

監修医師:
五藤 良将(医師)
那須・ハコラ病の概要
那須・ハコラ病は、骨の異常と進行性の認知症を特徴とする遺伝性疾患で、「polycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy(PLOSL)」とも呼ばれます。まれな疾患ですが、日本やフィンランドでは比較的多くの症例が報告されていて、厚生労働省の指定難病に登録されています。
那須・ハコラ病は、20歳代ごろから骨折を繰り返すようになり、30歳代ごろになると感情や行動が抑えられなくなったり、異常な興奮状態がみられたり、性格の変化が生じたりする精神神経症状があらわれます。また、言語障害やてんかん発作をともなうこともあります。その後、40歳代ごろから認知症の症状が顕著になり、記憶障害や思考能力の低下が進行していきます。那須・ハコラ病は、時間をかけてゆっくりと進行する病気で、進行すると日常生活の動作が困難になり、最終的には寝たきり状態になることが多いとされています。
那須・ハコラ病の原因は、脳や骨の働きに関わる遺伝子の変異とされていますが、詳細なメカニズムについてはまだ解明されていません。現時点では、根本的な治療法は確立されておらず、骨折や精神症状に対する対症療法が行われます。
那須・ハコラ病の原因
那須・ハコラ病は、DAP12(TYROBP)遺伝子またはTREM2遺伝子の変異によって引き起こされます。これらの遺伝子は、脳内の免疫細胞であるミクログリアの働きを調節する役割を担っています。
ミクログリアは、神経細胞の維持や不要な細胞の除去に重要な役割を果たしており、これらの遺伝子に異常が生じると、脳の白質(神経細胞が集まる部分)にダメージが蓄積します。その結果、脳の神経細胞同士の情報伝達がうまくいかなくなり、認知機能の低下が引き起こされると考えられています。
また、これらの遺伝子は骨の代謝にも関与しており、遺伝子変異があると、骨の形成が正常に行われなくなくなります。これによって、骨梁(こつりょう)とよばれる骨の内部構造が薄くなり、骨の中に多数の空洞(骨嚢胞)ができやすくなります。
那須・ハコラ病の前兆や初期症状について
那須・ハコラ病の症状は、年齢によって段階的に進行していきます。年齢が上がるにつれて、骨の異常から精神・神経症状へと進行する のが特徴です。
20歳代ごろまでは無症状で経過し、その後、骨折や骨の痛みが初期症状としてあらわれることが一般的です。とくに、腕や太ももなどの骨の内部に空洞(骨嚢胞)が多数でき、転倒などの軽い衝撃でも手足を骨折しやすくなります。
30歳代ごろになると、脳の機能に影響が及び、行動や性格の変化が目立つようになります。具体的には、感情や行動のコントロールが難しくなくなったり、異常に興奮しやすくなったり、言語障害によって言葉がうまく話せなくなったりすることがあります。また、てんかん発作が起こることもあります。
40歳代ごろになると、認知機能の低下が進行し、記憶障害や判断力の低下が顕著になります。
那須・ハコラ病は、時間をかけてゆっくりと進行していく病気です。進行すると、自力で動くことが困難になり、日常生活では介護者のサポートが必要になることもあります。40〜50歳代になると寝たきり状態になり、誤嚥性肺炎などの感染症がきっかけで、生命に関わる状態にいたることも多いとされています。
那須・ハコラ病の検査・診断
那須・ハコラ病は、臨床症状と複数の検査による結果をもとに診断されます。骨や脳の異常を確認するための検査が重要になります。
X線検査では、骨の内部に多数の袋状の空洞(骨嚢胞)がみられ、とくに腕や太ももの骨の両端部分で異常がみられることが特徴です。必要に応じて、骨の組織の一部を採取してくわしく調べる骨生検が行われることもあります。
脳のCT検査やMRI検査では、とくに前頭葉の萎縮や脳室との拡大が確認されます。これらの変化は病気の進行とともに目立つようになり、脳の白質(神経細胞が集まる部分)にも異常が生じていることが確認されます。
確定診断のためには、遺伝子学的検査が有効です。遺伝子学的検査により、DAP12(TYROBP)遺伝子またはTREM2遺伝子に変異が確認されれば、診断が確定します。
那須・ハコラ病の治療
現時点では、那須・ハコラ病の進行を抑えたり、根本的に治したりするような治療法は確立されていません。そのため、骨の異常や精神症状に対する対症療法が中心となります。
骨折に対する治療としては、整形外科での治療が行われ、精神症状に対する治療としては、抗精神病薬による治療が行われます。てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬を使用して症状を抑えることが可能です。
日常生活では、転倒を防ぐための環境整備や、介助を受けながら生活するためのサポートが重要になります。
那須・ハコラ病になりやすい人・予防の方法
那須・ハコラ病は遺伝性疾患であるため、家族歴によって、発症リスクが高まる可能性があります。一般的に、成人期以降に発症するとされており、小児での発症は報告されていません。
那須・ハコラ病の原因遺伝子は常染色体劣性遺伝という遺伝形式で遺伝することが判明しています。両親がそれぞれ1つずつ遺伝子異常をもっている場合、その子どもが発症する確率は約25%です。
現時点では、那須・ハコラ病の発症を防ぐ方法は確立されていませんが、発症リスクが心配な場合は、専門医による遺伝カウンセリングを受けることも選択肢のひとつです。
関連する病気
- 若年性認知症
- 多発性骨嚢胞
- 骨粗しょう症
- 進行性白質脳症
参考文献