目次 -INDEX-

黄熱
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

黄熱の概要

黄熱は、黄熱ウイルスにより引き起こされるウイルス性疾患で、主にネッタイシマカという蚊によって媒介されます。アフリカや南米の熱帯地域で流行しており、これらの地域を訪れた旅行者が帰国後に発症することがあります。感染初期には発熱や筋肉痛などの軽い症状が現れますが、重症化すると黄疸や出血、腎障害などを引き起こし、重症化した際は致死率が 30〜60% にもなります。黄熱に対する特効薬は存在せず、治療は対症療法が中心です。最も有効な予防策はワクチン接種であり、黄熱流行地域への渡航予定者は、早めに指定医療機関で接種を受ける必要があります。イエローカードの発行には接種から10日かかるため、渡航準備は余裕を持って行うことが重要です。

黄熱の原因

黄熱は、黄熱ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症です。主にネッタイシマカとよばれる蚊によって媒介されます。

感染源となる蚊は、黄熱ウイルスに感染した人やサルの血を吸うことでウイルスを獲得し、その後別の人を刺すことでウイルスを伝播します(参考文献 1) 。
黄熱は現在、アフリカの北緯15度と南緯15度に挟まれた熱帯地域や、南アメリカ大陸では北はパナマから南緯15度までの熱帯地域で流行しています (参考文献 2) 。 これらの地域を訪れる旅行者が現地で感染し、帰国後に発症する事例もあります。

黄熱に関連する有名なエピソードとして、野口英世の黄熱研究があります。野口英世は黄熱の原因やワクチン開発に関する研究業績を多く残しながら、自身も黄熱に感染し、51歳で亡くなっています (参考文献 3) 。野口英世をはじめとした世界各地の研究者の活躍もあり、黄熱用のワクチンが実用化されていますが、現在でも黄熱は致死率の高い感染症であり、現在でも世界各地で多数の方が亡くなっています。WHOによれば2013年時点では重症患者が84,000人~170,000人、死亡者が29,000人~60,000人いると推定されています (参考文献 4) 。

黄熱の前兆や初期症状について

黄熱ウイルスに感染すると、通常3〜6日間の潜伏期間を経て発症します (参考文献 1, 2) 。最初の段階では、発熱、頭痛、嘔吐、筋肉痛といったインフルエンザ様の症状が現れ、これらの初期症状は数日以内に改善します (参考文献 1, 2) 。

重症症例ではいったん初期症状が改善した後に、再度の発熱に加えて、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、鼻や歯肉からの出血や下血、子宮からの出血、蛋白尿が現れます (参考文献 2) 。ショック状態や多臓器不全に陥ることもあり、重症化した際の致死率は 30〜60% とされています (参考文献 1) 。

後述する高リスクな渡航歴があり、渡航中・帰国後に黄熱に合致するような症状がある場合には、すぐに近くの総合病院を受診してください。その際には直近の渡航歴を必ず伝えてください。

黄熱の検査・診断

黄熱が疑われる場合には、まず渡航歴や蚊に刺された経験などの疫学情報の聞き取りが極めて重要です。黄熱流行地域に滞在したのちに発熱を伴う症状が出現した場合、医療機関では直ちに黄熱の可能性を考慮し、適切な感染症専門機関と連携して検査を進める必要があります。

黄熱では血液検査で凝固機能の異常や、ビリルビンの増加、肝逸脱酵素の上昇が特徴的な初見です (参考文献 2) 。

ウイルスの遺伝子を検出するPCR検査や、抗体検査で黄熱の感染を確認することで診断を確定します (参考文献 2) 。

黄熱の治療

現時点で、黄熱ウイルスに対する特異的な治療薬は存在していません。そのため、治療は対症療法が中心となり、重症化した場合にはICUでの集中治療を要することもあります。

黄熱になりやすい人・予防の方法

先述のように、北緯15度から南緯15度までのアフリカ大陸・南アメリカ大陸の熱帯地域を訪れる人は感染リスクがあります。

未だ致死率の高い感染症であり、「かかった後に治す」ことも難しいため、もっとも重要なのは「かかる前に防ぐ」ことです。幸い、有効で安全なワクチンが存在し、黄熱の流行地域に行く予定がある場合には予め予防接種を受けることが推奨されます。
流行国に入国する際には黄熱の予防接種証明書である「イエローカード」の提示を求められることもあるため、自分の命を守るためにも必ず予防接種を受けてください。
黄熱のワクチンを接種することができる施設は限られています。厚生労働所検疫所 FORTH (参考文献 1) にワクチン接種が可能な医療機関が紹介されているので、お近くの施設に連絡をしてみてください。
なお、イエローカードは予防接種後10日しないと有効になりません (参考文献 1) 。渡航ギリギリに予防接種するのではなく、余裕を持ったスケジュールをたててください。渡航地域によっては黄熱以外にも推奨されている予防接種があるという場合もあるので、数カ月前から施設にコンタクトをとってください。

現地で蚊に刺されないための対策も有効です、長袖長ズボンを着用して、素肌の露出を極力少なくするほか、虫よけスプレーや蚊帳を利用して、蚊との接触を防止してください。



この記事の監修医師