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インプラントの骨造成には感染症のリスクがある?理由や症状、対処法を解説

 公開日:2025/07/04

インプラント治療では、骨造成という処置を追加で行うことがあります。顎の骨が不足しているケースに適応される処置で、インプラントの安定性を高める施術です。

ただし、インプラント治療における骨造成には、感染症のリスクがある点に注意が必要です。ここではインプラントの骨造成で細菌感染が起こりうる理由や起こった場合の症状、対処する方法などを解説します。インプラント治療で骨造成を併用する予定の方は参考にしてみてください。

インプラント治療における骨造成の役割

インプラント治療における骨造成の役割 骨造成がインプラント治療においてどのような役割を果たしているのか解説します。

骨量不足を補ってインプラントを支える

インプラント治療における骨造成の主な役割は、不足している骨の補填です。

加齢や歯周病、外傷などで顎骨に欠損している部分があると、チタン製の人工歯根をしっかりと支えることができません。このような場合は、インプラント体を骨が物理的に囲むことができないため、インプラント治療も適応外となりやすいです。 歯科医院によっては骨造成に対応していないところもあり、ブリッジや入れ歯といった従来法を選択せざるをえなくなります。骨造成で不足している骨を補うことができれば、インプラント治療も選択肢として検討できるようになります。

インプラントの長期的な安定性を確保する

インプラント治療は、顎の骨に装置を埋め込むので、長期的な安定性が重要となります。チタン製の人工歯根が顎骨と強固に結合し、その状態が長く保たれなければこの治療法の優位性は失われるからです。

入れ歯であれば、安定性が低下しても人工歯やクラスプ、義歯床などを調整できますが、体の一部となっているインプラントの場合は、顎骨への安定性を後から調整することはできません。インプラント体を埋め込む際に骨造成を行っておけば、治療後の長期的な安定性も確保しやすくなることでしょう。

インプラント周囲の骨吸収を予防する

インプラントは、ブリッジや入れ歯よりも骨吸収が起こりにくい治療法といわれています。インプラント治療には人工歯根があり、噛んだときの力を顎骨で受け止められるからです。

しかし、インプラントでも失った天然歯の機能を完全に回復できるものではなく、骨吸収も徐々に進みます。骨量が不足しているケースでは、骨吸収の速度も速まるため、骨造成で予防的に対処しておくことは重要です。

インプラント体を埋め込んだときに十分な量の骨があれば、顎骨との結合(オッセオインテグレーション)も適切に進み、装置全体も正常に機能しやすくなります。その結果、インプラント治療後に起こる骨吸収も抑えやすくなるのです。

骨造成をすると感染症にかかりやすくなる理由

骨造成をすると感染症にかかりやすくなる理由 インプラントの骨造成と感染症の関係を解説します。

手術による身体の負担が大きい

インプラント治療で骨造成を併用すると、手術による身体への負担が大きくなります

骨造成の手術をインプラント体の埋入手術と分けて行うケースでは、1回の手術で済むところを、骨造成のための手術が1回追加されるため、その分、手術による身体への負担が増加し、感染症のリスクも高まります。

インプラントの骨造成は、インプラント体の埋入術と同時に行うこともあります。1回の手術に骨造成と埋入処置をまとめることができますが、手術時間が長くなる、手術範囲が広くなるなどの理由から、通常のケースよりも手術による身体への負担が大きくなります。

その結果、インプラントで骨造成を行うと感染症のリスクが高まってしまうのです。

骨補填材が細菌の温床となる可能性がある

通常のインプラント手術では、顎の骨に穴を開けて、ネジのような形をしたインプラント体をドリルで埋め込みます。メスで切開した歯茎も縫合するため、術後は細菌の住み着ける場所がない状態です。

しかし、骨補填材という人工材料を患部に設置する骨造成では、細菌の温床となるリスクがあります。骨補填材自体も生体への親和性は高く、細菌感染のリスクを低減するような調整が加えられてはいますが、患部に複雑な構造をした異物を設置することは、衛生面に問題が生じやすいのです。

