目次 -INDEX-

山田 克彦

監修医師
山田 克彦(佐世保中央病院)

プロフィールをもっと見る
大分医科大学(現・大分大学)医学部卒業。現在は「佐世保中央病院」勤務。専門は小児科一般、小児循環器、小児肥満、小児内分泌、動機づけ面接。日本小児科学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医。

川崎病の概要

川崎病は5歳以下の乳幼児に好発する中型動脈を主体とする全身性の血管炎症候群です。1967年に川崎富作博士によって初めて報告されました。
日本やアジアを中心に世界60カ国以上で報告されており、これまでに日本では30万人以上の小児が罹患しています。
川崎病は特に心臓に栄養を送る冠動脈に重大な影響を及ぼす可能性があるため、早期診断と適切な治療が重要です。

川崎病の原因

川崎病の原因はまだ完全には解明されていませんが、環境要因、感染、遺伝的要因、免疫応答の異常などが複合的に関与していると考えられています。
今後もさらなる研究が必要であり、川崎病の原因究明が進むことで、より効果的な予防と治療法が確立されることが期待されています。

1.環境要因説

生活環境因子が川崎病の発症に関与しているという仮説です。例えば、大気汚染や特定の地域での環境変化が川崎病の発症リスクを高める可能性があります​​。

2.感染説

ウイルスや細菌の感染が川崎病を引き起こすという仮説です。特に、Epstein-Barrウイルス(EBウイルス)やブドウ球菌のスーパー抗原が関与している可能性が示唆されています​​。

3.遺伝的要因

川崎病は特定の遺伝的背景を持つ人に多く発症することが知られています。特に、東洋人、特に日本人に多いという特徴があります。遺伝的な素因が川崎病の発症に重要な役割を果たしていると考えられています​​。

4.免疫応答の異常

川崎病は、免疫系の異常な反応によって引き起こされている可能性があります。川崎病の急性期にBCGワクチン接種部位の発赤が見られることがこの仮説を裏付けている可能性があります。

5. 自然免疫と病原体関連分子パターン

川崎病の発症には、病原体関連分子パターン(PAMPs)と自然免疫細胞の相互作用が関与している可能性があります。これは、感染によって引き起こされる免疫反応が川崎病の発症に寄与するという仮説です​​。

川崎病の前兆や初期症状について

川崎病の初期症状は非特異的であり、感染症などの区別が難しいため、診断が難しい場合があります。以下に主要な症状を挙げます

1.発熱

腋下温37.5度以上の発熱があり、川崎病の94-97%の症例で見られます。発熱は,治療が始まっていない場合には一般的に5日以上続きます。乳児では発熱に伴いとても機嫌が悪くなるのが特徴です。

2.眼球結膜の充血

93%の頻度で見られ、眼脂はほとんど認められません。白目の部分が血走ったような目に見えます。

3.口腔粘膜の変化

口唇の紅潮、ひび割れ、いちご舌(舌の乳頭が腫れて赤くなる)が見られます。口唇の発赤は長く残り、解熱後1-2週間続くこともあります。

4.四肢末端の変化

手足の紅斑や硬性浮腫が見られ、出現は5日以内で2-3日で消退することが多い傾向です。回復期には指尖部や爪周囲の皮膚に皺や亀裂が入ることもあります(膜様落屑)。

5.発疹

体幹や四肢に多様な形態の発疹が出現し、特に股間部に出やすいです。また、BCG摂取痕の変化は3-20ヶ月の間に70%以上の頻度で見られます。

6.頸部リンパ節腫脹

ほかの主要症状に比べると発現頻度は65%と低いですが、3歳以上では約90%の頻度で見られ、初発症状になることも多いようです。
その他、特異的ではないが川崎病で見られることがある所見

消化器症状
腹痛、嘔吐、下痢など、軽いものを含めると約3分の2の症例で見られます。
呼吸器症状
約3割の症例で鼻汁や咳嗽が見られます。
関節症状
2.0-7.5%の頻度で関節痛が見られます。

川崎病の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、小児科です。川崎病は小児に多く見られる血管炎であり、小児科での診察が必要です。

川崎病の検査・診断

川崎病の特異的な診断法はありません。日本では厚生労働省川崎病研究班委員会によってまとめられた「川崎病診断の手引き」に従って診断が行われます。
川崎病の診断は、
発熱
眼球結膜充血
口腔粘膜の変化
四肢末端の変化
発疹
頸部リンパ節腫脹
上記の6つの主要症状のうち5つ以上を有する場合、または4つの症状しか認められなくても経過中に冠動脈瘤が確認され、ほかの疾患が除外された場合に行います。

