「もう、子どもは授かれないんだな」ととても悲しかったです。一方、夫は「どうして検査キットの数値だけで深刻になるの?」という感じでした。楽観的な旦那に対してイライラしてしまい、軽く言い争いにもなってしまいました。
編集部
でも、治療を始めようと決めたのですね。
橋口さん
二人とも検査キットの結果ですでに精神的ダメージを受け、心構えができていたので、その後、クリニックの検査で良くない結果が出ても、それほど落ち込まずにすみました(笑)。むしろ、治療を始めるときには前向きだったと思います。
人工授精、それから体外受精へ。言い争いも多かった治療をどうやって乗り越えたか

編集部
不妊治療はどのような方法で進めましたか?
橋口さん
先生に「頑張れば人工授精でもいけるかもしれない」と言われたこともあって、まずは人工授精を始めました。まず2回連続で行い、その後、私に風疹の抗体がないことがわかったので、「治療を継続する前に、先に注射を打ったほうがいい」ということになり、風疹ワクチンの注射を打ち、2か月間は不妊治療をお休みしました。その後、もう1回人工授精をしましたが、結局うまくいかず、体外受精を始めることにしました。
編集部
体外受精で妊娠に至ったのですね。
橋口さん
はい。2回目で妊娠できました。妊娠がわかった時は私も旦那もとても嬉しかったのですが、1回目のときは妊娠検査薬で陽性反応が出たのにダメだったので、「あまりぬか喜びしないようにしよう」と話しました。結局、産後に必要なものなどを買い揃えたのは、出産直前でした。
編集部
治療中、辛かったことはなんですか?
橋口さん
体外受精の治療をしていたとき、情緒不安定になったことです。仕事をしながらちょっとしたことでダメージを受けてしまったり、涙が出そうになったり……。そんな自分が情けないという気持ちもあり、本当に辛かったです。
編集部
ほかに辛かったことはありますか?
橋口さん
人工授精の治療をしているときには、旦那と何度も意見がぶつかり合って喧嘩になることも多かったのです。振り返ると、あの頃が一番きつかったですね。もともと私は「子どもが欲しい」という気持ちがかなり強かったのですが、旦那は「子どもは欲しいが、もしできなかったら2人の生活を楽しもう」というスタンス。喧嘩するたび「これで2人の仲が悪くなるんだったら、妊活を辞めたい」と夫が言い、それに対して私が「なんでそんなことを言うんだ」と怒ってしまうことの繰り返しでした。
編集部
どちらもストレスが溜まっていたんでしょうね。
橋口さん
確かに旦那も大変だったと思います。医師に言われて仕事中の旦那に「今すぐ精子を持ってきて」とお願いすることもありました。でも当時の私は「自分の方が旦那より頑張っている」という意識が強かったです。旦那は助成金のことを調べてくれたり、仕事が忙しくストレスを溜め込んでいた私を気分転換に食事に誘ってくれたり、そのほかにも些細なところで色々と気遣ってくれていました。でも、あの時の私は自分のことしか考えることができなかったですね。
編集部
それはどうやって乗り越えたんですか?
橋口さん
風疹ワクチンを打って2ヶ月、不妊治療をお休みしている間に自然と喧嘩は減りました。もともと私たちはとても仲の良い夫婦だったので、治療のことを一旦忘れて、過ごしたらやっぱり楽しくて。落ち着いた状態で治療について考えていることや悩んでいることを伝え合うことで、お互いに対する理解を深めることができたような気がします。
編集部
2ヶ月間の休憩が功を奏したのですね。
橋口さん
そう思います。その後、不妊治療を再開したあとは、前のように「私ばかり」という意識がなくなりましたし、お互いのことを思い合えるようになった感じがします
編集部
ネガティブな思考を克服できたのですね。
橋口さん
はい。そのほかにも不妊治療を通して、考え方や捉え方が変わったなと思うことがあります。はじめに医療機関で「顕微授精しか方法はない」と言われたとき、「それしか方法はないんだ」って思ったんです。でも裏を返せば選択肢がない分、迷わなくて良いんだと少し気が楽になったのです。
編集部
見方を変えれば、受け取り方も変わりますね。
橋口さん
やるべきことが決まって、あとは腹を決めて頑張るだけになりました。必ずしも「選択肢がたくさんあるから良い」というわけじゃないのだなと。結局大事なのは、物事をどう捉えるかであって、不妊治療は私にとって考え方が磨かれる体験だったと思います。
→(後編)【闘病】あなたの精子と結婚したんじゃない、あなたという人と結婚した
※この記事はメディカルドックにて『夫の「男性不妊」で不妊治療開始 言い争い・夫婦関係の波を乗り越え出産に至るまで』と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。