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外陰無毛症
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

外陰無毛症の概要

外陰無毛症とは、思春期を迎えても外陰部に陰毛が発生しない、または成人期になっても発毛が見られない状態を指します。通常、思春期になると女性では陰毛の発生が始まりますが、外陰無毛症の症例ではこの過程が遅れるか、まったく生じません。この症状は単なる個人差の範囲内である場合もありますが、何らかの内分泌異常や遺伝的要因が関与している可能性があり、注意深い評価が必要です。

外陰無毛症の原因

外陰無毛症の原因は大きく先天性と後天性に分けられます。先天的な原因としては、本態性陰部無毛症や性ホルモン受容体の異常が考えられます。本態性陰部無毛症は、特定の病的要因がないにもかかわらず陰毛の発生が見られない状態です。また、遺伝的要因によりアンドロゲン(男性ホルモン)に対する感受性が低下している場合、正常な思春期発育が妨げられることがあります。
後天的な原因には、ホルモンバランスの異常や内分泌疾患が含まれます。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(視床下部や下垂体の異常による性ホルモンの不足)、高ゴナドトロピン性性腺機能不全(性腺そのものの機能異常)などが関与する場合があります。また、摂食障害や極端な体重減少、慢性疾患も思春期のホルモン分泌に影響を与え、陰毛の発生を遅らせることがあります。

外陰無毛症の前兆や初期症状について

外陰無毛症の主な特徴は、思春期を過ぎても陰毛が発生しないことです。通常、女性では11歳前後までに陰毛の発生が始まりますが、それがみられない場合、思春期遅発症の可能性が考えられます。加えて、乳房発育の遅れや初経の遅延を伴うことが多く、これらの症状が認められる場合はホルモン分泌の異常が疑われます。また、骨の成熟遅延や低身長などの全身的な発育遅延を伴うケースもあります。

外陰無毛症の検査・診断

診断には詳細な問診、身体診察、内分泌学的検査が必要です。問診では、家族歴、成長発育歴、食事や運動習慣についての情報を収集し、摂食障害や過度の運動によるホルモンバランスの乱れがないかを評価します。身体診察では、乳房発育や骨成熟の程度をTanner分類を用いて確認し、性成熟度を評価します。
ホルモン検査としては、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、エストロゲン、アンドロゲン(テストステロン、DHEA-S)の測定が行われ、ホルモン分泌の異常がないかを確認します。甲状腺ホルモンや副腎ホルモンの異常も性発育に影響を及ぼすため、必要に応じてTSH(甲状腺刺激ホルモン)、T3、T4、副腎皮質ホルモンの検査が行われます。
画像検査としては、骨年齢の評価を目的とした手根骨X線撮影や、性腺の形態を評価するための超音波検査、MRIが用いられることがあります。染色体異常が疑われる場合には、遺伝子検査を行うこともあります。

外陰無毛症の治療

外陰無毛症の治療は、原因に応じて異なります。単なる個人差や遺伝的要因によるものであれば、特別な治療を必要としないこともありますが、ホルモン分泌異常が関与している場合は適切なホルモン補充療法が検討されます。
低ゴナドトロピン性性腺機能不全の場合、エストロゲン補充療法を行い、乳房発育や子宮の成長を促します。高ゴナドトロピン性性腺機能不全では、エストロゲンとプロゲステロンを組み合わせたホルモン補充療法が推奨されます。また、甲状腺や副腎の異常が原因である場合には、それに応じた内分泌治療が必要です。
心理的なサポートも重要であり、思春期発育の遅れに対する不安を軽減するために、医療従事者と連携しながら適切な情報提供を行うことが求められます。

外陰無毛症になりやすい人・予防の方法

外陰無毛症になりやすい人としては、家族歴に思春期遅発症のある人や、過度な運動習慣、摂食障害の既往がある人が挙げられます。また、甲状腺機能低下症や慢性疾患を持つ人もリスクが高いとされています。
予防としては、思春期に向けた適切な栄養摂取が重要です。極端なダイエットや栄養不足を避け、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。また、定期的な健康診断を受けることで、ホルモンバランスの異常を早期に発見し、適切な対応をとることが可能です。


参考文献

  • Reindollar RH, et al: Delayed sexual development: A study of 252 patients. Am J Obstet Gynecol 140: 371-380, 1981
  • Tanner JM: Growth of Adolescents. 2nd ed. Blackwell Scientific, Oxford, 28, 1962
  • 日本産科婦人科学会ガイドライン 2023
  • 日本小児内分泌学会: 小児内分泌疾患診療ガイドライン. 小児科診療 2018

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