

監修医師:
五藤 良将(医師)
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全身性エリテマトーデス(SLE)の概要
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus、略してSLE)は、自己免疫疾患のひとつであり、自分の細胞に対する抗体を産生し、炎症を引き起こす病気です。20〜40歳の女性に多く見られ、男女比は1:9と女性に圧倒的に多い病気です。日本では6万人以上の患者さんがいるとされています。SLEは指定難病の一つであり、長期にわたる治療が必要であり、発熱、皮膚・粘膜症状(蝶形紅斑)、頭痛、心臓病、間質性肺炎、血尿、消化管出血、血栓など全身に症状が現れます。
これらの症状は、急に現れる人もいれば、徐々に進行する人もいます。また、症状が一時的に軽減する寛解期と、再び悪化する再燃期を繰り返す場合が多いです。
全身性エリテマトーデス(SLE)の原因
全身性エリテマトーデス(SLE)の正確な原因は未だに解明されていませんが、遺伝的要因や環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的要因
一卵性双生児でのSLEの一致率が25〜50%程度であることから、環境因子の重要性が示唆されます。遺伝子が同じであっても全員が発症するわけではないため、遺伝的素因だけでなく、環境要因も発症に重要な役割を果たしていると考えられています。
環境要因
環境要因としては、紫外線(UV)曝露、ウイルスや細菌感染、薬剤の使用、妊娠・出産、外科手術、ストレスなどが発症や病状悪化の引き金です。特に紫外線は、皮膚症状の悪化だけでなく、全身性の症状を悪化させる可能性があり、日光に長時間さらされることがSLEの発症や再燃のきっかけとなることがあります。
妊娠や出産が発症のきっかけとなることもあり、女性ホルモンの変動が影響する可能性があります。
全身性エリテマトーデス(SLE)の前兆や初期症状について
全身性エリテマトーデス(SLE)の初期症状は非常に多様であり、患者さんによって異なります。初期症状としては、発熱、全身倦怠感、関節痛、皮膚の発疹(特に蝶形紅斑)、口内炎、脱毛、光線過敏症などが挙げられます。
発熱
発熱は、SLEの初期症状としてよく見られます。発熱は38度以上の高熱が続くことが多く、全身の炎症を示唆する重要な症状です。また、発熱を契機に寒冷による短時間の末端色調変化(白→紫→赤と変化)であるレイノー現象が見られる場合があるのも特徴です。
全身倦怠感
全身倦怠感や易疲労感も初期症状としてよく見られます。患者さんはだるさや疲れやすさを感じ、日常生活に支障をきたすことがあります。これらの症状は、他の病気と区別がつきにくいため、注意が必要です。
関節痛
関節痛は、SLEの初期症状の中で最も多く見られる症状の一つです。関節痛は、手首や指、肘、膝などさまざまな関節に現れるのが特徴です。関節の腫れやこわばりを伴うこともありますが、関節破壊は通常見られません。
皮膚の発疹
皮膚の発疹は、蝶形紅斑が特徴的です。蝶形紅斑は、鼻から両頬にかけて現れる蝶のような形をした赤い発疹で、かゆみや痛みはないことが多いです。日光に当たると悪化することがあり、日光過敏症も初期症状として見られます。
口内炎
口内炎は、口の奥や上あご、頬の部分にできる痛みのない潰瘍で、自分では気づきにくいことがあります。鼻やのどの粘膜にもできることがあります。
脱毛
脱毛は、SLEの初期症状として見られることがあり、特に頭髪の脱毛が特徴的です。脱毛は一時的なものであることが多いですが、再燃期には再び脱毛が見られることがあります。
これらの症状がみられた場合、皮膚科、内科などを受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
全身性エリテマトーデス(SLE)の検査・診断
全身性エリテマトーデス(SLE)は、問診・視診・触診・血液検査・尿検査・画像検査などを総合的に行い診断します。SLEの診断は難しく、他の自己免疫疾患との鑑別が必要です。SLEの診断基準としては、2019年欧州リウマチ学会/米国リウマチ学会SLE分類基準が用いられます。これらの基準に基づき、患者さんの症状や検査結果を総合的に判断して診断が下されます。
問診・視診・触診
SLEでは、全身に症状が現れるため問診・視診・触診が大切です。問診では、日光に長時間当たったか、家族に膠原病の人はいないかなど発症の要因について聞きます。視診や触診で皮膚や関節の状態を確認しますが、皮膚では特徴的な蝶形紅斑が見られるため視診は重要です。
血液検査
血液検査では、血液中の自己抗体の有無を調べます。抗核抗体は、SLE患者さんの診断にとって重要な検査です。抗ds-DNA抗体や抗Sm抗体は、SLEでよくみられる自己抗体であり、診断の確定に役立ちます。また、白血球や血小板の減少、貧血なども確認します。
尿検査
尿検査で腎機能の異常を早期に発見することが重要です。異常が軽度でもSLEが疑われる場合は、腎生検(腎臓の組織を採取して顕微鏡で病変を確認する検査)を行うことがあります。
画像検査
画像検査では、X線・CT・MRI・超音波検査などを行い、内臓の病変や関節の状態を評価します。特に、脳や心臓、肺、腎臓などの重要な臓器の評価が必要です。
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療は、免疫反応と炎症を抑えることを目的とした薬物療法、抗凝固療法、対症療法があります。治療は、患者さんの症状や病態の重症度に応じて個別に調整されます。
薬物療法
ステロイド(副腎皮質ホルモン)は、SLEの治療において最も一般的な薬剤の一つです。ステロイドは、強力な抗炎症作用を持ち、急性期の炎症症状を迅速に改善します。治療開始時には十分な量を使用し、病気の勢いが抑えられれば徐々に減量します。しかし、長期大量使用による副作用(骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、感染症など)が問題となるため、慎重な管理が必要です。
ステロイドの効果が弱いか副作用が強い場合に、免疫抑制薬が用いられます。免疫抑制薬は、過剰な免疫反応や炎症反応を抑える薬です。代表的な免疫抑制薬には、アザチオプリン、シクロフォスファミド、タクロリムス、サイクロスポリンA、ミコフェノール酸モフェチルなどがあります。これらの薬剤は、免疫システムの異常な活動を抑制し、病気の進行を遅らせます。
対症療法
対症療法としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痛薬が使用されます。これらの薬剤は、関節痛や筋肉痛、発熱などの症状を緩和します。
全身性エリテマトーデス(SLE)になりやすい人・予防方法
全身性エリテマトーデス(SLE)は、特定のリスク要因を持つ人に発症しやすいことが知られています。特に、20〜40歳の女性に多く見られ、男女比は1:9と女性に圧倒的に多い病気です。遺伝的要因、環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
SLEの対策としては、紫外線対策が重要です。日光に当たる際には、日焼け止めや帽子、長袖の衣服を着用するなどの対策を行い、紫外線の影響を最小限に抑えましょう。また、感染症予防のために、手洗いやうがい、マスクの着用などの基本的な衛生対策を徹底することが大切です。
さらに、ストレス管理も重要です。ストレスはSLEの発症や再燃の引き金となることがあるため、適度な運動やリラクゼーションを取り入れて、ストレスを軽減することが推奨されます。
定期的な健康チェックや医師の指導を受け、リスク要因を理解し、適切な対策を講じて早期発見・早期治療へとつなげましょう。
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参考文献