

監修医師:
前田 広太郎(医師)
低栄養の概要
低栄養とは、栄養障害の一つであり、栄養素の摂取不足、吸収障害、代謝障害、栄養素の喪失、栄養必要量の増大により起こります。乳児期、小児期、妊娠・授乳期、老年期に起こりやすいとされます。欠乏する栄養素により症状は様々です。診断は病歴の評価、栄養スクリーニング、栄養アセスメント、必要に応じて血液検査などを行い診断します。病態に応じた治療を行います。
低栄養の原因
乳幼児期はエネルギー必要量や栄養素が多く、低栄養に陥りやすいとされます。6ヶ月未満の栄養障害の主な原因として授乳困難、不適切な調乳、摂取不良あるいはミルク嫌い、先天性代謝疾患などといった病的状態、養育上の問題(不適切な生活環境、愛情形成の不具合、母親の精神疾患、愛情遮断症候群、虐待など)が挙げられます。6ヶ月~12ヶ月では加えてミルクアレルギーなどその他食物アレルギー、食物不耐症、離乳食開始の遅れ、その他先天疾患などの病的状態などが挙げられます。乳児期以降では、後天性の慢性疾患や、食事時の注意力散漫、不適切な食生活の環境なども原因となりえます。
妊娠・授乳期には、必要栄養素が増大します。また、妊娠悪阻による摂食不良や、異食症などが出現し低栄養となる可能性があります。
成人以降、特に老年期では、低栄養の要因は多岐にわたります。食事摂取量の不足の原因は、社会的要因・医学的要因・生理的要因に分類されます。社会的要因としては、高齢者の多くが独居であり、孤食が楽しさを損ない摂取量の減少を引き起こすとされます。また、収入が限られ、食費を医療費などに回す場合もあります。 菜食主義や極端なダイエット、偏食により特定の栄養素が欠乏することもあります。医学的要因としては悪性腫瘍(特に消化管)、うつ病、嚥下障害、脳卒中やパーキンソン病後の摂食困難、歯科的問題、口腔内の痛み、薬剤による食思不振なども摂取量低下の原因となります。また、急性・慢性疾患の多くは食欲や消化機能に影響を及ぼすとされます。生理的要因としては、加齢により味覚・嗅覚が低下し、食事の満足感が減ること、胃排出速度も低下し、早期の満腹感が生じやすくなり、食欲を調整するホルモン(グルカゴン、レプチン、グレリンなど)の感受性も加齢で変化し、満腹感が強まること、などが挙げられます。吸収障害としては、消化管疾患やその疾患に対する手術後、肝疾患や腎疾患などの慢性疾患により、タンパク質や脂質、ビタミンや鉄、その他微量元素などの吸収障害が起こることがあります。栄養素の喪失する原因として、慢性的な下痢や嘔吐などにより栄養が喪失する場合があります。必要な栄養素の増大としては、がんや感染症、慢性消耗性疾患や重症熱傷による必要量増大が挙げられます。低栄養は、サルコペニア(除脂肪体重の進行性の減少)の原因となります。
低栄養の前兆や初期症状について
乳幼児では体重増加不良で気づかれることが多いです。
妊娠中では、体重減少、胎児の発育不良や発生異常、妊娠悪阻による持続する嘔吐などが挙げられます。
成人・老齢期の低栄養では意図しない体重減少、筋委縮、皮膚状態の変化、浮腫など病態に応じた症状が出現します。
低栄養の検査・診断
乳幼児期の体重増加不良では、成長曲線や、カウプ指数(体重(g)/身長2(cm)×10、BMIと同義語 )、1日あたりの体重増加量で評価します。原因を診断するためには生活歴や病歴などの詳細な問診が重要となります。栄養障害が進行すると、二次的障害として成長障害、貧血、骨粗鬆症、甲状腺機能低下症、続発性免疫不全症、精神運動発達障害、低タンパク血症などを引き起こすことがあり、必要に応じて血液検査など各種疾患に対する検査を行います。
