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尿崩症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

尿崩症の概要

尿崩症は尿がたくさん出てしまう病気です。脳から分泌される抗利尿ホルモン (バソプレシン) は体内の水分バランスを保つために腎臓に働きかけ、尿の量を調節します。バソプレシンが不足すると、腎臓は水分を十分に再吸収できず、大量の尿が作られます。原因は、バソプレシンを十分に作れない場合や、腎臓がバソプレシンに反応できない場合があります。その結果、のどの渇きが強くなり、水をたくさん飲んでも尿の量が増え続けます。適切な治療を受けることで、症状はコントロールできますが、放置すると脱水症状を引き起こす可能性があります (参考文献 1) 。

尿崩症の原因

尿崩症の原因は大きく分けて2つあります。
1つ目は、脳にある下垂体という部分が抗利尿ホルモン (バソプレシン) を十分に作れない場合です。腎臓では、体内の水分が一度尿細管に排出され、その後必要な分だけ再吸収することで体内の水分量を調節しています。下垂体で分泌される抗利尿ホルモン (バソプレシン) は水の再吸収を促進する作用を持っていますが、下垂体からの分泌が低下してしまうと、大量の尿が出るようになってしまいます。このタイプは「中枢性尿崩症」と呼ばれ、多くは後天的なものです。主な原因としては脳外科手術、頭部外傷、自己免疫性神経下垂体炎、脳腫瘍などが挙げられます。発生率は脳外科手術や頭部外傷では損傷の程度によって異なりますが、低侵襲な内視鏡の下垂体手術では可能性は低くなると言われています。また、脳外科手術や外傷によるもの以外の中枢性尿崩症においては、多くが自己免疫異常に関連していると言われています。転移性脳腫瘍が下垂体周辺に生じた場合も尿崩症の原因になり得ます。
2つ目は、腎臓自体がバソプレシンに反応できなくなる場合です。この場合、脳は正常にホルモンを作っていますが、腎臓がその信号を受け取れず、大量の尿を排出します。このタイプは「腎性尿崩症」と呼ばれ、遺伝的な要因や腎炎、電解質異常、薬物の副作用によって引き起こされます (参考文献 1,2) 。

尿崩症の前兆や初期症状について

尿崩症の主な症状は、異常に多量の尿が出ることと、強い喉の渇きです。昼夜問わず大量の尿が出るため、体は水分を失い、常に喉が渇くようになります。そのため多くの水を飲みますが、飲んだ水はすぐに尿として排出されてしまいます。特に夜間の頻尿に悩まされ、日常生活に支障をきたします。さらに高齢者や子どもなどで十分な水分摂取ができなかった場合は脱水になり、めまいや疲労感、頭痛、集中力の低下、体重の減少などを引き起こすことがあります (参考文献 1) 。

尿崩症の検査・診断

尿崩症を診断するための検査には、いくつかの方法があります。

まず、患者の尿の量や頻度を確認します。異常に多量の尿が出ている場合、尿崩症を疑います。また、尿の濃度も調べ、尿が非常に薄くなっているかどうかを確認します。尿崩症では、尿が水のように薄くなるのが特徴です。

次に、血液検査で体内の塩分や水分バランスを調べます。尿崩症では、多尿により体内の水分が不足し、血液中のナトリウム濃度は基準値上限を示すことが多いです。

高張食塩水負荷試験」という試験も行われます。高濃度の食塩水を静脈に注射し、血液中のナトリウム濃度が上昇すると、血液中のバソプレシン濃度は通常上昇します。しかし、中枢性尿崩症の場合はバソプレシン濃度があまり上昇しません。逆に、腎性尿崩症ではバソプレシン濃度は高値を示します。

また、「水制限試験」という検査も行われます。この検査では、一定期間水を飲まない状態で体がどのように水分を保持するかを確認します。通常は水を飲まない状態が続くと尿量が低下しますが、尿崩症の患者さんは水を飲まなくても尿の量が減らず、体が水分を保持できないことが分かります。

また、脳のMRIを使って、抗利尿ホルモンを作る脳の部分 (下垂体) に異常がないかを確認することもあります。
これらの検査結果に基づいて、尿崩症の診断および中枢性か腎性かといったタイプを特定します (参考文献 1) 。

尿崩症の治療

中枢性尿崩症の場合、脳が抗利尿ホルモンを十分に作れないため、ホルモンを補充する治療が行われます。主に「デスモプレシン」という薬を使用し、これが体内でホルモンの役割を果たして尿の量を減らします。この薬は錠剤や点鼻薬で投与され、効果的に症状を抑えられます。
一方、腎性尿崩症の場合は、腎臓がホルモンに反応できないため、ホルモン補充だけでは効果がありません。また、根治することは難しく、治療の基本は適切な水分摂取により脱水を予防することです。薬物療法としては利尿剤を使って、尿の量を減らすことが試みられます (参考文献 1)

尿崩症になりやすい人・予防の方法

尿崩症は、比較的まれな病気で、中枢性尿崩症の有病率は 25000人 に 1人 程度と言われています (参考文献 2) 。中枢性尿崩症の患者さんは日本に 5000-10000人 ほどいると考えられています。どの年代でも発症しますが、子どもにやや多いと言われています。多くは脳腫瘍や外傷などによって発症し、家族性の中枢性尿崩症は 1%程度 です (参考文献 3) 。一方、腎性尿崩症は遺伝性の場合が多く、特に先天性腎性尿崩症と呼ばれる病気は乳児期に見つかる場合が殆どです。また、中枢性尿崩症の有病率に男女差はないのに対して、先天性腎性尿崩症は男性に多く発症します (参考文献 2) 。尿崩症の予防方法については、特定の予防策がないのが現状です (参考文献 4) 。


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