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ブルセラ症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ブルセラ症の概要

ブルセラ症は、牛、豚、山羊、羊などの家畜に感染するブルセラ属菌によって引き起こされる人獣共通感染症です。主に未殺菌の乳製品や感染動物との接触を通じて感染し、潜伏期間を経てインフルエンザのような非特異的な症状が出現します。特有の波状熱や関節炎のほか、心内膜炎をはじめとした重篤な合併症を起こすこともあり、早期診断と治療が重要です。診断には職業歴や渡航歴などを含む問診が重要で、血液培養や血清学的検査なども併用して診断します。治療は抗菌薬2剤併用の長期投与が基本です。日本では現在、家畜由来の国内発生はなく、すべてが輸入感染例です。しかし、畜産関係者や海外渡航者を中心に感染リスクは依然として存在しており、特に未殺菌乳製品の摂取には注意が必要です。予防には個人の衛生管理と社会全体での家畜管理の療法が重要です。

ブルセラ症の原因

ブルセラ症は、ブルセラ属の細菌によって引き起こされる人獣共通感染症です。この細菌は、牛、豚、羊、ヤギなどの哺乳類に感染し、感染動物の血液、尿、乳汁、あるいは感染動物が流産した時に生まれた動物の赤ちゃん・胎盤を通じて菌が外に排出されます (参考文献 1, 2) 。

人への主な感染経路は、感染動物の乳製品、特に加熱されていないナチュラルチーズや牛乳の摂取、衛生管理不十分な感染動物の肉の喫食です (参考文献 1, 2) 。このほかにも感染動物の出産や流産に立ち会うような場合に感染する経路があります。人から人への感染は極めて稀です。

ブルセラ症の前兆や初期症状

ブルセラ症の潜伏期間は通常1~3週間ですが、最長で数か月に及ぶこともあります (参考文献 1, 2) 。感染してから現れる初期症状は非特異的であり、風邪やインフルエンザと区別がつきにくいです。

ブルセラ症で特徴的なのは「波状熱」と呼ばれる熱です。発熱と解熱を繰り返して、体温の記録をとると波のようになることから波状熱と呼ばれています。夕方から夜にかけて40℃以上になることもある高熱が出て、明け方にかけて体温が下がるという熱の出かたが典型的です (参考文献 1) 。

合併症としては骨関節炎が多く、特に仙腸関節が侵されやすいです (参考文献 2) 。未治療の場合の致死率は 5% にのぼり、死因の多くは心内膜炎です (参考文献 1) 。

重症感染症のひとつであり、後述するブルセラ症感染のリスクが高い方は、風邪のような症状でも放置しないようにしましょう。特にほかの症状が出てきたときには総合病院の内科を受診してください。

ブルセラ症の検査・診断

ブルセラ症の診断は、問診や職業歴、動物との接触歴、海外渡航歴などの情報を拾い上げることが第一歩です。
そのうえで、血液培養、血中のブルセラ菌への抗体の有無、PCRの結果を組み合わせて診断します (参考文献 2) 。

検査も万能ではなく、ブルセラ症を疑わなければ検査にたどり着くこともできないので、診断において最も重要なのは問診です。感染リスクが高い行動歴・就業歴は必ず伝えてください。

ブルセラ症の治療

ドキシサイクリンとストレプトマイシンの抗菌薬2剤併用療法が基本です (参考文献 1, 2) 。

ブルセラ症になりやすい人・予防の方法

ブルセラ症は、自然界に存在するブルセラ菌に感染した動物との接触や、その動物由来の未殺菌食品の摂取を通じて人に感染する人獣共通感染症です。したがって、特定の地域・職業に従事している人にとっては、日常生活の中でのリスクが高い感染症です。

ブルセラ症にかかる可能性が高いと考えられる職業には、次のようなものがあります (参考文献 2) 。

  • 畜産業従事者
  • 酪農業者や乳製品加工業者
  • 獣医療関係者
  • 食肉処理場の従業員
  • ペットのブリーダー

これらの職種では感染源と直接接触する可能性が比較的高いです。食品を介したブルセラ症感染は十分な加熱により防ぐことができるため、日本における通常の流通経路で入手できる食品では感染リスクは低くなります (参考文献 2) 。

一方で、旅行者や輸入食品の消費者も感染リスクがあります。特に中国東北部や地中海沿岸、中東などブルセラ症が流行している地域では、未殺菌の牛乳やチーズの摂取による感染例が多く報告されています (参考文献 2) 。現地の市場などで出回っている乳製品や肉製品は、製造過程で加熱殺菌されていないこともあり、観光目的の短期滞在者でも十分に注意が必要です。

ブルセラ症を予防するための対策としては、大きく分けて「個人でできること」と「社会全体での取り組み」があります。

個人でできる予防策としては、流行地域での十分加熱されていない乳製品や生肉の摂取を避けることや、畜産作業や実験動物の取り扱い時には適切な感染防護をすることなどがあげられます。

一方、社会全体での感染拡大を防ぐためには、ブルセラ菌陽性となった動物を殺処分することや、新しい動物を入れるときに検査をすることがあります (参考文献 1) 。海外では家畜用のブルセラ症予防用ワクチンが実用化されているようですが、日本では使用されていません。

日本では過去に牛のブルセラ菌感染が問題となり、ブルセラ菌陽性となった家畜の殺処分を徹底するようになりました。その結果1970年を最後に国内の家畜からブルセラ菌が検出された例はありません (参考文献 1) 。現在では日本における人の家畜関連のブルセラ症患者は、すべて海外で感染した輸入感染症です。
生乳中のブルセラ菌は 63 ℃ で30分、72 ℃ で15秒加熱することで死滅します (参考文献 2) 。 感染地域では乳製品や肉製品を食べる前に「きちんと加熱処理されているか」を確認してください。



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