

監修医師:
前田 広太郎(医師)
ポンペ病の概要
ポンペ病は糖原病Ⅱ型とも呼ばれ、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)酵素の欠損または機能低下により、細胞のライソゾームにグリコーゲンが異常に蓄積される常染色体劣性遺伝性疾患です。乳幼児期早期に発症する乳児型と、それ移行に発症する遅発型があります。乳児型は心肥大、肝腫大、筋力低下を引き起こし、無治療の場合1歳前後で死亡します。遅発型の主な症状は筋力低下であり、予後は様々です。
ポンペ病の原因
ポンぺ病は常染色体劣性遺伝形式の先天代謝異常症で、酸性α-グルコシダーゼの異常により発症します。酸性α-グルコシダーゼは、ライソゾーム内でグリコーゲンを分解する酵素です。酸性α-グルコシダーゼの欠損により、グリコーゲンが蓄積すると、ライソソームが拡張し空胞化し、筋収縮に障害をもたらすと考えられています。さらに、ライソソームの分解酵素が細胞内に放出されるため、骨格筋構造が破壊されると考えられます。
発症年齢や症状の進行速度により、乳児型(古典型)と遅発型(小児型と成人型)に分類されます。本邦では乳児型が2割、遅発型が8割程度とされています。 乳児型は完全に酵素が欠損しており、主に心筋と骨格筋が病変となります。無治療の場合1歳以上で生存率できる割合は5~8%とされています。遅発型は酵素活性が正常の40%未満とされ、僅かに活性が残存しています。遅発型は発症時期により分類されます。小児型は乳児期から青年期までの発症で、進行性の心筋症を認めないもので、生後6ヶ月以降の発症となります。成人型は、青年期から成人後期までの発症で、幅広い年齢層で発症し、60~70代で発症する症例もあります。
ポンペ病の前兆や初期症状について
症状は発症時期や残存酵素活性により変化します。乳児型は全身の著明な筋緊張低下、難聴、心肥大、肥大型心筋症、肝腫大を認めます。遅発型は緩徐に進行する近位筋優位の筋力低下を呈し、通常心筋は侵されません。呼吸筋症状が優位に出現することも多く、鼻声、登攀性起立(臥位から立ち上がる際、手で膝や床を伝って体を支え、まるで登攀するように立ち上がること)、翼状肩甲(腕を挙上する時に肩甲骨の内側縁が浮き上がって、天使の羽根や折り畳んだ鳥の羽根のように見えること)などがみられます。他にも、難治性の下痢や便失禁、長期的な合併症として、構音障害、脳血管障害や脳の白質病変の出現などが報告されています。
ポンペ病の検査・診断
乳児型では血液検査でAST、ALT、CKの上昇、BNPの上昇などがみられます。X線、心電図、心エコーでは心肥大に伴う所見がみられます。 遅発型では血液検査でCKの上昇がみられます。呼吸機能検査で肺活量と努力性肺活量の低下がみられます。骨格筋CTでは筋委縮がみられ、筋電図では筋原性変化などがみられます。筋病理検査を行い特徴的な病理所見を確認します。確定診断は、酸性α-グルコシダーゼ酵素活性の低下や、遺伝子変異の同定が必要です。酵素活性測定にはリンパ球や筋生検、線維芽細胞や、濾紙血検体を用います。鑑別診断としてウェルドニッヒ・ホフマン病、その他糖原病、先天性ミオパチー、ミトコンドリア病などがあります。
ポンペ病の治療
主な治療法は酵素補充療法です。欠損酵素の遺伝子組換え製剤(アルグルコシダーゼアルファ)を2週間に1回点滴静注します。骨格筋の破壊が進行する前に早期に治療することが予後改善に繋がります。乳児型に対する発症前治療を行うことにより、生存率と生活の質改善が認められています。また、抗酸性α-グルコシダーゼ抗体と反応する交差反応性免疫物質の有無が治療効果に関与するとされます。交差反応性免疫物質がある人は、酵素補充療法は効きにくく、免疫修飾療法が試みられることもあります。支持療法として、呼吸機能の低下があれば、呼吸リハビリテーションや喀痰排出補助装置の使用、非侵襲的陽圧換気療法を病状に応じて行います。心筋症に対する薬物療法も行われます。近年では、シャペロン療法や遺伝子治療などの新たな治療法の研究も進められています。 骨盤帯筋力の徐々の低下(遅発型では特に顕著)、呼吸不全の進行、下気道感染、骨折のリスク上昇(転倒や骨粗鬆症による)、睡眠時無呼吸などの睡眠障害などが予後を左右します。
ポンペ病になりやすい人・予防の方法
ポンぺ病の発症頻度は乳児型で30万人に1人、遅発型で30万人のうち7人程度と報告されています。ポンペ病は常染色体劣性遺伝性疾患であり、両親が保因者である場合、子供が発症するリスクがあります。家族歴がある場合は、遺伝カウンセリングや出生前診断を検討することが推奨されます。 早期発見・予防としては、新生児スクリーニングの導入が重要で、全国で義務化はされていませんが、一部地域・医療機関で実施されています。
参考文献
- 日本先天代謝異常学会 編:ポンぺ病診療ガイドライン2018. 診断と治療社. 東京. 2018
- Kishnani PS, Corzo D, Nicolino M, et al:Recombinant human acid[alpha]-glucosidase:major clinical benefits in infantile-onset Pompe disease. Neurology 2007;68:99-109.
- Takaaki Sawada, et al: Current status of newborn screening for Pompe disease in Japan.Orphanet J Rare Dis . 2021 Dec 18;16(1):516.
- Eri Oda, et al: Newborn screening for Pompe disease in Japan.Mol Genet Metab . 2011 Dec;104(4):560-5.
- Up to date: Lysosomal acid alpha-glucosidase deficiency (Pompe disease, glycogen storage disease II, acid maltase deficiency)