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脱水症
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

脱水症の概要

脱水症は体内のナトリウムおよび水分の喪失により循環血液量が低下する病態です。様々な解剖学的部位からの体液喪失や水分摂取不足が原因となり、高齢者や小児に多い病態です。口渇などの症状が出現しづらい場合もあり、重症例では痙攣、ショックをきたします。輸液を行う場合は水分・塩分の補充を輸液にて行います。

脱水症の原因

脱水は水分とナトリウムの喪失量により3種類に分類されます。
1)高張性脱水:水分喪失>ナトリウム喪失の場合で、細胞内脱水をきたします。発熱をきたす感染症や熱中症、口腔器疾患による嘔吐や下痢などによることが多いとされます。
2)低張性脱水:ナトリウム喪失>水分喪失の場合、細胞外液減少による循環不全をきたします。皮膚からの喪失、消化器疾患による嘔吐・下痢、消化液や体液腔の大量ドレナージ、利尿薬や低張性輸液などにより起こります。高齢者ではナトリウム保持能が低く、低張性脱水に陥りやすいとされます。
3)等張性脱水:水分とナトリウムが同時に失われた場合に起こります。発熱、下痢、熱傷、出血などでおこります。口渇、悪心、痙攣などの症状は起こりにくいですが、頻脈や低血圧などが出現します。
水分やナトリウムの喪失原因を部位別にまとめると、消化管からの喪失(嘔吐、下痢、消化管出血など)、腎臓からの喪失(利尿薬、浸透圧利尿、塩類喪失性腎症、低アルドステロン症など)、皮膚からの喪失(発汗、熱傷、皮膚疾患)、血管外への体液移動(急性膵炎などによる炎症など)が原因となります。
水分やナトリウムの摂取量低下の原因としては、頻尿や尿失禁の恐れから水分摂取を制限してしまったり、嚥下機能の低下や加齢による運動機能低下、認知機能低下も適切な水分摂取を困難にする要因です。

脱水症の前兆や初期症状について

症状として倦怠感、めまい、起立性低血圧、嘔吐、下痢、多尿もしくは乏尿、体重減少、などがあります。理学所見としては、皮膚粘膜所見(腋窩乾燥、口腔粘膜乾燥、舌縦皺、舌乾燥、眼球陥没)、神経学的所見(意識混濁、四肢脱力、痙攣、発語不明瞭)、起立性変化(脈拍増加、収縮期血圧低下)、循環不全所見(静脈再充満時間の遅延)などがあります。細胞内脱水では口渇、口腔・舌の乾燥、痙攣といった症状が多いとされます。高齢者では症状は特異的ではなく、口渇中枢の閾値が高く口渇を自覚しにくいため、水分補給が不十分となりやすく、無症状でも注意が必要です。

脱水症の検査・診断

血液検査ではクレアチニン、尿素窒素、尿素窒素/クレアチニン比、ヘマトクリット、血清総蛋白、血清尿酸値の上昇を示します。ナトリウムやカリウムといった電解質の異常の有無を確認します。尿所見では、高張性脱水では尿比重、尿中ナトリウム濃度は上昇し、低張性脱水では尿比重と尿中ナトリウム濃度の低下が見られます。嘔吐による代謝性アルカローシスでは尿中クロール濃度の測定が有用となります。原因によっては、超音波検査で血管内容量の低下の有無を確認したり、ホルモン検査を実施することもあります。

脱水症の治療

可能な限り経口での飲水・塩類摂取が望ましいですが、経口摂取が困難な場合は輸液療法を行います。循環不全がある場合は生理食塩水や乳酸リンゲル液でバイタルサインを安定させます。
高張性脱水の場合は、喪失した水分を投与するために5%ブドウ糖液や低張電解質輸液を基本とした輸液を行います。低張性脱水の場合は、生理食塩水を主体とした輸液を実施します。等張性脱水の場合には生理食塩水や乳酸リンゲル液を使用します。ナトリウム値の急激な補正により神経学的症状が出現するため、ナトリウムの補正は緩徐に行います。また、短時間の大量輸液は浮腫の増悪やうっ血性心不全・肺水腫などのきたす可能性があり注意が必要です。

脱水症になりやすい人・予防の方法

高齢者では体内総水分量や細胞内液量の低下に加え、生理機能の低下により、若年者と比較して水・電解質異常をきたしやすく、脱水に陥りやすいとされます。高齢者の脱水は自覚症状に乏しく、僅かな症状でも早期に脱水を疑う必要があります。また、乳幼児ではウイルス性胃腸炎の頻度が高く、下痢や嘔吐が起こりやすいこと、体表面積が体積と比して高く不感蒸泄(皮膚からの水分喪失)が多いこと、自分の欲求を適切に表現したり水分を自力で摂取できないことから脱水になることが多いです。乳幼児や高齢者では、炎天下など脱水になりそうな環境下では、口渇が無くてもこまめに経口補水液などで水分や塩分の補充をすることが予防に繋がります。


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参考文献

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