

監修医師:
小幡 史明(医師)
目次 -INDEX-
横紋筋融解症の概要
横紋筋融解症とは、骨格筋の細胞が融解、壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる病態です。その際に、血液中に流出した大量の筋肉の成分(ミオグロビン)により、腎臓の尿細管障害が起こり、急性腎不全を引き起こすことがあります。また、まれに呼吸筋が障害され、呼吸困難が生じます。その原因は、薬剤、外傷・物理的要因、感染など多様です。
横紋筋融解症は多臓器不全などを併発して生命に危険が及ぶことがあり、回復しても重篤な障害を残すことがあります。すみやかな対応(原因薬剤の中止や除去など)と治療(輸液療法、血液透析など)により腎機能の保護をはかります。
横紋筋融解症の原因
横紋筋融解症は一つの病態であり、その原因は多岐にわたりますが、先天性と後天性に分類することができます。先天性の多くは、解糖/糖新生、脂肪酸酸化、などさまざまな先天性酵素欠損によることが知られています。後天性の原因は、健常者の過剰な運動、外傷、感染、夏場の熱中症など多岐にわたりますが、およそ80%は毒物や薬物によるものと考えられています。
1.遺伝性
解糖系酵素欠損、脂質代謝異常、そのほか(家族性Mb尿症)
2.外傷・物理的要因
圧挫症候群、コンパートメント症候群、熱傷、電撃症など
3.不随意運動・労作
全身痙攣重積状態、過剰な運動、テタニー、ジストニアなど
4.虚血
急性動脈閉塞症(血栓性・塞栓性)、Volkmann拘縮など
5.感染症
ウイルス、細菌、マイコプラズマ
6.毒素
破傷風、スズメ蜂刺傷など
7.代謝性
低K血症、高Na血症、低P血症、水中毒、アシドーシス
8.薬物
主な薬物はほかに記載
9.ほかの筋疾患に合併
多発記念、進行性筋ジストロフィー
10.そのほか
熱中症、悪性症候群、甲状腺クリーゼなど
横紋筋融解症の原因薬剤
1. HMG-CoA還元酵素阻害薬
現状、最も報告の多い薬剤です。服薬開始後、数ヶ月経過後から徐々に発症し、筋痛が先行することが多いようです。
2. フィブラート系薬剤
服薬開始から数ヶ月から2年程度までの期間に発症することが多く、HMG-CoA還元酵素阻害薬との併用は、発症頻度をあげます。
3. ニューキノロン系を主体とする抗生物質
投与初期から数日以内に急性発症することから注意を要します。また、マクロライド系抗生物質はHMG-CoA還元酵素阻害薬やテオフィリンなどの併用で注意を要します。
4. 悪性症候群に関連する薬剤
抗精神病薬(ハロペリドールなど)や三環系抗うつ薬、制吐薬(塩酸メトクロプラミド)、抗潰瘍薬(スルピリド)、ドーパミンD2受容体遮断薬、非定型抗精神病薬などによります。
5. 悪性高熱に関連する薬剤
全身麻酔の重篤な副作用です。サクシニルコリンやハロタンなどが知られています。
6. プロポフォール
呼吸器装着時などに使われる静脈麻酔薬です。特に小児での使用には注意を要します(小児では、集中治療における人工呼吸中の鎮静に使うことは禁忌)。
7. 低K血症などの電解質異常をきたす薬剤
利尿剤・緩下剤・グリチルリチン製剤(甘草を含む漢方薬)・抗真菌剤や副腎皮質ホルモンなどです。
8. そのほか
降圧剤(ARB:アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、各種の消炎鎮痛剤、などさまざまです。薬剤情報をご確認ください。
これらの薬剤は直接筋毒性作用を有するよりも、薬剤に関連して発症した二次的要因による代謝障害や、服用者側の要因(高齢、腎機能障害など)が関与していると考えられています。
横紋筋融解症の患者数
横紋筋融解症は発症に気づかずに無治療の場合は致死率が高いため、軽症例も含めた正確な有病率は不明です。また、薬剤の副作用としての発症頻度も特定の薬剤に依存するため、詳細な頻度は個別の薬剤ごとに異なります。
横紋筋融解症の前兆や初期症状について
