目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 配信コンテンツ
  3. 米米CLUB・石井竜也さんが元メンバーの訃報伝える 罹患の難病「ALS」とは?【医師解説】

米米CLUB・石井竜也さんが元メンバーの訃報伝える 罹患の難病「ALS」とは?【医師解説】

 公開日:2024/11/29

米米CLUBの石井竜也さんが、公式SNSにて元メンバーのジュリアーノ勝又さんの訃報を伝えました。ジュリアーノ勝又さんは、昨年10月に自身のSNSで「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」に罹患したことを報告していました。

ALSは国の指定難病で、発症の原因は不明です。人工呼吸器を使わない場合、発症から2〜5年で死に至ります。とても進行の早い病気ながら診断されるまで1年以上かかる場合がほとんどで、早期発見が難しいのが現状です。ALSを疑ったほうがいい初期症状や兆候、治療法などを医師の武井先生に教えてもらいました。

武井 智昭

監修医師
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)

プロフィールをもっと見る
【経歴】
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。

日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属

筋萎縮性側索硬化症とは?

疲れた表情の女性

筋萎縮性側索硬化症とはどんな病気?

  • 体を動かすために必要な筋肉が徐々に衰えることで力が弱くなり、思うように体を動かせなくなる病気です。
  • 筋力の低下が主な症状ですが、筋肉の病気ではありません。筋肉を動かすための指令を出す脳と脊髄の神経「運動ニューロン」がダメージを受けることで発症します。
  • 脳からの指令が筋肉に伝わらないために手足・喉・舌の筋肉・呼吸筋が徐々にやせ衰えていきます。

筋萎縮性側索硬化症を発症する原因はありますか?

  • 発症の原因は不明です。まだ詳しく解明されていませんが、以下のようにさまざまな学説が唱えられています。
  • 神経の老化
  • 興奮性アミノ酸の代謝異常
  • 酸化ストレス
  • タンパク質の分解障害
  • ミトコンドリアの機能異常
  • 両親・おじ・おば・祖父母など血がつながった親族に筋萎縮性側索硬化症の患者がいる場合は「家族性ALS」を発症する可能性があり、患者のうち約5%が家族性ALSといわれています。
  • 家族性ALSの場合は20以上の原因遺伝子の変化が見つかっていて、日本人の場合は「スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)」に原因がある割合が高いです。欧米では別の遺伝子に原因がある例が多く、人種や国によって多少の違いがあります。

筋萎縮性側索硬化症を発症する際の症状や兆候を教えてください。

  • 初期症状は、左右の上肢あるいは下肢の先端部分の筋力低下・筋の萎縮から始まり、進行してくると以下の症状になります。
  • 発音がしにくい、声を出しにくい
  • 食物を飲み込みにくい、舌が萎縮する
  • 階段の上り下りがしにくい、椅子から立ち上がりにくい
  • こうしたことで、入浴や洗髪、更衣などに支障がでてきます。どこから症状が始まったとしてもやがて呼吸器の筋肉を含めて全身に広がり、体全体を動かすことが難しくなります。その他、病気が進行するとさまざまな症状が現れます。

筋萎縮性側索硬化症の患者さんはどのくらいいるのでしょうか?

  • 日本ではおよそ1万人の患者がいるとされ、男女比では1.2〜1.3:1とやや男性が多い傾向にあります。年代では中年以降に発症することが多く、とくに60〜70歳代に多いのが特徴です。
  • しかし、若いからといっても油断はできません。まれに若い世代での発症例もあるため、兆候がある場合は受診することをおすすめします。

筋萎縮性側索硬化症はどのくらいの早さで進行しますか?

  • 一般的に進行が早い病気です。筋肉がやせることで体をうまく動かせなくなるため、呼吸筋が弱くなると呼吸困難になり、人工呼吸器が必要になります。個人差もありますが、人工呼吸器を使用しない場合は発症から2〜5年で死に至るといわれています。
  • また、以下のような症状がある患者は病気の進行が早い傾向にあるため、兆候がある場合は早めに受診しましょう。
  • 高齢での発症
  • 話しにくい・飲み込みにくい症状
  • 呼吸筋からの発症
  • 大幅な体重の減少が早期に起こる
  • 早期に首の筋力が弱る

筋萎縮性側索硬化症の検査内容や進行速度

問診をする男性医師

筋萎縮性側索硬化症はどのような検査で診断するのですか?

  • 筋萎縮性側索硬化症だけを特化して診断する検査方法はありません。疑わしい症状がある場合は、以下のような検査を行って診断します。
  • 針筋電図:細い針を筋肉に直接刺して筋肉の電気活動を調べます。
  • 血液検査:他の病気が原因で筋力の低下が起こっているのかどうかを調べます。
  • 髄液検査:腰の背中側から針を刺して脳と脊髄の周りにある髄液を採取します。
  • MRI検査:頭部MRIと脊髄MRIを行い、筋力の低下が脳梗塞・脳出血・腫瘍・脊椎疾患ではないことを確認します。
  • 末梢神経伝導速度検査:手足を動かす末梢神経に電気刺激を与え、障害が起こっているかを確認します。
  • 遺伝子検査:家族性ALSか、よく似た症状が出る別の遺伝性疾患なのかを特定するために行う場合があります。
  • 筋萎縮性側索硬化症の場合、針筋電図を行うとほぼ全身の筋肉で慢性神経原性変化や脱神経所見がみられるのが特徴です。症状に個人差があるため、発症から診断されるまで平均13.1か月かかっています。

