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ゴーシェ病
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ゴーシェ病の概要

ゴーシェ病はグルコセレブロシダーゼという酵素の欠損や機能低下が原因となる遺伝性の疾患です。脂質の一種であるグルコセレブロシドが分解されず、体内に蓄積して「ゴーシェ細胞」となり、肝脾腫や血液・骨・神経の異常を引き起こします。症状や発症時期、進行速度によって1型・2型・3型に分類され、日本では神経症状を伴う型の比率が比較的高いことが知られています。
治療には酵素補充療法や内服による基質合成阻害療法が用いられますが、中枢神経症状の改善方法が乏しいのが現状です。

ゴーシェ病の原因

私たちの体の細胞には、「ライソゾーム」という非常に小さな構造があります。これは細胞の中で不要になったものや老廃物を分解・処理する「リサイクル工場」のような役割を担っています。ライソゾームの中にはさまざまな酵素が含まれており、それぞれ特定の物質を分解する働きを持っています。

ゴーシェ病は、このライソゾーム内にある「グルコセレブロシダーゼ」という酵素の働きが生まれつき弱かったり、全くなかったりすることが原因で起こる病気です。グルコセレブロシダーゼは、主に「グルコセレブロシド」という脂質を分解する役割がありますが、この酵素が不足すると、分解されない脂質が細胞の中にたまり続けてしまいます。とくにマクロファージという免疫細胞の中でこの脂質が蓄積し、「ゴーシェ細胞」と呼ばれる異常な細胞が全身の臓器に広がっていきます。

このような酵素の異常は、生まれつきの遺伝的な変化によって起こります。ゴーシェ病は常染色体劣性遺伝という遺伝形式をとり (参考文献 1) 、両親それぞれから変異したグルコセレブロシダーゼの遺伝子を受け継いだ場合に発症します。

ゴーシェ病の前兆や初期症状について

ゴーシェ病の症状は、発症年齢や神経症状の有無などによって大きく異なり、小児期以降様々な時期に発症する神経症状のない1型、新生児期〜乳児期に重篤な神経症状のでる2型、小児期までに神経症状が出る3型に分類されます (参考文献 1) 。日本では神経症状の出るタイプが多いことが知られています (参考文献 1, 2) 。

ゴーシェ病の主要症状は肝脾腫、貧血、血小板減少、病的骨折をはじめとした骨症状です (参考文献 1) 。

1型は症状が出ないまま経過して血液検査で異常を指摘されて偶然発覚する例から、重篤な症状が出る例まで様々です。

2型のなかでも出生直後に発症するタイプは最も重症です。出生時に主要症状のほかに皮膚や関節の異常、小頭症が発覚する例があるほか、筋緊張低下や呼吸障害、けいれん等の症状が出てきて急激に悪化、生命予後は不良です (参考文献 1) 。2型のなかでも生後3~6カ月で発症するタイプは喘鳴 (息がぜーぜーする) 、ミルクの飲み込みのわるさ、眼球運動障害で発症し、進行すると筋緊張低下やけいれん等の症状が出てきて、症状が急速に悪化していきます (参考文献 1) 。

3型では乳児期〜小児期に発症し、重症度や進行速度は様々です。症例ごとに出てくる神経症状にも差が大きいので一概には言えませんが、眼球運動障害、てんかん、知的障害、運動障害といった症状が代表的です (参考文献 1) 。

日本でのゴーシェ病有病率は33万人に1人とされています (参考文献 2) 。稀な疾患ではありますが、早期の治療介入によって進行をある程度コントロールできます。
赤ちゃんやお子さんに上記のような神経症状が出てきたときには、かかりつけの小児科を受診してください。

ゴーシェ病の検査・診断

疑わしい症状がみられた場合には、まず血液検査で貧血や血小板減少、 ACE 濃度の上昇を確認します (参考文献 1) 。
そのほかにX線検査や MRI で特徴的な画像所見があったり、骨髄検査でゴーシェ細胞がいることが確認されれば、確定診断のためにグルコセレブロシダーゼの活性の確認や、遺伝子検査をします (参考文献 1)。

ゴーシェ病の治療

ゴーシェ病の治療は、酵素補充療法および基質合成阻害療法の2つが中心です。

酵素補充療法では、欠損しているグルコセレブロシダーゼを点滴により補充します。3型の生命予後を改善させることは知られていますが、1型・2型の患者の生存期間を延ばせるかどうかははっきりしていません (参考文献 1) 。また、肝脾腫や血小板減少などの症状改善は期待できますが、薬剤が脳に届かないため中枢神経症状の改善効果は乏しいです (参考文献 1, 2) 。

基質合成阻害療法は、体内でのグルコセレブロシド産生そのものを抑制する治療法で、比較的新しい治療選択肢になります。1型の貧血、血小板減少、肝脾腫、骨症状の改善効果は知られていますが、生存期間の改善効果があるかは不明なほか、2型・3型の患者や小児患者での効果は分かっていません (参考文献 1) 。

ゴーシェ病になりやすい人・予防の方法

ゴーシェ病は遺伝性疾患であるため、血縁者に患者がいる場合には発症リスクが高いといえます。ゴーシェ病は常染色体劣性遺伝による先天性の疾患であり、病的な遺伝形質を両親から受け継いだ場合には、発症そのものを予防する方法はありません。

診断された場合、早期からの治療介入と長期的なフォローアップ体制を整えることが、患者本人の成長と生活の質の向上において重要です。



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