

監修医師:
大坂 貴史(医師)
リステリア症の概要
リステリア症は、リステリア・モノサイトゲネスという細菌によって引き起こされる感染症で、 しばしば食肉加工品や魚介類加工品が感染源となります。平均的に3週間の潜伏期間の後、発熱、頭痛、嘔吐などの症状を呈します。治療には抗菌薬が使われますが、妊婦が感染すると流産や早産の原因となる可能性があるため、予防が大切です。リステリア菌は低温や高い塩分濃度でも増殖できますが加熱すると死滅するため、加熱が必要な食品は十分加熱することなどが重要となります。また、食肉加工品や魚介類加工品は期限内に消費し、開封後はできるだけ早く食べることも大切です。(参考文献1)
リステリア症の原因
リステリア・モノサイトゲネス菌は、土壌、水、植物、一部の動物の糞便など、自然界に広く存在しています。 これらの環境から食品が汚染されることがあります。また、リステリア菌は4℃以下の低温や12%の食塩濃度下でも増殖できるため、冷蔵庫内で長期間保存された食品でも注意が必要です。特に、未殺菌乳、ナチュラルチーズなどの乳製品、生ハムなどの食肉加工品、スモークサーモンなどの魚介類加工品が感染源となるリスクが高いです。しかし、これまでにはコールスローなどのサラダが感染源となった集団感染の事例も報告されているためどんな食品でも油断は禁物です。(参考文献1)
リステリア症の前兆や初期症状について
リステリア症は平均的に3週間(24時間未満から1カ月以上のものもある)の潜伏期間を経て発症します。健康な成人では、無症状で経過することが多いですが、感染初期には倦怠感、弱い発熱を伴うインフルエンザのような症状を示すことがあります。
しかし、妊婦、高齢者、免疫力が低下している人々においては、症状が重くなることがあります。具体的には、38~39℃の発熱、頭痛、嘔吐などがあり、意識障害や痙攣が起こる場合もあります。また、妊婦が感染すると発熱、悪寒、背中の痛みを起こし、時には胎児に感染して流産や早産の原因となることがあります。 (参考文献1)
リステリア症の検査・診断
リステリア症は臨床症状が髄膜炎や他の細菌感染症と似ており、症状だけで診断することが困難です。そのため、リステリア症の診断には患者の髄液、血液および臓器などからリステリア・モノサイトゲネスを検出することが必須です。
培養検査では髄液や血液、臓器の他にも食品や糞便を用いて菌を培養し、菌の種類が調べられる量が得られるように増殖させます。そうして得られた菌はPCR法などの遺伝子診断法により菌の種類を特定します。こうしてリステリア・モノサイトゲネスが検出されると、リステリア症と診断されます。(参考文献1)
リステリア症の治療
リステリア症の治療には抗菌薬を用います。ペニシリン系、特にアンピシリンが有効とされています。 一方、同じ抗菌薬でもセフェム系薬剤は無効とされているため、リステリア症と診断された時は処方された薬をきちんと飲むようにしましょう。
また、乳児や妊婦、高齢者、免疫力が低下している人は重症化する危険性が高いため、リステリア症と疑われた時点で治療が開始される場合があります。(参考文献1)
リステリア症になりやすい人・予防の方法
リステリア菌は自然界に広く分布しており、食品を介して人に感染することがある細菌です。欧米では、未殺菌乳、ナチュラルチーズなどの乳製品、生ハムなどの食肉加工品、スモークサーモンなどの魚介類加工品、コールスローなどのサラダなどでリステリアによる集団食中毒が発生しています。 日本では、これまでの食中毒統計では、リステリアによる食中毒の報告例はありませんが、食品安全委員会の評価書によると、リステリア感染症の推定患者数は年間200人(平成23年時点)とされています。 リステリア菌は低温や高い塩分濃度でも増殖できるため、冷蔵庫内での長期間保存や塩漬けした食品でも注意が必要です。
予防策としては、食品を期限内に消費すること、開封後は速やかに消費すること、生野菜や果物は食べる前によく洗うこと、生の肉に触れたらよく手を洗うこと、包丁やまな板を使うときは、生野菜などの加熱しない食品を先に切り、生の肉は後で切ること、生の肉に使った包丁やまな板と調理済みの食品が触れないようにすること、リステリアは加熱すると死滅するため、加熱が必要な食品は十分に加熱すること、生の肉に使った調理器具は、使い終わったらすぐに洗い、洗った後、熱湯で消毒することなどが挙げられます。
特に、妊婦や免疫力が低下している人は、未殺菌乳で作ったナチュラルチーズなどを避け、調理済み食肉加工品は、食べる前に再加熱することが推奨されています。(参考文献1.2)
参考文献