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ノカルジア症
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

ノカルジア症の概要

ノカルジア症とは「ノカルジア属」という種類の細菌に感染することで発症する疾患です。

ノカルジア属の細菌には「N.brasilliensis」「N.farcinica」「N.nova」「N.asteroides sensu strict」などの種類があります。このような細菌は、野菜などの植物や土壌、水の中など自然界に広く生息しています。

通常、健康な人が自然界に生息する細菌と接触しても、感染して重篤化することは多くありません。しかし、免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬を使用中の人やAIDSなどで免疫機能が低下している場合には日和見感染として感染し、ノカルジア症を発症することがあります。

ノカルジア症は感染経路によって「肺ノカルジア症」と「皮膚ノカルジア症」に分類されます。

肺ノカルジア症では、細菌で汚染された土ぼこりを吸い込むなどして気道から肺へと感染し、咳や痰、発熱、呼吸困難などの症状を認めることがあります。また、細菌は血流を介して全身に広がり、まれに脳で増殖して脳膿瘍を発症することもあります。

一方、皮膚ノカルジア症では、皮膚にできた傷口から細菌が侵入し、皮下組織で増殖して膿瘍を形成し、化膿性肉芽腫性炎を発症することがあります。

一度発症すると自然に治癒することはなく、治療が遅れると重篤化して手術が必要になったり、病巣のある患部を切断したりするケースもあるため、注意が必要です。

ノカルジア属の細菌は複数存在するため、感染が疑われる場合には診断とともに原因菌に有効な治療薬を選択するための検査をする必要があります。

発症を認める場合には、原因菌に有効な抗菌薬を用いた薬物療法のほか、患部から膿を排出させるための処置がおこなわれます。

ノカルジア症の原因

ノカルジア症は、ノカルジア属という種類の細菌に感染することが原因です。

ノカルジア属の細菌は、野菜などの植物や土壌、水などに生息していることがあります。健康な場合には、このような自然界に生息する細菌に感染して病気を引き起こすことはありません。しかし、免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬などを使用している人など免疫機能が低下している場合には、ノカルジア属の細菌に感染してノカルジア症を発症する可能性があります。

ノカルジア属の細菌に感染する場合には、気道から感染するケースと、皮膚から感染するケースがあります。

細菌が気道から侵入した場合には、最初に肺に病巣を作って肺ノカルジア症として発症し、その後脳へと移行して全身に広がることもあります。

一方、皮膚にできた傷口から細菌が侵入した場合には、皮下組織に移行して皮膚ノカルジア症として発症します。

ノカルジア症の前兆や初期症状について

ノカルジア症は、感染部位によって症状が異なります。

肺から感染した場合には、胸の痛みや発熱、咳、痰、呼吸困難など肺炎のような症状が見られます。

一方、皮膚から感染した場合には、患部がゆっくりと炎症を起こし、膿をもつようになります。

初期には肺や皮膚の局所症状に留まることが多いものの、進行すると細菌が血流を介して全身に広がったり、脳で増殖したりして重篤な状態に陥ることもあるため、注意が必要です。

ノカルジア症の検査・診断

ノカルジア症の診断では、感染部位から検体を採取して病原体となる細菌を特定する検査がおこなわれます。

肺からの感染が疑われる場合には痰を採取、皮膚からの感染が疑われる場合には患部の一部を採取し、培養したり染色したりして顕微鏡で病原体の有無を観察します。

また、肺や他の臓器に感染していることを確認するために、X線検査などの画像検査をおこなうこともあります。

診断のほか、有効な治療薬を選定するために「薬剤感受性試験」がおこなわれます。

ノカルジア症では、原因となる細菌の種類によって有効な抗菌薬が異なるケースがあります。そのため、治療開始前に薬剤感受性試験をおこない、原因菌に有効な抗菌薬を特定します。

薬剤感受性試験には、原因菌のサンプルをシャーレに塗布し、そこに薬剤を含んだ紙を置いて反応を調べる「ディスク拡散法」などがあります。

ノカルジア症の治療

原因となる細菌に有効な薬剤を用いた薬物療法や、患部から膿を排出させるための外科処置がおこなわれます。

ノカルジア症では、有効な薬剤を選定するために薬剤感受性試験が必要になりますが、検査は専門機関でおこなわれ、結果が出るまでに一定期間を要します。

しかし、ノカルジア症は治療が遅れると重篤な状態に陥る恐れがあるため、医師は薬剤感受性試験の結果が出る前に有効性が確認されている薬剤を使用して治療を開始します。

薬物療法では、第一選択として「スルファメトキサゾール」と「トリメトプリム」という2剤が合わさった「ST合剤」と呼ばれる薬剤が用いられることが多い傾向にあります。この薬剤にアレルギーがある場合や、効果が期待できない場合には、ミノサイクリンやペニシリン系、ニューキノロン系などの薬剤から適切なものを使用します。

通常、抗菌薬での治療は長期間に渡り、初期治療として最低6週間、維持療法として最低6ヶ月間治療をおこなう必要があります。

また、脳膿瘍を認め、薬物療法で膿瘍が縮小しない場合には、外科的手術が考慮されるケースもあります。

このほか、皮膚ノカルジア症では、患部を切開して膿を排出させ、洗浄する処置がおこなわれます。

出典:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター 「ノカルジア感染症」

ノカルジア症になりやすい人・予防の方法

免疫機能が低下している人はノカルジア症になりやすいといわれています。特に、子どもや高齢者、免疫抑制薬や副腎皮質ステロイド薬、抗癌薬で治療中の人、AIDSを発症している人は注意が必要です。

ノカルジア属の細菌が含まれる土を吸い込んだり、皮膚にできた傷口から細菌が侵入したりすると、ノカルジア症を発症する恐れがあります。

免疫機能が低下している場合には、細菌に汚染された土壌に立ち入らないようにしたり、感染対策を徹底したりするようにしましょう。


関連する病気

  • 肺ノカルジア症
  • 皮膚ノカルジア症
  • 化膿性肉芽腫性炎
  • 脳膿瘍

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