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更年期障害
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

更年期障害の概要

性ホルモンの分泌量の減少やバランスの乱れが原因となり、心身に現れたさまざまな症状のうちほかの病気に伴わないものを「更年期症状」、更年期症状によって生活に支障が出るほどの状態を「更年期障害」と呼びます。女性では閉経の前後5年、個人差はありますが45~55歳くらいに多く、男性では40歳代以降になると発症します。何となく女性が悩まされる症状と思われがちですが、男性にも起こる症状です。ただし、女性は閉経後5年ほど経つと症状が落ち着いてきますが、男性の場合は更年期障害が発症する期間に終わりがない、という違いがあります。

更年期障害の原因

更年期障害の原因として、以下の理由が考えられます。実際にはさまざまな原因が複雑に絡み合って発症するため、複数が該当する場合も珍しくありません。

性ホルモンの減少

前述の通り、男女とも加齢による性ホルモンの減少が主な原因です。女性の場合は、閉経の前後10年で卵巣機能が低下し、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの分泌量が大きな揺らぎと共に低下します。男性の場合は、40歳以降の中年になるとテストステロンと呼ばれる男性ホルモンが徐々に低下していきます。

さまざまなストレス

更年期障害が発症しやすい40代~50代は、仕事や家庭内の環境の変化が多い年代でもあります。仕事のストレス、子育てや介護のストレス、子どもの巣立ちのストレス、親しい人の死などの環境下に置かれている人は、心理的、社会的なストレスも大きく関わって更年期症状が強く現れる傾向にあります。

元々の性格

几帳面、神経質、完全主義、こだわりが強い、依存心が強い、といった性格の人は更年期症状が強く現れると言われています。育ってきた環境(成育歴)とも関連すると考えられています。

更年期障害の前兆や初期症状について

女性では、閉経前5年くらいから更年期と呼ばれる状態となります。更年期の始まりはホルモンバランスの乱れから月経不順になることも多く、月経周期が乱れる、短くなるなどの変化が出てきたら更年期の始まりと考えていいでしょう。

更年期障害の初期症状

更年期の時期や症状は人によってさまざまなので一概には言えませんが、訴える人が多い症状として以下のようなものが挙げられます。これらの症状をまとめて「不定愁訴」と呼ばれることもあります。

  • ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗
  • 憂うつ、無気力
  • 情緒不安定、イライラ
  • 性欲低下
  • 腰痛、肩こり、関節痛
  • 耳鳴り
  • めまい
  • 頭痛
  • 動悸、息切れ
  • 疲れやすさ
  • しびれ
  • 皮膚のかゆみ、湿疹

更年期障害の症状の程度には個人差があり、全ての人が自覚するわけではありません。身体的、心理的、社会的な原因が複雑に絡み合って発症するため、「更年期症状は100種類くらいある」と言われるほど多岐に渡ります。更年期障害の前兆や初期症状が見られた女性が受診すべき診療科は、婦人科です。更年期障害はホルモンの変化による症状であり、婦人科で診断と治療が行われています。

更年期障害の検査・診断

更年期障害の症状は多岐に渡っており、特に甲状腺の病気や精神的な病気と似ているので、診断において紛らわしいことがあります。ほかの病気の可能性を否定するため、検査は大変重要です。

問診

更年期障害の診断は、十分な問診からスタートします。起こっている症状に加え、月経の状態や既往歴や現病歴、家庭や仕事の環境、成育歴といった情報を詳しく聞き取り、ストレスになりそうな要因がどこにあるか確認します。インターネット上でもセルフチェックが行えるため、心当たりがある方は受診の目安にするのも良いでしょう。(参考:「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」より更年期障害チェック

血中ホルモン濃度測定

血液検査で性ホルモンの分泌量を調べます。基準値よりも低下している場合、男女とも更年期障害の診断基準に当てはまります。女性の場合、エストロゲンの値が低下し、卵胞刺激ホルモンと呼ばれるホルモン値が上昇します。男性の場合、テストステロンの値が低下します。