どんな症状を発症したら筋萎縮性側索硬化症を疑った方が良いですか?受診するタイミングも教えてください。

  • 初めに出る症状により、4つのタイプに分けられます。以下のような症状がある場合は筋萎縮性側索硬化症の可能性を考えて、早めに病院で診察を受けることをおすすめします。
  • 上肢型:腕に力が入りにくくなるタイプで、着替えがスムーズにできない・字がうまく書けない・箸が持てないなどの症状が現れます。
  • 下肢型:歩くことが難しくなるタイプで、スリッパが脱げやすい・歩くのが遅くなる・階段の上り下りが難しいなどの症状が現れます。
  • 球麻痺型:舌や口が動きにくくなるタイプで、食べ物が飲み込めない・ろれつが回らないなどの症状が現れます。
  • 呼吸筋麻痺型:手足の筋萎縮や筋力の低下より先に呼吸困難が現れるタイプで、非常に稀です。
  • 上肢型の場合、肩周辺の筋肉が弱まった場合は肩が上がりにくくなりますが、これは肩こりに似た症状のために区別がつきにくいです。その他、比較的自覚しやすい以下のような症状が現れたときも注意が必要です。
  • 筋萎縮:筋肉がやせて衰える症状
  • 線維束性収縮:筋肉がピクピクする症状
  • 嚥下障害:食べ物が飲み込みにくい症状
  • 構音障害:発音がしにくくなる症状
  • 前頭側型認知症:感情のコントロールができなくなる症状

筋萎縮性側索硬化症の治療法とは?

入院している女性の手

筋萎縮性側索硬化症の治療法を教えてください。

  • 今のところ、根本的な治療方法はありません。病気の進行を遅らせるための治療がメインとなり、症状に合わせて「投薬療法」と「対症療法」を行います。
  • 投薬療法:進行を遅らせる作用のある飲み薬「リルゾール」や点滴注射薬「エダラボン」を使用します。
  • 対症療法:筋力低下や体の痛みを抑えるため、理学療法のリハビリテーションを行います。
  • 体が思うように動かないストレスや病気に対する不安によって睡眠障害を起こした場合、睡眠薬や抗不安剤が処方されます。病気が進行すると患者のQOL(生活の質)を維持するためにさまざまな処置が行われます。
  • 会話以外の新たなコミュニケーション手段を検討する
  • 食事を飲み込みやすいように工夫する
  • 嚥下障害が進行した場合は胃に直接栄養を注入する「胃ろう」や鼻から管を入れて流動食を補給する「経鼻胃管」、点滴での栄養補給の処置なども行います。
  • 呼吸不全が進行した場合は人工呼吸器が導入されます。鼻マスクによる「非侵襲的陽圧換気」と「気管切開下陽圧換気」の2種類ありますが、気管切開をした場合は人工呼吸器を取り外すことができません。

筋萎縮性側索硬化症の治療にはどのような効果があるのですか?

  • 治療で使われるリルゾールはグルタミン酸の興奮毒素を抑える効果があります。服薬することで気管切開や人工呼吸器の利用を開始するまでを2〜3か月遅らせることができます。
  • 投薬療法や対症療法を行ったとしても、筋力や運動機能を回復させる効果はありません。しかし、患者の体の痛みや疲労、筋力の低下を防ぎ、おだやかに日常生活を送るためには治療が必要です。

治療中に心掛けることなどあれば教えてください。

  • 患者本人が日常生活を送るうえで困っていることや支障があることをよく観察してみましょう。
  • 筋萎縮性側索硬化症の患者は運動機能に問題が起きているだけで、思考や感情、記憶力は発症前と同じです。自由に動けなくなってかわいそうだというような同情的な態度で接するのではなく、以前と同じ接し方を心がけてください。過度に優しく対応することで患者を傷つけてしまう場合もあります。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

  • 筋萎縮性側索硬化症は一度発症すると症状が軽くなったり回復したりすることはありません。体のどの部分から筋肉の衰えが始まったとしても、やがては全身に広がり最終的には呼吸筋が衰えて呼吸不全になります。
  • 呼吸不全に至るまでの期間は個人差が大きく、人工呼吸器を使わずにゆっくりと10年以上にわたって進行する例もありますが、1年で呼吸不全になる例もあります。
  • 筋力の低下など疑わしい症状がある場合は早期に検査して診断を受けましょう。投薬療法を早く始めることで病気の進行を遅らせることができます。

編集部まとめ

医師と患者
筋萎縮性側索硬化症は原因不明の難病で、今のところ治療法がありません。発症すると2年〜5年で死に至ることが多く、とても進行が早い病気です。

症状や進行速度は個人差が大きいですが、最終的には全身に広がり体を動かせなくなります。

根本的な治療方法はありませんが、早期に発見して投薬治療を開始することで病気の進行を遅らせることができます。

体が動かしにくかったりろれつが回らなかったりなど、筋萎縮性側索硬化症を疑う症状がある場合は早めに受診しましょう。

※この記事はメディカルドックにて【「筋萎縮性側索硬化症(ALS)指定難病2」とは?症状・原因についても解説!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

この記事の監修医師