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ガス壊疽
久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。

ガス壊疽の概要

ガス壊疽(えそ)は、傷口から侵入した細菌が筋肉や軟部組織内で増殖し、毒性のあるガスを発生させながら筋肉の組織を壊死させていく感染症です。 
主な原因菌は土の中や人間の腸管内に常在しているクロストリジウム属の細菌で、酸素の少ない場所で増殖して毒素を産生します。

ガス壊疽は外傷や手術後の傷口、糖尿病患者の足部潰瘍などから発症します。
糖尿病やアテローム性動脈硬化症、大腸がん、肝硬変などの基礎疾患がある場合や、免疫力が低下している状態では発症リスクが高まります。
感染すると、数時間〜3日ほどの潜伏期間を経て症状が現れます。

主な症状は、感染部位の皮膚が青銅色になり、強い痛みや腫脹が生じます。
組織内でガスが産生されることにより、触診時にガスがたまっている触感が認められ、悪臭を伴うことも多いです。
病状が進行すると広範囲の筋肉組織が壊死し、感染のコントロールがつかない場合には多臓器不全に至ります(心臓や腎臓などの機能が落ちて全身状態が悪くなります)。

ガス壊疽は進行が早いため、迅速な診断と適切な治療が大切です。
主な治療法は大量の抗生物質の投与と壊死組織の除去になりますが、進行が抑えられない場合は、患肢の切断を検討することもあります。

ガス壊疽

ガス壊疽の原因

ガス壊疽の原因は、災害や交通事故による大きな外傷、手術によってできた傷、皮膚の潰瘍などから、ウェルシュ菌などのクロストリジウム属の細菌が侵入することです。

傷が深く重症である場合や筋肉が損傷している場合、土などによる汚染がある場合は発症しやすくなります。
糖尿病などで免疫力が低下している人も、体内に血液がいき渡りにくくなるため、発症リスクが高くなります。

ガス壊疽の前兆や初期症状について

ガス壊疽の初期症状は24時間以内に見られることがほとんどで、傷の周りに強い痛みを伴う赤い腫れが現れます。
腫れは急速に拡大し、青みのある色に変化して水ぶくれが生じます。
水ぶくれには血の混じった分泌物がたまり、傷口から悪臭を伴うことが特徴です。

全身症状として、発熱や脈拍の上昇、倦怠感が見られることもあります。
傷の周りの皮膚を押すとピチピチとした感触(ガス触知)が得られます。

治療が遅れると感染は筋肉組織の深くまで広がり、患部の皮膚が青みのある色から黒ずんだ色に変色していきます。
さらに進行すると、多臓器不全や敗血症が起き、ショック状態や昏睡状態に陥ります。
適切な治療がおこなわれない場合、死に至る可能性があります。

ガス壊疽の検査・診断

ガス壊疽の診断は、傷口に特徴的な所見がないか視診で確かめた後、画像検査や血液検査、培養検査の結果を元に進めていきます。

画像検査

画像検査では、X検査や筋肉内にガス像があるか確認したり、CT検査やMRI検査で壊死している筋肉組織の範囲を調べたりします。
ガス壊疽の診断材料になるだけでなく、適切な治療方針を決めるのに重要です。

血液検査

血液検査では白血球やCRPなどの炎症マーカーを測定し、感染の程度を確かめます。
筋肉組織の壊死が進んでいると、白血球やCRPだけでなく、CKの上昇も見られます。
多臓器不全の状態を確かめるために、肝臓所見のASTやALT、貧血所見のヘモグロビン、腎臓所見のクレアチニンなども測定します。

培養検査

培養検査では傷口から採取した膿や浸出液を培養し、ガス壊疽の原因菌を特定します。
ガス壊疽では、クロストリジウム属の細菌が検出されますが、他の感染症でも認められる可能性があります。
培養検査は適切な抗菌薬の選択に必要で、結果をもとに治療方針を検討していきます。

ガス壊疽の治療

ガス壊疽の治療では、進行を抑えるために抗生物質を投与しながらデブリードマンの処置が迅速におこなわれます。
患肢の切断や高圧酸素療法が適用されることもあります。

デブリードマン

デブリードマンとは、壊死している筋肉組織を取り除き、他の組織への感染の進行を防ぐ処置のことです。
場合によっては複数回の処置が必要になることもあります。
壊死組織の除去により抗生物質の効果を高め、患肢の温存や多臓器への進行予防につなげます。

抗生物質の投与

ペニシリンやクリンダマイシンなどの抗生物質を点滴により大量に投与します。
抗生物質の選択は培養結果にもとづいて調整されます。
デブリードマンの処置と併用され、高用量で継続的におこないながら感染の進行を抑制します。

患肢の切断

デブリードマンや抗生物質の投与をおこなっても症状が進行する場合は、患肢を切断します。
患肢の切断の目的は他臓器や全身への感染拡大を防ぎ、生命を守ることです。
切断後は適切なリハビリテーションと義肢の使用が重要で、生活の質を維持するための長期的なケアが必要になります。

高圧酸素療法

高圧酸素療法とは正常よりも高い気圧環境で高濃度の酸素を吸入させ、病態の改善を図る治療です。
体内に高濃度の酸素を取り込ませることで、菌の増殖を抑え、毒素の産生を減少させます。
他の治療法と併用しておこなうことが多く、ガス壊疽の進行を抑制し、組織の回復を促します。

ガス壊疽になりやすい人・予防の方法

ガス壊疽になりやすい人は糖尿病やアテローム性動脈硬化症、大腸がん、肝硬変などの基礎疾患がある人や免疫力が低下している人です。
特に災害時ではストレスや不十分な栄養摂取により免疫力が低下し、衛生状態も悪化するため、小さな怪我がガス壊疽発症のきっかけになる可能性が高まります。

予防のために、土や泥を触るときは怪我をしないように軍手などを装着しましょう。
万が一怪我をした場合は、傷口を清潔な水で十分に洗い流すことが大切です。
傷口に痛みや腫れ、膿などが現れたときは、速やかに医療機関を受診し、適切な処置を受けてください。


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