監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
ライソゾーム病の概要
ライソゾーム病とは、体内の細胞に存在する「ライソゾーム」と呼ばれる小器官の機能に異常が生じることによって引き起こされる一群の遺伝性疾患で、複数の疾患を一括したライソゾーム病として、厚生労働省が定める難病や小児慢性特定疾病に指定されています。
ライソゾームは細胞内の小器官で、内部に不要な物質を分解する役割を持つ酵素を含んでいます。これらの酵素が遺伝的な理由で欠損または機能しなくなると、特定の物質が細胞内に蓄積し、次第にさまざまな健康問題を引き起こします。
この病気は進行性であり、症状は患者さんによって異なりますが、一般的には肝臓や脾臓の腫大、中枢神経系への影響、骨の変形などが見られます。
現在、約60種類のライソゾーム病が知られています。すべてを合計すると、7000人に1人くらいの頻度と言われていますが、それぞれの疾患は稀です。
具体的な病名は以下の通りです。病態名のほかに伝統的な病名がついているものは()内に併記しています。
- ゴーシェ病
- ニーマン・ピック病A型 / B型 / C型
- GM1ガングリオシドーシス
- GM2ガングリノシドーシス(Tay-Sachs病、Sandhoff病、AB型)
- クラッベ病
- 異染性白質ジストロフィー
- マルチプルサルファターゼ欠損症
- ファーバー病
- ムコ多糖症I型(Hurler/Scheie症候群)
- ムコ多糖症II型(Hunter症候群)
- ムコ多糖症III型(Sanfilippo症候群)
- ムコ多糖症IV型(Morquio症候群)
- ムコ多糖症VI型(Maroteaux-Lamy症候群)
- ムコ多糖症VII型(Sly病)
- ムコ多糖症IX型(ヒアルロニダーゼ欠損症)
- シアリドーシス
- ガラクトシアリドーシス
- ムコリピドーシスII型 / III型
- α-マンノシドーシス
- β-マンノシドーシス
- フコシドーシス
- アスパルチルグルコサミン尿症
- シンドラー病/神崎病(Schindler病/神崎病)
- ポンぺ病
- 酸性リパーゼ欠損症(Wolman病)
- ダノン病(Danon病)
- 遊離シアル酸蓄積症
- セロイドリポフスチノーシス
- ファブリー病
- シスチン症
ライソゾーム病の原因
ライソゾーム病は、特定の酵素を作る遺伝子に変化(変異)が生じることで発症します。これらの酵素は通常、細胞内で特定の物質を分解する役割を果たしていますが、その機能が失われると、時間とともに分解されない物質が細胞内外に蓄積してしまいます。以下は主な原因となる遺伝子変異のタイプと、それぞれ関連したライソゾーム病の例です。
常染色体劣性遺伝
これは両親どちらも常染色体遺伝子に変異があり、かつ子どもが両親から変異した遺伝子を揃って受け継いだ場合に発症します。例としてはゴーシェ病やポンペ病があります。
X連鎖性遺伝
この形式では、X染色体上に遺伝子変異があり、母親から変異した遺伝子を受け継いだ場合に発症します。ファブリー病やムコ多糖症Ⅱ型などが含まれます。ライソゾーム病は通常、親から受け継がれた遺伝子によって発症しますが、一部の場合には突然変異によって新たに発生することもあります。
ライソゾーム病の前兆や初期症状について
ライソゾーム病は、老廃物を正しく処理できないという特性から、産まれた時点では正常です。特定の酵素活性や遺伝子を検査しない限り、出生直後には診断できませんが、成長にしたがって徐々に以下のような症状が現れてきます。個々の疾患や重症度によって具体的な症状の現れ方が異なります。
肝脾腫(肝臓や脾臓の腫大)
肝臓や脾臓が腫れることがあります。
骨変形
骨の成長や形状に影響を及ぼすことがあります。
神経障害
中枢神経系への影響により、運動機能や知的発達に問題が生じることがあります。
皮膚症状
特定の疾患では皮膚に異常が現れることがあります。
発達遅延
乳幼児期には成長や発達が遅れることがあります。
症状が現れた際は、小児科、一般内科、内分泌内科などを受診しましょう。
ライソゾーム病の検査・診断
ライソゾーム病を診断するためにはいくつかの検査方法があります。また、早期診断が重要であることから新生児スクリーニングが導入されている疾患もあります。主な検査方法には以下があります。
血液検査
酵素活性を測定するための血液検査が行われます。この検査によって、特定の酵素が欠損しているかどうかを確認できます。
遺伝子検査
特定の遺伝子変異を確認するための検査です。この検査によってライソゾーム病であるかどうかを確定できます。
画像検査
CTスキャンやMRIなどで内臓や骨の状態を確認します。これによって腫大した臓器や骨変形などを評価します。
ライソゾーム病の治療
ライソゾーム病には治療法としていくつかの選択肢があります。ただし、多くの場合根本的な治療法は確立されていないため、治療は主に症状緩和と生活の質向上を目的としています。主な治療法には以下があります。
薬物療法
不足している酵素を補ったり、老廃物の蓄積を抑制するために行う治療です。たとえばゴーシェ病では、ライソゾーム内で不足するグルコセレブシダーゼを点滴で補う治療法が実用化されています。また、グルコセレブロシドの合成を抑制する効果がある内服薬による基質合成阻害療法も行われています。
またファブリー病の主な治療法も、不足しているα‐ガラクトシダーゼ(α-GAL)酵素を補充する酵素補充療法で、これにより細胞内に蓄積したグロボトリアオシルセラミド(GL-3)の分解を促進します。さらにファブリー病の遺伝子タイプによって、α-ガラクトシダーゼの構造を安定化させてGL-3の蓄積を抑制するシャペロン療法(酵素の働きをサポートする療法)も考慮されます。
造血幹細胞移植
ゴーシェ病やムコ多糖症では、重度の場合などに造血幹細胞移植が考慮されることがあります。
対症療法
ライソゾーム病の進行によって機能が低下した臓器や器官の痛みや不快感を和らげるために、薬物治療、リハビリテーション、また外科的処置などを行います。たとえばムコ多糖症では全身にムコ多糖が蓄積するため、中耳炎を治療するためにチューブを入れたり、視力低下に対して角膜移植を行ったり、あるいは頭蓋内の過剰な髄液を腹腔へ逃すVPシャントを留置したり、といった処置が必要となることがあります。
またファブリー病で心機能低下が進行した場合は、冠動脈バイパス手術やペースメーカー埋込みを行うことがあります。
治療後も継続的なフォローアップが必要であり、新たな症状や問題が現れた場合には速やかに医師に相談することが推奨されます。
ライソゾーム病になりやすい人・予防の方法
ライソゾーム病になりやすい人には以下のような特徴があります。
家族歴
家族内にライソゾーム病患者がいる場合、そのリスクが高まります。
遺伝的背景
特定の遺伝子変異を持つ人々はリスク要因となります。
遺伝性疾患であり完全な予防策はありませんが、以下は考慮する価値があります。
健康的な生活習慣
バランスの取れた食事や適度な運動を心掛けることで免疫力を高めることができます。
早期診断とスクリーニング
新生児スクリーニングなどによって早期発見につながります。家族歴などからリスク評価を行うことも重要です。
関連する病気
- ゴーシェ病(Gaucher病)
- ファブリー病(Fabry病):
参考文献