骨造成後、感染症にかかったときに出る症状

骨造成後、感染症にかかったときに出る症状 インプラントの骨造成で感染症にかかった場合の症状を解説します。次に挙げる症状が認められた場合は注意が必要です。

患部が赤く腫れて痛む

インプラントの骨造成後には、患部に腫れが生じます。歯茎をメスで切開して、顎骨に処置を施す治療法なので、術後に一定の腫れが伴います。

しかし、事前の説明よりも患部が赤く、大きく腫れていたり、痛みが強かったりする場合は、骨造成後に感染症が起こった可能性があります。腫れ方に異常を感じた時点で主治医に相談することが推奨されます。

手術後の傷口から膿が出る

インプラントの骨造成後の傷口から膿が出てきたら、感染症の症状です。膿は免疫細胞が細菌をはじめとした病原体と戦っている証拠なので、速やかに対処しましょう。

主治医に連絡をして、指示を仰いでください。手術後の傷口から膿が出る症状は、現在進行形で細菌が活発に活動していることが予想されるため、迅速な対処が求められます。

口臭が強くなる

骨造成後に口臭が強くなった場合も感染症にかかっている可能性があります。

手術直後は、口腔粘膜や顎骨に大きな傷を負っている状態であることから、普段とは異なる臭いが生じます。手術後しばらくは口腔ケアも不十分になることが多く、いつもより口臭が強くなる患者さんも少なくありません。

骨造成後に口臭が強くなった場合は、患部が想定以上に赤く腫れたり、手術後の傷口から膿が出たりする症状などとあわせて、細菌感染の可能性を考慮する必要があります。

発熱や倦怠感など全身の不調が生じる

インプラントの骨造成では、手術の際に身体へ大きな負担がかかることから、手術後に発熱や倦怠感が生じることがあります。

骨造成後の全身の不調が必ず感染症に由来するわけではありませんが、可能性は否定できないので、不安な症状がある場合は主治医に相談しましょう。

感染症にかかった場合の対処法

感染症にかかった場合の対処法 インプラントの骨造成後に感染症を発症した場合は、以下の方法で対処するのが一般的です。

抗生物質の使用

インプラントの骨造成後の感染症は主に細菌によるものなので、抗生物質の使用が効果的です。症状に応じた抗生物質を、適切な方法で使用する必要があります。

感染部位の外科的洗浄

骨造成の際に感染した部位は、病原体によって汚染されています。そのままの状態では治癒が遅れることから、感染部位を外科的に洗浄しなければなりません。

インプラントの状態によっては、インプラント体の表面を部分的に削り取るインプラントプラスティが必要となることもあります。

インプラントの取り外しが必要な可能性も

骨造成後の感染症が重症化した場合は、手術で埋め込んだインプラント体を撤去しなければならなくなる可能性も出てきます。

インプラント体が顎の骨と結合するオッセオインテグレーションは、周囲の組織が健全でなければならず、感染症によって汚染されていたり、ダメージを受けていたりする状態は望ましくないからです。感染部位の外科的洗浄や抗菌薬の投与だけにとどめ、インプラント体を埋めたままにしていると、顎骨に定着せずに治療が失敗に終わります。

インプラント体を埋めたままの状態での洗浄が困難なケースでも、取り外しが必要となります。インプラント体が定着しないどころか、感染の範囲がさらに広がる恐れがあるため、選択の余地なくインプラント体の撤去が求められます。

骨造成の治療後に気をつけるべきこと

骨造成の治療後に気をつけるべきこと インプラントの骨造成後は、通常のインプラント手術よりも感染症のリスクが高く、予後も悪くなりやすいため、治療後のケアや過ごし方には注意が必要です。インプラントの骨造成を受けた方は、少なくとも以下に挙げる3点には配慮するようにしてください。

お口のなかを清潔に保つ

インプラントの骨造成に伴う感染リスクは、術中と術後の2つに分けられます。

術中の感染対策を徹底する歯科医院を選ぶことで、リスクを低減できますが、術後は患者さんの取り組み意識が大切です。

お口のなかには、約700種類の口腔内細菌が常在しており、歯垢1mgに住みついている数は約1億個になるといわれています。大きな傷口ができる骨造成の手術を受ければ、細菌感染のリスクは著しく高まることから、いつも以上に口腔ケアをしっかり行わなければなりません。

