

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。
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ミトコンドリア脳筋症の概要
ミトコンドリア脳筋症は、細胞の中でエネルギーを作り出す「ミトコンドリア」という部分に異常が起きることで発症する病気の総称です。国の難病に指定されています。 ミトコンドリアの機能が低下すると、特にエネルギーを多く必要とする脳や筋肉に影響が出ます。その結果、さまざまな症状が現れることがあります。ミトコンドリア脳筋症の原因
ミトコンドリア脳筋症の主な原因は、ミトコンドリアDNAや核DNAの遺伝子の変異です。ミトコンドリアDNAの変異
主な原因 多くの場合、ミトコンドリアDNAの変異が原因です。この変異には以下の2つがあります。- 再配置:ミトコンドリアDNAの一部が欠けたり、余計な部分が加わったりする変異です。
- 塩基置換や点突然変異:DNAの設計図のピースである「塩基」と呼ばれる部分が別の塩基に置き換わる変異です。
- 再配置の変異は、一家の中で1人だけ発症することが多いです(孤発例)。
- 点突然変異は、母系遺伝で家族内に複数の患者さんがいることがあります。
核遺伝子の変異
稀な原因 ごく稀に、細胞の核にある遺伝子の変異が原因で発症します。この場合、両親からの遺伝(常染色体劣性遺伝)によって起こることが多いです。ミトコンドリア脳筋症の前兆や初期症状について
ミトコンドリア脳筋症は、その種類や遺伝子の変化、発症する年齢によって症状が異なります。ここでは、代表的な2つのタイプである「MELAS」と「MERRF」について、前兆や初期症状を説明します。MELASの前兆と初期症状
MELAS(メラス)は、子どもの頃に発症することが多いミトコンドリア脳筋症の一種です。 前兆 前兆がはっきりしない場合もありますが、以下のような症状が見られることがあります。- 頭痛
- 吐き気や嘔吐
- 疲れやすさ(易疲労性)
初期症状
最も特徴的なのは「脳卒中様発作」です。- 突然の意識障害やけいれん、体の片側が動かしにくくなる(片麻痺)、視力低下、感覚障害などの症状が出ます。
- 通常の脳梗塞とは異なり、症状が一時的に消える場合もありますが、繰り返すことで治りにくくなることもあります。
- 難聴
- 糖尿病
- 心臓や腎臓の問題
MERRFの前兆と初期症状
MERRF(メルフ)は、MELASよりも発症頻度が低いですが、「ミオクローヌスてんかん」という特徴的な症状を持っています。前兆
- MELASと同じく、はっきりとした前兆がないことが多いです。
- 疲れやすさや運動能力の低下が見られる場合があります。
初期症状
最も特徴的なのは「ミオクローヌス(筋肉のけいれん)」です。 ミオクローヌスは手や足がぴくぴく動く、または全身のけいれんが起こるなどの症状がでます。 てんかんの発作も初期症状としてよく見られます。 その他、以下の症状が現れることもあります。- 小脳失調(ふらつきや歩行障害)
- 筋力低下
- 筋肉の萎縮
- 難聴や視力低下
ミトコンドリア脳筋症の検査・診断
ミトコンドリア脳筋症の診断は、さまざまな検査を組み合わせて行います。 症状の確認 患者さんの症状や家族歴を詳しく調べます。 血液・尿検査 乳酸やピルビン酸の濃度を測定し、エネルギー代謝の異常を確認します。 筋生検 筋肉の一部を取り出して調べ、ミトコンドリアの数や形の異常を確認します。 遺伝子検査 ミトコンドリアDNAや核DNAの変異を特定します。 ここで紹介した症状は一般的なもので、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。 症状が多岐にわたるため、ほかの病気と間違われることもあります。 気になる症状があれば、早めに神経内科を受診することが大切です。ミトコンドリア脳筋症の治療
ミトコンドリア脳筋症には、根本的に治す治療法はまだありません。しかし、症状を和らげたり進行を遅らせたりするための治療法があります。それぞれの患者さんに合った治療法を選ぶことが重要です。1. 薬を使った治療
タウリン補充療法 特定の遺伝子の変化を持つ患者さんに有効で、脳卒中のような症状を防ぐ効果があります。この治療は保険で使うことが認められています。 アルギニン 脳卒中のような症状を予防する可能性がありますが、まだ保険で使えません。 抗てんかん薬 てんかん発作を抑えるために使います(例:レベチラセタム)。 その他の薬 ミトコンドリアのエネルギーを助けるために、コエンザイムQ10やビタミン剤が使われることがあります。2. 症状ごとの治療
難聴 補聴器や人工内耳を使います。 心臓の不整脈 ペースメーカーを入れることがあります。 糖尿病 インスリン療法を行います。 心筋症 心臓を助ける薬を使います。 腎臓の問題 腎臓の働きを改善する治療を行います。3. リハビリ
理学療法 筋肉や関節の動きを良くする運動をします。 作業療法 日常生活での動きを助ける練習をします。 言語療法 話すことが難しい場合の練習を行います。4. 遺伝子治療
海外では、遺伝子を修正する技術(ゲノム編集)を使った新しい治療法が研究されています。 麻酔を使うときの注意 プロポフォール注入症候群 全身麻酔で使うプロポフォールは、ミトコンドリア脳筋症の患者さんには避けるべきです。 悪性高熱症 全身麻酔中に起こる重い副作用の可能性があります。 乳酸アシドーシス 血中に乳酸がたまりやすい状態で、麻酔によって悪化する可能性があります。 ミトコンドリア脳筋症の症状は患者さんごとに異なるため、一人ひとりに合った治療が必要です。また、新しい治療法の研究が進められており、今後の進展が期待されています。ミトコンドリア脳筋症になりやすい人・予防の方法
ミトコンドリア脳筋症の原因 ミトコンドリア脳筋症は、主に遺伝子の変異が原因で発症する病気です。この遺伝子の変異は、次の2つのケースで起こります。 親から受け継ぐ場合 特に、母親からミトコンドリアDNAを遺伝するケースが多いです。 自然発生的に起こる場合 親から受け継いでいなくても、遺伝子の突然変異で発症することがあります。 現在の医学では、遺伝子の変異そのものを防ぐ方法はまだ見つかっていません。 予防法について ミトコンドリア脳筋症を完全に防ぐ方法はありません。しかし、以下の点に注意することで、症状の進行を遅らせたり、健康を保つ助けになる場合があります。 早期発見と治療 症状が出た場合は、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。 早期の診断と対症療法が、生活の質(QOL)の向上につながります。 健康的な生活習慣 栄養バランスの良い食事を心がけ、体に十分なエネルギーを供給します。 無理のない範囲で適度な運動を行い、筋肉や関節の機能を維持します。 医療機関での定期的なチェック 遺伝子検査や定期検診を通じて、体の状態をしっかり管理します。 特に家族にミトコンドリア脳筋症の患者さんがいる場合は、専門医の相談を受けると安心です。関連する病気
- MELAS症候群
- MERRF症候群
- Leigh症候群
参考文献
- 佐藤 猛・平訳浩子:分子臨床神経学の進歩.ミ トコンドリア病(ミトコンドリア脳筋症).ミト コンドリア脳筋症の病型と遺伝子異常の多様性.