- 筋肉痛や筋肉のこわばり
- 四肢の脱力感やしびれ
- 筋腫脹
- 赤褐色の尿(ミオグロビン尿)
初期症状は、筋肉関連の自覚症状から始まりますが、非特異的な症状が多く、見逃されがちですが、早期発見が重要です。特に、赤褐色の尿(ミオグロビン尿)は特徴的な所見のため、尿の色調変化があれば、すぐに医療機関を受診してください。
横紋筋融解症の経過
症状が進行すれば、重症化します。急性腎不全、ショック、出血傾向(播種性血管内凝固:DIC)をきたし、多臓器不全で亡くなることがあります。また、重症例では長期間のベッド臥床生活となり、長期的なリハビリテーションが必要となる場合があります。
よって、初期症状(筋肉痛や筋肉のこわばりや赤褐色の尿など)に気づき、医療機関を受診して早期治療を開始することが大切です。
横紋筋融解症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科です。横紋筋融解症は筋肉の破壊とその結果として腎障害を引き起こすため、内科での診断と治療が必要です。
横紋筋融解症の検査・診断
1) 病歴聴取
- 筋肉痛、筋力低下、尿の変色などの症状の有無を確認
- 発症の契機となる薬剤服用歴、外傷歴、運動歴などを確認
2)身体所見:筋肉の圧痛や腫脹の有無を確認
3)血液検査
- クレアチンキナーゼ(CPK)値の上昇
- ミオグロビン値の上昇
- 血清Na、K、などの電解質異常や腎機能障害の有無を確認
4)尿検査:赤褐色変化(ミオグロビン尿)
5)画像検査(必要時応じて):筋肉CTやMRI検査で筋肉の状態を評価
横紋筋融解症は、病歴と特徴的な検査所見(血清CK値の上昇、ミオグロビン尿など)から診断されます。早期発見が重要なため、筋肉関連の自覚症状があればすみやかに検査を行う必要があります。発症リスクの高い患者さんは、定期的な血清CK値のモニタリングも有用です。
鑑別診断
病歴、身体所見、検査結果からほかの疾患(筋疾患、外傷、感染症など)との鑑別を行います。
横紋筋融解症の治療
特に、薬剤性筋障害は発見が早いほど予後が良いとされています。筋障害が強いと、骨格筋から流出したミオグロビンによる腎障害が生じます。不可逆的な腎障害に進展した場合には、永続的な血液透析が必要となり、場合によれば、DIC・多臓器不全の合併から、生命に関わる重篤な状況に陥ります。
1) 水分補給・輸液療法
十分な水分補給が最も重要です。軽症例では経口補液、重症例では点滴による輸液療法を行います。尿量を維持し、ミオグロビンの排泄を促進します。腎不全の予防や治療も大切です。
2) 原因の除去
発症の原因となった薬剤を即時、中止します。また筋肉への過剰負荷(過度の運動をやめる)を避けます。
3) 対症療法
解熱剤や鎮痛剤を使用し、症状を緩和します。重要例では補液や利尿剤で電解質バランスを是正します。
4) 腎不全への対応
重症例では急性腎不全に移行することがあるので、必要に応じて血液透析などの腎代替療法を行います。
横紋筋融解症の対処法
まず、横紋筋融解症を起こしやすい医薬品について医師や薬剤師、そして患者さんも知っておくことが大切です。また、「手足・肩・腰・全身の筋肉が痛い」「手足に力が入らない」「尿の色が赤褐色になる」などの症状を認めたら、直ちに医師・薬剤師さんに相談、病院を受診してください。
横紋筋融解症になりやすい人・予防の方法
特定の薬剤(スタチン系薬剤、フィブリン酸誘導体、抗精神病薬など)を服用している人や、アルコール多飲者、遺伝性の筋疾患や代謝性ミオパチー患者さん、激しい運動や外傷を受けた人、高齢者や基礎疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症)がある患者さんは、横紋筋融解症の合併に気をつけなければなりません。
その予防方法は、以下の4つが重要です。
1) 危険因子の回避
2) 併用薬剤の確認
3) 患者さん教育
4) 定期的なモニタリング(血清CK値)