歯磨きを漫然と1~2分程度、行っただけでは不十分で、1歯1歯を丁寧に磨き、歯垢が取り除かれていることを確認しましょう。歯と歯の間の汚れは歯ブラシで取り除けないため、デンタルフロスや歯間ブラシの使用がおすすめです。

◎食事の内容にも配慮する

インプラントの骨造成後は、傷口が気になって歯磨きを徹底するのが難しくなります。そのため、歯垢や食べカスが付着しにくい食事を心がけるのもひとつの方法です。

手術を受けてから1週間程度は、患部の腫れや痛みが強く現れやすいことから、あまり噛まずに飲み込める食事が望ましいでしょう。お粥やスープ、豆腐料理なら、咀嚼しやすいですし、お口のなかも汚れにくくなります。

手術部位に触れないようにする

骨造成の手術を行った部位は、大きな外傷を負った状態と同じです。舌や指などで触ると、再出血したり、細菌感染のリスクが高まったりしてしまいます。

口腔ケアを行う際にも、手術部位には触れないよう心がけてください。誤って手術部位に触れて、再び出血が起こったら、清潔なガーゼを噛んで止血を試みましょう。

患者さんの全身の健康状態や傷口の状態に問題がなければ、ガーゼを噛んで10〜15分程度で血が止まります。出血が止まらない場合は、傷口が開いているなどのトラブルが考えられるため、歯科医院に電話で相談してください。

安静に過ごし十分な休息をとる

インプラントの骨造成に限らず、外科手術を受けた後は心身に大きな負担がかかっています。無理に仕事をしたり、身体を激しく動かす運動をしたりすると、傷口に悪い影響がおよびます。

傷口が開いて治りが遅れ、細菌感染のリスクも高まることもありますので、骨造成の手術後は安静に過ごし、十分な休息をとるようにしましょう。骨造成の手術から2~3日の間は、特に安静が必要です。

患部の腫れや痛みなどがピークに達するため、増悪させるような行為はできるだけ控えなければなりません。その後も1週間程度は安静に過ごすことで、骨造成後の感染症のリスクも大幅に低下することでしょう。

◎処方された薬剤は指示どおりに服用する

インプラントの骨造成後には、消炎鎮痛剤や抗生物質が処方されますので、それらを歯科医師の指示どおりに服用してください。消炎鎮痛剤は、患部の腫れと痛みを抑える薬で、症状が現れたら服用するのが一般的です。一方、抗生物質は特定の細菌を死滅させたり、繁殖を抑えたりする作用が期待できる薬剤で、外科手術後には予防的に服用する必要があります。

今回の手術は軽かったとか、手術後にあまり腫れていないので大丈夫だろうといった自己判断で服用しなかったり、服用する量をコントロールしたりすると、適切な効果が得られなくなるため避けましょう。

今回のテーマでもある「インプラントの骨造成後の感染症リスク」を抑えるためにも、抗生物質は歯科医師の指示をしっかり守ったうえで、原則は処方されたものをすべて飲み切ることが大切です。

まとめ

今回は、インプラントの骨造成に感染症のリスクを伴う理由と症状、対処法について解説しました。インプラントの骨造成は、通常のインプラント手術よりも広い範囲にさまざまな外科処置を施さなければなりません。

骨が欠損している部位に骨補填材という異物を設置することから、術後に細菌が繁殖しやすい環境となる点にも注意が必要です。インプラントの骨造成後に感染症を発症したら、想定よりも強い腫れや痛み、膿の排出、発熱などの全身症状が現れるため、不安な点が生じたらすぐに主治医に相談することが大切です。骨造成に伴う感染症への対処法は、軽度から重度まで、ケースに応じて異なります。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:1989年福岡歯科大学 卒業 1991年松浦明歯科医院 開院 2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任 / 資格:厚生労働省認定研修指導医 日本口腔インプラント学会認定医 ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医 / 所属学会:ICOI(国際口腔インプラント学会) 日本口腔インプラント学会 日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事 日本顎咬合学会 会員 日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員

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