監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
尿毒症の概要
尿毒症とは、腎臓の機能が低下することで起こる症状のことです。
腎臓には血液や塩分をろ過し、老廃物を尿として身体の外へ排出する働きのほか、体内の水分量を調節したり、塩分、カリウムといったミネラルのバランスを保ったりする役割があります。
腎臓の機能が低下することで、上記の働きが失われ、内臓全般に機能障害が見られるようになります。
その結果、むくみや疲労感、頭痛、不眠、食欲低下などの症状が現れます。
一般的に、尿毒症の症状が現れるということは、すでに腎不全が進行している状態であると言えます。
急性腎不全、慢性腎不全どちらにおいても尿毒症の症状は見られますが、急性腎不全では回復する場合があるのに対し、慢性腎不全で尿毒症となった場合、すでに病状は末期状態であると考えられ、元に戻る可能性が低くなります。
尿毒症の原因
尿毒症の原因は慢性腎臓病、急性腎不全、多発性嚢胞腎などの疾患による腎機能の低下や、腫瘍や結石が原因で起こる尿の排出障害などが挙げられます。
尿毒症に至る原因となる疾患は複数ありますが、共通して言えることは、腎臓の機能が低下して尿がうまく作れなくなる、または尿の排出がうまくいかなくなることです。
尿の生産、排出が阻害されることで体内に有害な物質が留まり、全身にさまざまな悪影響が及びます。
尿毒症に関わる原因物質には尿素窒素やカリウム、リン、クレアチニンなどがあり、これ以外にも多数の物質が影響しているとされています。
老廃物の排出がうまくいかなくなり、体内のミネラルバランスが崩れると、体液のpHが酸性、あるいはアルカリ性に傾きます。
体液が酸性になった状態をアシドーシス、アルカリ性になった状態をアルカローシスと呼び、ひどくなるとけいれんや昏睡といった危険な状態に至ります。
尿毒症の前兆や初期症状について
尿毒症の初期症状には全身の倦怠感や吐き気、食欲の減退などがあります。
しかし、慢性腎不全によって起こる尿毒症は、病気がかなり進行してからこれらの症状が出るため、前兆、初期症状という言い方はふさわしくないかもしれません。
また、概要でお伝えした通り、慢性の腎臓病では腎機能の回復が期待できず、人工透析で体内の老廃物を体外に排出する必要が出てきます。
急性腎不全に関しては、原因に対して適切な治療を行うことで改善が期待できます。
こちらは後の「尿毒症の治療」の項目で詳しく紹介します。
尿毒症の原因は腎臓の病気ですが、その原因がどこにあるかで腎前性、腎性、腎後性の3つに分けられます。
腎前性
腎前性とは、脱水や大量出血、重度の火傷などの理由で腎臓に必要な量の血液が流れなくなる状態を指します。
腎臓そのものに問題はないものの、腎臓に流れる血液が手前で失われているということで「腎前性」と呼ばれます。
腎性
腎性とは腎臓そのものに問題がある場合です。
腎炎などの腎臓の疾患のほか、手術や薬剤の影響、腎臓内の血管の梗塞などが原因です。
腎後性
腎後性は、腎臓から尿が出た後の経路に問題がある場合にそう呼ばれます。
前立腺肥大や尿管結石、または膀胱がんなどの疾患が原因で尿の通り道が塞がり、尿が体外へ排出できないことで起こる異常のことです。
また、近年ではO-157など腸管出血性大腸菌への感染がもとで起こる、腎機能の低下や貧血などを伴う溶血性尿毒症症候群が原因の尿毒症も見られます。
対応する診療科ですが、体調の悪化が腎臓に由来するかを自己で判断することは難しいと思われますので、まずは内科で診察と検査を受け、結果をもとに医師の判断を仰いでください。
尿毒症に関する異常が見られた場合、必要に応じて腎臓内科や泌尿器科を受診することになると思われます。
尿毒症の検査・診断
尿毒症の検査では、血液検査や尿検査を行い、腎機能の低下の度合いを確認します。
血液中の尿素窒素量(BUN)やクレアチニン、リン、カリウムなどの値が基準値より高い場合、尿毒症が疑われます。
尿毒症の治療
慢性腎不全による尿毒症の場合、失われた腎臓の機能は戻らないため、治療の選択肢として人工透析、腎移植が挙げられます。
人工透析
人工透析には、血液透析と腹膜透析があり、一般的には血液透析が主流です。
血液透析では、血液を体外の装置に通し、不要な物質を除去して体内に戻します。
血液透析には週2〜3回、1回につき4〜5時間を要し、急性腎不全などの特殊な場合を除き、一生継続する必要があります。
また、自身の体重や飲水量などの自己管理も求められます。
末期の腎不全では、腹膜透析が用いられることもあります。
腹腔内に設置したカテーテルを通し、透析液を注入し、5〜6時間溜めておいた後に排出するという行為を1日に3〜5回繰り返します。
生活リズムに合わせて自分で行える点がメリットですが、自分で交換する手間やカテーテル挿入部位の感染症予防など、注意すべき点も多いです。
腎移植
腎移植が成功すれば透析からは解放されますが、腎臓の提供数が少なく、希望して儲けられるとは限りません。
家族から生体腎移植の提供を受ける場合、提供者も手術を受ける必要が生じるほか、移植が成功しても免疫抑制剤の服用が欠かせません。
また、拒絶反応などで提供された腎臓の機能が低下した場合、透析の再開を余儀なくされることもあります。
急性腎不全の場合
急性腎不全における尿毒症の場合は、原因となる疾患を治療することで改善する可能性があります。
腎前性では失われた血液を補う輸血や点滴での補液、腎性では腎炎や食中毒の治療、腎後性では尿管、尿道の治療、腫瘍の摘出などの対応が取られます。
尿毒症になりやすい人・予防の方法
尿毒症の原因となる腎臓病の危険因子としては、過度の飲酒や喫煙、塩分の過剰摂取といった生活習慣の影響のほか、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病があります。
また、腎機能は加齢に伴い衰えてきますので、高齢者も尿毒症になるリスクは高いと言えます。
それ以外の要因としては、普段から水分不足で脱水状態に陥りやすい人は腎機能の低下を招きますし、「尿毒症の原因」の項目でも触れたように、腎臓に疾患を持つ人は尿毒症になりやすいと言えるでしょう。
適度な運動は生活習慣病の予防という意味で推奨できますが、あまりに激しい運動を行うと、クレアチニンが増えて腎臓での処理負担が増えるほか、運動に伴う脱水症状も腎機能の面においては好ましくありません。
運動を行う際は自身に合った強度で行うようにしましょう。
ほか、尿毒症の予防として意識しておきたいことは、喫煙や過度の飲酒を控える、加工食品を摂り過ぎない、減塩を心がける、偏った食事ではなくバランスよく各種栄養素を摂り、体重が増えすぎないように自己で管理する、定期的に健康診断を受け、自身の健康状態を管理するために健康診断を定期的に受ける、といった一般的な健康管理の方法が当てはまります。
中には、体質や遺伝によって腎疾患や尿毒症のリスク要因が高い場合もあります。
気にしすぎもよくありませんが、ご家族に特定の疾患を持つ方がいらっしゃるようでしたら、体調や健康の管理は普段から意識しておく方がよいでしょう。
尿毒症を招く腎機能の悪化、特に慢性的な腎臓病は症状が現れた時にはすでに末期状態であることも多いです。
健康寿命を長く保つためにも、バランスの良い生活を心掛けましょう。
関連する病気
- 慢性腎不全(Chronic Kidney Disease)
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