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発疹チフス
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

発疹チフスの概要

発疹チフスは、「リケッチア」という細菌の一種が原因で起こる感染症です。シラミがこの細菌を持っており、シラミが人の血を吸うことで感染が広がります。特に寒い山岳地帯で多い病気で、日本では戦中や戦後すぐの時代に大きく流行していましたが、1957年以降は1例も確認されていません。発疹チフスを発症すると高熱や頭痛が現れる他、全身に赤い発疹が出ます。治療は抗菌薬を3〜5日間飲み続けることです。重症化すると命に関わるため、衛生環境を整えて予防することと、疑わしい時は早めに医療機関を受診して治療を受けることが重要です。(参考文献1)

発疹チフスの原因

発疹チフスの原因は、「発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii)」という細菌です。この細菌は、コロモジラミというシラミの体内で増殖します。

感染の仕組みは次のようになります。
1. 感染した人の血を吸ったシラミがリケッチアを持つようになる。
2. シラミの糞や体液にリケッチアが含まれる。
3. シラミは吸血する時に排便するため、刺し口やひっかき傷のところに糞やつぶれてしまったシラミが擦り込まれるとリケッチアが人の体内に入る。
また、シラミの糞が空気中に舞い、それを吸い込んで感染することもあります。

リケッチアに感染したシラミは2週間ほどで死に至りますが、死亡後の体内にもリケッチアは数週間生き残ると言われています。糞の中のリケッチアは60℃の蒸気であれば20秒で死滅しますが、室温では2週間以上、時には300日以上感染力を維持していたという報告もあるので、注意が必要です。(参考文献1)

発疹チフスの前兆や初期症状について

発疹チフスに感染すると、6~15日(通常12日ほど)の潜伏期間を経て、突然発症します。

主な症状としては、以下があります。

  • 高熱(39~40℃)
  • 頭痛
  • 寒気(悪寒)
  • 体のだるさ(脱力感)
  • 吐き気や嘔吐
  • 手足の痛み

また、発症から2~5日後には 体の中心(お腹や胸など)に発疹が出はじめ、全身に広がります。ただし、顔や手のひら、足の裏にはあまり出ません。発疹は最初は赤く、指で押すと消えますが、数日経つと暗紫色の点状出血に変わります。

重症の場合は、以下のような 精神的な症状が現れることもあります。

  • うわごとを言う
  • 興奮して幻覚が見える
  • 意識がぼんやりする

治療しないと10〜40%の確率で死亡する危険な病気ですが、一度かかると長期間は免疫ができます。ただし、人によっては何年か経ってから 再発することもあります。これはブリル・ジンサー (Brill-Zinsser) 病と呼ばれるもので、過度のストレスや免疫の低下、低栄養が原因になると考えられています。Brill-Zinsser病自体は軽症で致死率も低いものです。(参考文献1)

発疹チフスの検査・診断

発疹チフスの診断には、血液検査や細菌を調べる検査が使われます。
主な検査方法

  • 血清検査(ワイル・フェリックス反応、間接蛍光抗体法など) :リケッチアの抗原タンパク質やそれに反応する抗体を検出する検査
  • 遺伝子検査(PCR法):病原菌の遺伝子を検出する検査
  • 病原体分離:血液からリケッチアを増殖させて取り出す検査

ただし、リケッチアを直接分離するには特別な設備(P3レベルの実験室)が必要で、一般の病院では行うことができません。(参考文献1,2)

発疹チフスの治療

発疹チフスの治療には 抗菌薬(抗生物質) を使います。 主に使用されるのはテトラサイクリン系と呼ばれる種類の抗菌薬で、代表的なものはドキシサイクリンです。一般的に、ドキシサイクリンは3~5日間、もしくは解熱後2〜4日間飲み続ける必要があります。 治療を開始して2,3日で効果が現れてきます。
治療が遅れると重症化し、命の危険があるため、発疹チフスかもしれない症状が現れた場合は病院に受診するようにしましょう。(参考文献2)

発疹チフスになりやすい人・予防の方法

発疹チフスは、 寒い山岳地帯 に多く見られます。
主に、アフリカ(ブルンジ、エチオピア、ルワンダなど)・中南米・インド、パキスタン、中国、ギリシャなどで報告されています。
日本では、 戦時中(1943~1946年)に多くの感染者が出ましたが、1957年以降はほぼ発生していません。
発疹チフスワクチンは世界的には開発されていますが、広く出回っているものはなく、日本でも使用可能なワクチンはありません。シラミが発生しないよう衛生環境に注意することが重要となります。具体的な予防方法としては、衣類を清潔に保つ(定期的に洗濯・乾燥する)こと入浴やシャワーで体を清潔にすることなどです。
また、日本では発疹チフスが 「4類感染症」 に指定されており、 診断した医師は保健所に届け出る義務があります。(参考文献1,2)


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