妊娠中の体重増加については、妊娠前BMIにより体重増加量指導の目安が異なります。低体重(BMI<18.5)は妊娠中に12~15kg、普通体重(18.5≦BMI<25)は10~13kg、肥満1度(25≦BMI<30)は7~10kg、肥満2度以上(BMI≧30)は上限5kgまで目安として個別に対応とされています。この基準よりも下回った場合には注意が必要です。妊娠悪阻により持続する悪心嘔吐があり、5%以上の体重減少があると脱水や飢餓の恐れがあり、ケトン尿や電解質異常などが見られるため、尿検査や血液検査などを行ったりします。尿中ケトン体が陽性であれば医学的介入を要するとされます。
成人や老年期の低栄養については、GLIM基準と呼ばれる国際基準があり、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少、病因(食物摂取量または同化作用の低下、疾患負荷/炎症の関与)を評価します。低栄養スクリーニングツールを用い、リスクありと判断されれば、栄養アセスメントとして主体的包括的評価(SGA)、簡易栄養状態評価(MNA)などを用いて栄養状態を評価します。必要に応じて、血液検査で血清アルブミン、プレアルブミン、トランスフェリン、電解質や微量元素、ビタミンの測定を行います。
低栄養の治療
乳幼児期の体重増加不良に対しては、原因により個別に治療する必要があります。器質的疾患がある場合には原疾患の治療を優先します。不適切な栄養摂取や生活環境が原因であれば適切な指導を行います。両親の育児困難や育児不安が強い場合、親子間の極度の接触不足、子供の食事摂取状況把握困難な場合は入院での精査・栄養指導も考慮します。生活環境に問題については重度の栄養障害や、二次障害が出現する場合や経口摂取が困難な場合は経鼻チューブによる栄養療法を行う場合があります。看護師や栄養士、保健師、ソーシャルワーカーと連携して支援することが重要となる場合もあります。
妊娠悪阻に対する治療は基本的には心身を安静にし休養を取り、ストレスを減らし症状が治まるのを待ちます。脱水が最も問題となるため、食事が取れなくても水分だけでも十分に補給することが重要です。外来治療では問診から適切な指導を行いつわりに対して予防・対策を行います。全身状態悪化や尿中ケトン体が強陽性(2+以上)の場合、脱水症状が持続する場合、肝機能検査や腎機能検査により異常値が出現した場合、ビタミンB1が低値をきたした場合は入院加療を要します。必要に応じて、ビタミンB1、B6の投与、電解質の補正を行い、制吐剤の投与を考慮します。
成人、特に老年期の低栄養の治療は原因・病態に応じた個別の治療を行います。うつ病や慢性疾患、薬剤など可逆性のある原疾患があれば原疾患の治療を優先します。ハリス・ベネディクト式を用いたエネルギー・たんぱく質必要量の見積りを行い、適切な栄養量を摂取することや、必要に応じて栄養士の介入や、社会的介入を検討します。
低栄養になりやすい人・予防の方法
乳幼児、妊娠中、高齢者は低栄養となりやすいとされます。特別な予防の方法は確立されておらず、病態に応じて早期発見・早期治療を行うことが合併症予防に重要となります。
参考文献
- 1)瀧谷公隆:乳幼児期の体重増加不良. 小児科診療 84巻 7号 pp. 929-933. 2021
- 2)髙橋 健太郎, 熊谷 麻子:妊娠悪阻. 臨床婦人科産科 69巻 4号 pp. 36-39. 2015
- 3)廣野靖夫:低栄養スクリーニングと低栄養診断. 内科 130(2):185~188, 2022
- 4)上島順子:低栄養診断におけるスクリーニングとアセスメント. 臨床栄養 145巻 1号 pp. 18-23. 2024
- 5)公益社団法人 日本産科婦人科学会, 公益社団法人 日本産婦人科医会:産婦人科 診療ガイドライン―産科編 2023.
- 6)Up to date:Geriatric nutrition: Nutritional issues in older adults