診断の補助として行う検査として以下のものがあります。

1. 血液検査

血液検査は、川崎病の診断において重要な役割を果たします。炎症の程度やほかの疾患との鑑別を行うための情報を提供します。

白血球数
川崎病では白血球数が増加することがあります。
CRP(C反応性蛋白)
炎症の程度を示す指標であり、川崎病では上昇します。
アルブミン
血液中のアルブミン値が低下することがあります。
ナトリウム
低ナトリウム血症が見られることがあります。
肝機能
肝機能の指標(AST、ALT)が上昇することがあります。

2. 尿検査

尿検査も診断の補助として行われます。特に乳児において有用です。

尿中白血球
尿中に白血球が増加している場合、川崎病の可能性が高まります。

3. 心臓超音波検査(エコー)

心臓超音波検査は、川崎病による冠動脈の病変を確認するために行われます。これは川崎病の診断において大変重要です。

冠動脈の拡大
冠動脈の内径が拡大しているかどうかを確認します。
僧帽弁閉鎖不全
心臓の弁が正常に機能しているかを評価します。
心膜液貯留
心臓を包む膜に液体がたまっているかどうかを確認します。

鑑別診断
ほかの疾患を除外することも重要です。鑑別診断には以下のような感染症や薬疹、リウマチ性疾患があります。

  • アデノウイルス感染症
  • 溶連菌感染症
  • EBウイルス感染症
  • エルシニア感染症
  • 麻疹
  • Stevens-Johnson症候群

川崎病の治療

川崎病治療の基本的な考え方は、急性期の強い炎症反応を可能な限り早期に終息させることです。発症して7日以内に治療を開始することが望ましいです。標準治療は免疫グロブリンとアスピリンの併用です。川崎病の治療は、早期診断と迅速な治療が重要です。治療の目的は、炎症を抑え、冠動脈の病変を予防することです。

1.免疫グロブリン静注療法(IVIG)

IVIGは、1983年に初めて使用され、その後標準治療として確立されました。この治療法は、冠動脈瘤の発生を劇的に減少させることができます。
方法:2g/kgの免疫グロブリンを単回投与します。

2.アスピリン

アスピリンは、抗炎症・抗血小板作用を持ち、川崎病の治療において重要な役割を果たします。
方法:初期の高用量から維持の低用量に減らしていきます​​。

3.プレドニゾロン併用療法

プレドニゾロンはステロイド薬で、強力な抗炎症作用があります。症例を選んでIVIGと併用することで効果が増します。ステロイドによる治療には他に、大量のメチルプレドニゾロンを点滴静注するメチルプレドニゾロンパルス療法もあります。
方法:初期にIVIGと併用し、解熱後に経口投与に切り替え、漸減していきます​​。

4.シクロスポリン併用療法

シクロスポリンは免疫抑制薬で、強力な抗炎症作用があります。
方法:IVIG不応予測例に対して使用され、5 mg/kg/日を5日間投与するほか、注射薬の投与法も含めていくつかの投与方法があります。

5.インフリキシマブ

インフリキシマブはTNF-α抗体薬で、難治性川崎病の治療に使用されます。
方法:IVIG不応症例に対して使用されますが、3rd lineの治療薬として位置付けられています​​。

6.血漿交換療法

川崎病の病態に関与する炎症性サイトカインやケモカインを血液中から直接除去し、高サイトカイン血症を是正する治療法です。
方法:体外循環を用いる治療法で、他の治療法が無効な場合の最終的手段として試みられることが多く、いわゆる集中治療に当たり、実施可能な施設は限られています。なお、ここまでやっても冠動脈合併症リスクはゼロにはなりません。

新たな治療法の開発
近年では、ほかの免疫抑制療法や生物学的製剤を用いた治療法も研究されています。これにより、個々の患者さんに最適な治療法を選択する基準が求められています

川崎病になりやすい人・予防の方法

川崎病の原因が解明されていないため、明らかなリスク因子を挙げることは難しいですが、以下の傾向があります

年齢

5歳以下の子どもに多く発症し、0歳後半から2歳に発症のピークがあります。

性別

男児にやや多く発症する傾向があります。

地域

日本やアジアでの発症率が高いことが知られていますが、世界中で報告されています。

季節

冬から春にかけて発症が多い季節性が認められています。

原因が特定されていないため、予防方法はありません。ただ、心臓の冠動脈合併症を回避するには治療開始は早い方が有利である一方、発熱から1日や2日で川崎病と診断できることはほとんどありませんので、発熱初期に風邪だと言われていても発熱が3〜4日以上続く場合は、この記事にあるような症状が当てはまらないかよく観察して小児科の医師に相談しましょう。

この記事の監修医師