ほかの病気を否定するための検査

似たような症状の病気を否定するため、血液検査で肝機能、脂質異常、甲状腺ホルモン値などの項目を調べることがあります。また、婦人科疾患を否定するために婦人科で超音波検査や内診が行われることもあります。

更年期障害の診断

日本産科婦人科学会によると、女性の更年期障害の診断では

  • 卵巣機能の低下
  • 加齢に伴う身体的変化
  • 精神・心理的な要因
  • 社会文化的な環境因子

といった項目を総合的に評価します。

男性の更年期障害の場合、日本泌尿器科学会、日本Men’s Health医学会によると、

  • 加齢に伴う身体的変化
  • 精神・心理的な要因

の評価に加えて、血液検査で男性ホルモンの低下を確認することがあります。

更年期障害の治療

更年期障害の治療は、薬物療法や生活習慣の改善、カウンセリングなど、それぞれの症状に合わせて多角的に行われます。

ホルモン補充療法(HRT)

女性では、少量のエストロゲンを補充する治療法が行われます。エストロゲンのみ投与すると子宮内膜増殖症のリスクが増加するため、子宮がある方は黄体ホルモンも併用します。ホルモン剤の種類には内服薬、貼付薬、外用薬などがあり、投与法もさまざまです。1人1人に合わせて最適な方法が選ばれます。男性の更年期障害では、ホルモン値が著しく低く、症状が重い場合にテストステロン補充療法を行うことがあります。2〜4週に1度の筋肉注射による方法です。

漢方

漢方には心身全体のバランスを整える働きがあるとされており、体質に合わせて漢方が処方される場合もあります。漢方単独の場合もあれば、ホルモン補充療法と併用する場合もありさまざまです。女性の場合、体質に合わせて婦人科に効果がある当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などがよく用いられます。

その他の薬物療法

精神的な症状が強い場合は、催眠鎮静薬や抗不安薬などの向精神薬や、SSRI、SNRIといった抗うつ薬が処方されることがあります。男性の場合は抗ED薬も処方の候補となります。

カウンセリング

更年期障害の原因は環境要因や性格によるものも大きく、薬物療法だけでは効果が不十分なこともあり、そういった場合はカウンセリングが有効なことがあります。

生活習慣の見直し

バランスの取れた食事による栄養管理、運動習慣の改善などの生活習慣の見直しも更年期障害の治療に必要だと考えられています。男性のストレスや睡眠不足はテストステロンの減少に影響すると言われているため、特に意識すると良いでしょう。

更年期障害になりやすい人・予防の方法

更年期障害は、主に加齢による性ホルモンの減少が原因のため誰にでも起こる可能性があります。更年期は平等に訪れるものですので、不調を感じたら早めに医療機関を受診して症状と付き合うような心がけをするといいでしょう。

更年期障害になりやすい人

原因でもご紹介したように、

  • 大きなストレスを感じている
  • 几帳面、神経質、完全主義、こだわりが強い、依存心が強いと言われることがある

といった人は更年期症状を強く感じると言われています。

更年期障害の予防法

  • ストレスを解消する方法を見つける
  • 栄養バランスが取れた食習慣を心がける
  • 定期的な運動習慣を持つ
  • 男性の場合、適切な睡眠時間をとる

といった原因に対処する予防法のほか、「更年期は誰にでも訪れる」ととらえ、

  • 40代以降に体調不良が起こる可能性があること
  • 症状は個人差が大きく、人と比べられないこと
  • 症状には治療法があること
  • 生活パターンを見直すこと

などを心がけ、更年期症状を受け入れる体制も必要です。

更年期障害が現れたとしてもネガティブになり過ぎず、症状に対処しながら生き生きとした日々を送ることも更年期障害の予防となります。


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