

監修医師:
五藤 良将(医師)
角化異常症の概要
角化異常症とは、皮膚の萎縮や爪の異常、口腔内の白斑などを主症状とする先天性疾患です。国内での正確な発症数は明らかになっていないものの、海外の統計では100万人に1人程度発症していることが報告されています。
角化異常症は遺伝子の異常によって発症することがわかっており、これまでに6つの原因遺伝子が確認されています。
角化異常症の主な症状は、皮膚や口腔粘膜、肺、神経系などの異常です。特に皮膚の萎縮や爪の形成不全、口腔内の白斑は「角化異常症の3兆」と呼ばれ、多くの発症者に確認されます。
このほか、指定難病の一つである「再生不良性貧血」や、肝障害、肺障害、脱毛、骨格の異常などを合併することもあります。重症の場合には、脳の形成不全や精神発達遅延を認めるケースもあります。
さらに、年齢とともに「白血病」や「扁平上皮がん」の合併率が高くなると言われており、発症者の約10%で悪性疾患を合併することがわかっています。
現在のところ、角化異常症を根治させるための治療法は確立されていません。そのため、治療では合併症に対する対症療法が中心におこなわれます。合併率の高い再生不良性貧血では、重症度に応じてホルモン療法や輸血などが考慮されます。
出典:小児慢性特定疾病情報センター 「22 先天性角化異常症」
角化異常症の原因
角化異常症は遺伝子の異常によって発症します。
原因となる遺伝子はこれまでに「DKC1(dyskerin)」「TINF」「TERT」「TERC」「NOP10」「NHP2」の6つが確認されています。
角化異常症の前兆や初期症状について
多くの発症者では、皮膚の萎縮、口腔内の白斑、爪の形成不全が見られます。さらに、血液中の白血球、赤血球、血小板全てが減少する再生不良性貧血を合併することがあります。
再生不良性貧血が合併すると、全身に酸素を運ぶ赤血球が減少することで体内が酸欠状態に陥り、頭痛やめまい、全身倦怠感、呼吸や心拍数の増加などが見られることがあります。また、免疫機能を司る白血球が減少するため、感染症にかかりやすくなることもあります。さらに、止血機能を持つ血小板が減ることで出血しやすくなり、軽微な刺激であざができたり、鼻出血や歯肉出血を認めたりすることもあります。
また、発症者の約10〜15%で特発性肺線維症を合併することもわかっています。特発性肺線維症とは、酸素と二酸化炭素のガス交換をおこなう「肺胞」の壁が炎症を起こして硬くなる(線維化する)疾患です。体内での酸素・二酸化炭素の処理や運搬が困難になり、乾いた咳が出たり、階段や坂の昇り降りなどの日常生活動作で、呼吸困難が生じたりすることがあります。
このほか、発症者によっては生まれながらに頭が小さい「小頭症」を合併していることがあります。小頭症では脳の形成不全を認め、精神発達遅延を伴うケースもあります。
また、低身長などの骨格形成不全や、頭髪の脱毛、歯の形成異常、肝障害、食道の狭窄などを認めるケースもあります。
出典:小児慢性特定疾病情報センター 「22 先天性角化異常症」
角化異常症の検査・診断
角化異常症の検査では、皮膚や口腔粘膜、爪などの身体診察のほか、血液検査がおこなわれます。
血液検査では、白血球や赤血球、血小板などの血球数や肝機能、腎機能などを確認します。
また、採取した血液を用いて遺伝子検査がおこなわれます。遺伝子検査では、白血球から遺伝子を取り出し、角化異常症の原因となる遺伝子の異常がないか調べます。
角化異常症の治療
角化異常症には根本的な治療がなく、再生不良性貧血や肺線維症などの合併症に対する対症療法が中心におこなわれます。
中等症までの再生不良性貧血に対しては、「蛋白同化ステロイド療法」がおこなわれます。蛋白同化ステロイド療法は、赤血球の生成に関わる「エリスロポエチン」というホルモンの産生や血液細胞を作る造血幹細胞を増やすための治療法で「ダナゾール」などのホルモン製剤を投与します。
一方、重度の再生不良性貧血に対しては、「同種造血幹細胞移植」という治療が考慮されます。同種造血幹細胞移植は、発症者の血液細胞を健康な人の血液細胞と入れ替える治療法です。事前に抗がん剤治療をおこない、健康なドナーから採取された血液を輸血します。
特発性肺線維症は進行性の疾患であるため、進行を抑えるための薬物療法がおこなわれます。薬物療法では、肺胞の線維化を抑える「ニンテダニブ」や「ピルフェニドン」などが用いられます。
角化異常症になりやすい人・予防の方法
角化異常症は遺伝子の異常によって発症することがわかっています。
予防の方法については明らかになっていませんが、発症者は遺伝子検査を受けることで自身の子どもの発症率などを調べられるケースがあります。
ご自身や家族内に角化異常症の発症者がいて次世代への発症率を知りたいという場合には、遺伝子検査について専門医に相談するのも一つの方法です。
参考文献