

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
壊死性軟部組織感染症の概要
壊死性軟部組織感染症は、皮膚の下にある筋膜や脂肪、筋肉などの軟部組織が細菌感染により壊死する重篤な感染症です。小さな皮膚の傷から細菌が侵入し、短期間で急速に組織の破壊が広がるのが特徴です。
原因となる細菌は複数の細菌が混合して感染するタイプI(混合感染型)と、単一菌による強力な感染を起こすタイプII(単一菌感染型)に大別されます。初期症状は一般的な皮膚感染症に似ていますが、強い痛みを伴い、早期から全身状態が悪化します。
検査は臨床症状の確認や血液検査、画像検査などによって行い、確定診断には手術で状態を確認することが必要になります。治療は緊急の外科的デブリードマン(壊死組織除去術)と抗菌薬投与が中心です。
壊死性軟部組織感染症は、糖尿病患者や高齢者、免疫抑制状態の方にとって発症リスクが高いです。適切な治療がなければ死亡率は20~30%に達する危険な疾患ですが、発症率は10万人あたりに数人程度と稀な疾患です。
(出典:皮膚・軟部組織感染症/日本内科学会雑誌/112/11号/2023年/p. 2068-2075)
壊死性軟部組織感染症の原因
壊死性軟部組織感染症は、細菌が筋膜や皮下組織の深部に侵入して発症します。さらに組織の血流が障害され、酸素や栄養が届かなくなり壊死が進行します。
細菌が産生する毒素により、組織破壊と炎症反応が起こり、周囲への感染拡大が促進されます。感染症を引き起こす細菌感染は、大きく2つのタイプに分類され、水場などの環境に関連する菌が関わる可能性もあります。
タイプI(混合感染型)
タイプI(混合感染型)は複数の細菌が混合して起こる感染です。腸管に近い部位(会陰部や消化管手術部位など)で発症するケースが多いです。「大腸菌(Escherichia coli)」「バクテロイデス(Bacteroides)」などの腸内細菌もしくは嫌気性菌(酸素がなくても生きられる菌)と、「ブドウ球菌」や「腸球菌」といった皮膚常在菌が同時に検出されることが一般的です。
タイプII(単一菌感染型)
タイプII(単一菌感染型)は、1種類の強力な病原菌による感染です。健常者にも発症する可能性があります。代表的な原因菌としては「A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)」や「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」が挙げられます。これらの菌は、小さな外傷部位からでも強力な毒素を産生し、急速に周囲組織を破壊していきます。
壊死性軟部組織感染症の前兆や初期症状について
壊死性軟部組織感染症の初期症状では、患部の皮膚の赤み、腫れ、熱感、痛みなどがみられます。痛みの程度が皮膚の見た目以上に強いことが特徴の一つです。小さな切り傷程度の傷口しかないのに耐え難い激痛があったり、圧痛が皮疹の範囲を超えて広がったりします。
感染が進行すると、皮膚には急速に水ぶくれや紫色~黒色の斑点が現れ、やがて組織の壊死や潰瘍が生じます。皮下にガスが溜まるとその部位を押した時に雪を踏むようなパリパリとした感触(握雪感)があります。
悪化すると、発熱、頻脈、血圧低下、呼吸苦、全身脱力がみられ、意識障害をともなう重篤な状態になる可能性もあります。
壊死性軟部組織感染症の検査・診断
壊死性軟部組織感染症の診断は症状と診察所見に基づく臨床診断が基本です。疑わしい場合は、検査と並行して治療(手術)の準備を進めます。
血液検査
血液検査では炎症マーカーであるCRPや白血球数の上昇、腎機能や凝固機能の悪化、高血糖が見られます。壊死が進行すると筋肉由来の酵素(CK値)の上昇が認められますが、初期には約3割が正常範囲内で、血液検査のみで見極めるのは困難です。
画像検査
MRIや造影CTが診断の参考になります。特にガスを産生する細菌による感染では、皮下や筋肉内にガスの存在が確認できれば診断に役立ちます。
手術による確認
確定診断には、感染部位を手術で直接開いて筋膜や筋肉の状態を確認する必要があります。切除組織の病理検査で広範な細菌感染と壊死が確認されれば診断が確定します。
細菌培養検査
血液や創部から採取した検体の細菌培養検査も行い、原因菌の特定に役立てます。結果は数日かかるため初期治療には間に合いませんが、抗菌薬治療の最適化に重要な指針となります。
壊死性軟部組織感染症の治療
壊死性軟部組織感染症の治療は外科的処置(デブリードマン)と抗菌薬による薬物療法です。早期診断と外科治療の開始が生存率を大きく左右します。治癒までには数週間から数ヶ月の入院治療が必要で、救命できても後遺症を残すことがあります。
外科的処置
緊急手術により、感染で壊死した組織や、その周辺の壊死しそうな組織を可能な限り広範囲に切除します。これをデブリードマン(壊死組織除去術)と呼びます。感染が完全に収まるまで、1~2日おきに何度も手術を繰り返すことがあります。
抗菌薬治療
デブリードマンと並行して、抗菌薬の全身投与(点滴)を行います。原因菌が判明するまでは広い範囲をカバーできる抗菌薬を組み合わせて使用します。抗菌薬治療は感染が落ち着くまで少なくとも1~2週間以上続けます。
集中治療管理
血圧低下や腎不全などへの対応、補液と栄養管理、人工呼吸管理など、生命維持のための治療が並行して行われます。糖尿病などの基礎疾患のコントロールも重要です。
創傷管理と再建
急性期を乗り切れば、創部の大きな欠損に対する再建手術(皮膚移植など)が検討されます。創部の消毒を行い清潔を維持し、創部の治りを良くするために陰圧吸引療法などが行われることもあります。
壊死性軟部組織感染症になりやすい人・予防の方法
壊死性軟部組織感染症の代表的なリスク要因は糖尿病です。高血糖状態では免疫力低下と創傷治癒遅延が起こり、感染が拡大しやすくなります。
透析中の腎不全患者、肝硬変患者、ステロイド薬や抗がん剤を使用中の免疫抑制状態の方、高齢者もリスクが高いとされています。
予防法として、基礎疾患がある場合はその管理が重要となります。また、皮膚の傷は細菌の侵入口となるため、怪我をした際は清潔に保ち適切に処置すること、足の水虫なども治療しておくことも大切です。
関連する病気
- 蜂窩織炎(ほうかしきえん)
- ガス壊疽(えそ)
- フルニエ壊疽
- クロストリジウム性筋壊死
- 劇症型溶血性レンサ球菌感染症
参考文献
- 皮膚・軟部組織感染症/日本内科学会雑誌/112/11号/2023年/p. 2068-2075
- 本邦での壊死性軟部組織感染症の原因菌と初期抗菌薬についての後方視的検討/日本化学療法学会雑誌/69巻/2号/p.123-130
- 壊死性軟部組織感染症の起炎菌/日本集中治療医学会雑誌/16巻2号/2009年/p.144-146
- 当院における壊死性軟部組織感染症の臨床的特徴の検討/日本臨床救急医学会雑誌/22巻/3号/2019年/p.475-480
- 敗血症を伴ったMRSAによる壊死性軟部組織感染症の2例/創傷/15巻/3号/2024年/p.92-97
- 日本版敗血症診療ガイドライン2024/日本集中治療医学会雑誌/31巻/Supplement号/2024年
- 亀田総合病院 ⻲⽥1ページで読める感染症ガイドライン 蜂窩織炎