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ミトコンドリア病
久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。

ミトコンドリア病の概要

ミトコンドリア病は、身体の中にあるミトコンドリアがうまく働かないことで起こる病気です。
ミトコンドリアは、ほとんどの細胞に存在し、エネルギーを細胞に供給します。
「エネルギー工場」とも言えるミトコンドリアが正常に働けない場合、細胞が必要なエネルギーを作れなくなり、細胞がダメージを受けたり死んだりするため、身体のいろいろな部分に問題が出てきます。

多くのエネルギーを必要とする脳や神経、筋肉、目の網膜などが影響を受けやすいことがミトコンドリア病の特徴です。
症状は人によって異なり、疲れやすさ、筋力低下、視力の問題、発達の遅れなどが見られることがあります。

ミトコンドリア病

ミトコンドリア病の原因

ミトコンドリア病は、体の中のエネルギーを作る「ミトコンドリア」という小さな部分がうまく働かなくなることで起こる病気です。
ミトコンドリアの働きが悪くなる原因には、遺伝子の問題や薬の影響などがあります。
そのなかでも、主な原因は遺伝子の異常です。
ミトコンドリア病には大きく分けて二つのタイプがあります。
一つはミトコンドリア自身のDNAに問題がある場合、もう一つは核DNAに問題がある場合です。

ミトコンドリアには独自のDNA(遺伝情報)があり、このDNAに問題があると、ミトコンドリアがエネルギーを作る能力が低下します。
しかし、ミトコンドリアの働きはミトコンドリア自身のDNAだけではありません。
細胞の核にあるDNA(核DNA)によっても制御されています。
核DNAにはミトコンドリアの働きを助ける多くの遺伝子が含まれており、これらの遺伝子に問題があると、ミトコンドリアの機能が低下します。

どちらの場合も、ミトコンドリアがエネルギーをうまく作れなくなるため、身体にさまざまな症状が現れます。

ミトコンドリア病の前兆や初期症状について

ミトコンドリア病では、ミトコンドリアの機能の低下により、細胞の働きが弱くなったり、細胞が消滅したりします。
ミトコンドリアは、ほとんどの細胞に存在するため、身体のさまざまな場所に症状が現れます。
ミトコンドリア病の特徴は、どの年齢の人にも、どのような症状でも、どのような組み合わせでも現れる可能性があることです。
そのなかでも、エネルギーを多く必要とする神経、筋肉、心臓などの臓器に症状が現れやすいとされています。

中枢神経 けいれん、ミオクローヌス、失調、脳卒中様症状、知能低下、偏頭痛、精神症状、ジストニア、ミエロパチー
骨格筋 筋力低下、易疲労性、高 CK 血症、ミオパチー
心臓 伝導障害、WPW 症候群、心筋症、肺高血圧症
肝臓 肝機能障害、肝不全
腎臓 ファンコニー症候群、尿細管機能障害、糸球体病変、ミオグロビン尿
膵臓 糖尿病、外分泌不全
血液 鉄芽球性貧血、汎血球減少症
視神経萎縮、外眼筋麻痺、網膜色素変性
感音性難聴
小腸・大腸 下痢、便秘
皮膚 発汗低下、多毛
内分泌腺 低身長、低カルシウム血症

ミトコンドリア病の検査・診断

ミトコンドリア病は多様な症状を持つため、症状だけで確定診断はできません。
診断には、いくつかの検査を組み合わせて行います。

血液や髄液の検査

乳酸とピルビン酸のレベルを測定します。ミトコンドリアの機能が低下すると、これらの値が上昇することがあります。
ただし、すべての方で上昇するわけではありません。

画像検査

頭部MRIや脳波、誘発脳波、筋電図などを使用して、脳や筋肉の異常を確認します。
脳CTやMRIでは、梗塞様病変、大脳・小脳萎縮像、大脳基底核や脳幹に両側対称性の病変が見られることがあります。

病理検査

筋力低下などの症状がある場合、筋肉の一部を採取して顕微鏡で調べる方法です。
また、皮膚の一部を採取してミトコンドリアの酵素活性を測定することもあります。

遺伝子検査

最終的には、遺伝子検査で診断が確定することがあります。
核DNAやミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常を調べ、それぞれの遺伝形式を確認します。

ミトコンドリア病の治療

ミトコンドリアの機能を改善する治療方法はありません。
根本的な治療法がないため、症状を和らげるための対症療法が中心となります。

対症療法

現れている症状に合わせて、対症療法を行うことが大切です。
それぞれの臓器の専門家に検査や治療をしてもらいます。

たとえば、糖尿病がある場合は血糖値を下げる薬やインスリンを投与しないといけません。
てんかんがある場合には、てんかんを抑える薬が必要です。
心臓の伝達に問題がある場合はペースメーカーを使ったり、難聴がある場合には補聴器や人工内耳を使ったりします。
また、ひどい下痢や便秘、貧血などの症状に対しても、それぞれの治療が必要です。

ビタミンの補充

ミトコンドリア内の代謝経路では、各種のビタミンが補酵素として働いています。補充の目的で、水溶性ビタミン(ナイアシン、B1、B2、リポ酸など)、コエンザイムQ10がよく使用されます。
ただし、内服で補充したからといって代謝の改善は簡単ではありません。
普段の食事からバランスの良いものを摂ることが大切です。

ミトコンドリア病になりやすい人・予防の方法

ミトコンドリア病は、年齢に関係なく誰にでも何処にでも見られることがあります。
また、男女の違いもほとんどありません。
同じ遺伝子変異を持つ方であっても、症状が現れる臓器やその症状の種類や重さが異なることがあります。
これは、遺伝的背景や生活習慣などが影響している可能性があります。

予防としては、ミトコンドリアに負担をかけない生活を心がけることが大切です。

睡眠

疲れが残らないように十分な睡眠をとり、毎日決まった時刻に起きましょう。
生活リズムを整えることが大切です。
寝不足は避けてください。

食事

規則正しく栄養バランスの良い食生活を心がけましょう。
ビタミンを多く含むものがおすすめです。
アルコールや炭水化物の過剰摂取は、ミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害します。
極端なダイエットも控えてください。

環境

熱すぎる場所、寒すぎる場所は避けてください。
激しい運動も良くありません。

感染予防

風邪やインフルエンザなどの感染症、高熱は症状を悪化させることがあります。
予防接種を受けることや、感染予防に努めることが大切です。
手洗い、うがいを欠かさないようにしましょう。


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