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腎性貧血
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

腎性貧血の概要

腎性貧血は、エリスロポエチンというホルモンが腎臓から十分放出されなくなることによっておこる貧血のことです。
腎性貧血の症状は一般的な貧血のものと大きな違いはなく、息切れや倦怠感が代表的ですが (参考文献 1)、患者さんは慢性腎臓病 (CKD) を背景にもつので浮腫みや高血圧、倦怠感といった腎機能低下による症状に悩まされます (参考文献 2) 。
貧血の原因により治療方針が大きく変わってくるので、薬剤や他の血液疾患を丁寧に除外した後に腎性貧血の診断にいたります (参考文献 3) 。
治療は足りなくなったEPOの作用を補うような製剤を中心に進めていきます (参考文献 3-4) 。
CKDの予防や早期発見・早期治療が腎性貧血の予防になります。

腎性貧血の原因

腎性貧血はその名の通り、腎臓病が原因となる貧血のことです。医学的には「貧血」は血液中の赤血球が少なくなり、全身に十分な酸素を供給できなくなることをいいますが、腎臓が悪くなることも赤血球不足の原因になりえます。
通常であれば赤血球が少なくなってきたり低酸素状態になるとエリスロポエチン (EPO) というホルモンが腎臓から分泌されます。EPOは赤血球を増やす効果があり、腎臓のはたらきによって貧血状態が改善されるわけです。
何らかの原因があり機能が低下した腎臓では、EPOの産生も上手くいかなくなって貧血になることがあり、これを腎性貧血とよびます。

腎性貧血の前兆や初期症状について

「腎性貧血」としての自覚症状は貧血と同様のものです。貧血の一般的な症状としては、運動時の疲労感増、息切れがする、頭痛、イライラといったものがあります (参考文献 1) 。
腎性貧血になる患者さんは、貧血症状の前に腎機能悪化による症状に悩まれる場合も多いかと思います。慢性腎臓病の症状としては次のようなものがあります (参考文献 2) 。

  • 浮腫み(むくみ)
    特に下肢が浮腫みます。足首、くるぶしあたりに親指で押すと跡が残る浮腫みができやすいです。
  • 高血圧
  • 倦怠感

腎性貧血に関しては職場の検診などで「腎臓の値が悪い」と言われれば病院へ行くことが、腎臓疾患の進行や貧血への腎性貧血の併発を防ぐことができて一番良いです。
その他にも尿が泡立つ、血尿があるといった症状を自覚する場合や、先ほどの慢性腎臓病の症状、貧血の症状が出ればすぐに病院を受診し、早い段階で治療をしましょう。

腎性貧血の検査・診断

貧血の原因精査として検査を進める場合には、貧血の原因となる他の病態を除外し「すくなくとも腎臓病が貧血の原因にはなってる」といえるまでデータを集めることが重要です。そのために次のような検査をしていきます (参考文献 3) 。

  • 貧血の原因となる薬剤を使っていないか確認する
  • 血小板や白血球の数や形に異常がないか確認する
  • 白血病などの他の血液疾患がないかを確かめます
  • 血液検査で赤血球の大きさやヘモグロビンの値を測定する
  • 若い赤血球 (網状赤血球) の数を測定し、溶血性貧血や出血などと鑑別します
  • 血中のEPO濃度を測定する

貧血の原因は非常に多く、たとえ腎臓疾患に悩まれている方の貧血でも「腎性貧血」と決めつけることはできません。いくつかの原因が重なっている場合もありますので、丁寧に検査と評価をしていきます。
原因によって治療方針が違うことも多く、特に白血病に代表されるような骨髄系の悪性疾患を腎性貧血と思い込んで治療していると、悪性疾患の進行や、使用薬剤による副作用で命を落としかねません。

腎性貧血の治療

腎性貧血の治療はEPOの不足を補うような薬剤 (ESA製剤) の投与が中心となります (参考文献 3) 。ESA製剤の効果や副作用の有無を定期的に評価しながら、適切な治療にもかかわらず効果が不十分な場合には必要最小限度の輸血をする場合もあります (参考文献 3) 。
もちろん背景の腎疾患の治療・管理も並行して行います。
最近ではESA製剤に加えてHIF-PH阻害薬とよばれる製剤も選択肢に入ってきました。経口で治療できるというメリットがありますが、使用前に眼科疾患や悪性疾患のチェックが必要です (参考文献 4) 。

腎性貧血になりやすい人・予防の方法

ベースとなる腎疾患や腎機能障害がある人は腎性貧血発症のリスクを抱えているといえます。何らかの腎疾患や腎機能障害が3カ月以上続くことを慢性腎臓病 (CKD) とよびますが (参考文献 5) 、このCKDが進行して腎機能がどんどん下がってくることを防ぐことが一番の腎性貧血予防になります。

CKDの発症予防は腎性貧血の発症予防にもなります。CKDの原因には色々なものがありますが、原因の1つである糖尿病や高血圧のような生活習慣病の予防はCKDの発症を防ぐことにつながります。その点では運動習慣や食習慣を見直すことはCKD や腎性貧血の予防になるといえるでしょう。
○○腎炎と名前がつくものの中には、しっかりと治療をすることで完治や腎機能の低下を長期にわたって防ぐことができるものも多いです。
学校や職場の検診で腎臓や血糖、血圧のことを指摘されたら放置せず、速やかに適切な治療を開始することで、腎性貧血の発症を予防することができるでしょう。


参考文献

  • 1.UpToDate. Patient education: Anemia overview (The Basics)
  • 2.UpTODate. Patient education: Chronic kidney disease (The Basics)
  • 3.日本透析医学会. 2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン. 透析会誌 49(2): 89~158. 2016
  • 4.日本腎臓学会, HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation. 日腎会誌 2020; 62(7): 711‒716.
  • 5.UpToDate. Overview of the management of chronic kidney disease in adults. Jun 11, 2024.

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