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旋毛虫症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。現在は「竹内内科小児科医院」の院長。日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医。

旋毛虫症の概要

旋毛虫症とは、旋毛虫属という種類の寄生虫が原因で起こる食中毒です。

旋毛虫属には12種類の寄生虫が該当し、国内では「T.nativaを含む旋毛虫属」と「Trichinella」の2種類が確認されています。

旋毛虫は、豚や熊などの動物や鳥類が体内に保有していることがあります。人間は旋毛虫を保有する生物の生肉や加工食品を、完全に加熱していない状態で食べることによって感染します。国内では豚肉による発症事例は確認されていないものの、熊の生肉を食べたことによる集団感染の事例が報告されています。

人間の体内に取り込まれた旋毛虫の成虫は「シスト」と呼ばれる頑丈な膜のようなもの(包のう)を形成します。シストの中には幼虫が眠っており、体内で生息し続けます。

生きた旋毛虫を含む肉を食べた後、次第に体内で成虫が形成したシストが破れて幼虫が放たれます。成虫のオスは死滅するものの、メスは腸に潜り込んで数週間に渡り幼虫を産み続けるため、体内で旋毛虫の成虫が増殖していきます。最終的に幼虫は死滅し、体内に吸収されるか石灰化するものの、旋毛虫の成虫や幼虫が体内に生息しているときは、旋毛虫症のあらゆる症状が現れます。

旋毛虫症を発症すると、体内に寄生する旋毛虫の成長に応じて段階的に症状が変化します。体内に成虫が寄生する初期段階では、吐き気や下痢、発熱などがみられます。その後、幼虫が生まれると、筋肉内に侵入して炎症を起こし、発熱や筋肉痛、まぶたのむくみ(眼瞼浮腫)、呼吸困難などをきたします。

また、心臓の筋肉や脳が障害され、重篤な状態に陥ることもあります。さらに幼虫がシストを形成する段階まで進展すると、肺炎や貧血、心不全などの重篤な状態におちいり、全身のむくみや、まれに死に至るケースもあります。

旋毛虫症の治療では、駆虫薬や非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド薬などを用いた薬物療法がおこなわれます。なかには治癒した後も、しばらくの間倦怠感や筋肉痛が残ることがあります。

発症を予防するためには、肉類を十分に加熱して食べるようにするほか、冷凍保存した後に調理することも有効です。

出典:NIID国立感染症研究所「わが国における旋毛虫症」

旋毛虫症の原因

旋毛虫に汚染された動物の生肉や加工食品を食べることで発症します。

旋毛虫は熊や豚などの生物で保有されている可能性があります。また、旋毛虫を保有している動物の肉を原料とした餌を食べる馬にも寄生していることがあります。

人間には、旋毛虫を保有している動物の肉を十分に加熱せずに食べることで感染します。国内では熊肉が主な感染源であり、「エゾヒグマ」「ツキノワグマ」の刺身を食べたことによる旋毛虫症の発症事例が報告されています。

旋毛虫症の前兆や初期症状について

旋毛虫症の症状は、体内に寄生する旋毛虫の成長に応じて段階的に変化します。

初期症状では、原因となる動物の肉を食べた数日後に、微熱や下痢、吐き気、差し込むような腹痛などがみられます。

旋毛虫症の検査・診断

旋毛虫症の検査では、問診や血液検査がおこなわれます。

問診では、症状や最近の食生活を尋ね、旋毛虫症の原因となった食べ物がないか確認します。

血液検査では血球数や炎症反応などの項目を確認するほか、体内で旋毛虫に対する抗体が産生されているかを調べます。旋毛虫症を発症していると、白血球の一種である「好酸球」の値が上昇します。抗体を確認する方法は旋毛虫症の確定診断に有効ですが、初期症状の出現から数週間経過しないと正確に診断できないため、症状や炎症反応などからある程度推測して治療を進めていく必要があります。

このほか、心臓の筋肉などに異常がないかを調べるために、心電図検査や胸部レントゲン検査をおこなうこともあります。また、原因となる食品から虫体を検出したり、まれに患者さんの筋肉を一部採取して、細胞の状態を調べる検査が実施されたりします。

旋毛虫症の治療

旋毛虫症の治療では、薬物療法がおこなわれます。

薬物療法では、体内の旋毛虫を駆除するため「アルベンダゾール」などの駆虫薬が用いられます。

駆虫薬は成虫の駆除に役立ちますが、完全に駆除することは難しいため、幼虫が成虫に成長して死滅するまで治癒に時間がかかることがあります。

治癒するまでの間は、筋肉痛や体内の炎症を和らげるために、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や副腎皮質ステロイド薬が用いられることがあります。

旋毛虫症になりやすい人・予防の方法

動物の肉を生で食べたり、衛生管理の不十分な加工食品を食べたりする人は、旋毛虫症になりやすいといえます。

発症を予防するために、肉類を食べるときは十分に加熱するようにしたり、衛生管理の十分でない加工食品を食べないようにしたりすることが重要です。特に国内で発症報告のある熊肉は、生で食べないようにしましょう。海外では熊以外にもさまざまな動物の肉が原因になることがあるため、渡航先での肉類の摂取にも十分な注意が必要です。

豚肉や豚を利用した加工食品は、完全に変色するまで火を通すことで旋毛虫症の予防に効果が期待できます。しかし、一部の旋毛虫は短時間の加熱では死滅しないので、加熱する前に冷凍保存が必要になることもあります。

燻製や電子レンジでの加熱では幼虫を死滅させることはできないため、冷凍保存後に火を使って調理することが重要です。また、野生動物に寄生する旋毛虫は冷凍でも死滅しない可能性があるため、注意しましょう。

このほか、生肉の調理で使用する器具は徹底的に洗浄することも心がけてください。調理後は石鹸で手をよく洗うことも重要です。豚などの家畜を飼育している人は、加熱されていない肉を含む餌を与えないようにしましょう。


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