監修医師:
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会
慢性色素性紫斑の概要
慢性色素性紫斑(まんせいしきそせいしはん)とは、中年の下肢に発症する原因不明の紫斑(出血によってできる紫や黒色のアザ)です。特徴的な症状として、点状の出血や毛細血管の拡張による皮膚の色素沈着などがあり、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返します。
慢性色素性紫斑の病理的特徴は皮膚の中層である真皮の上部にリンパ球が広がるリンパ球浸潤(しんじゅん)や赤血球の血管外漏出です。症状によってシャンバーグ病・マヨッキー紫斑(血管拡張性環状紫斑:けっかんかくちょうせいかんじょうしはん)・グージュローブロム病(色素性紫斑性苔癬様皮膚症:しきそせいしはんせいたいけんようひふしょう)に分類されますが、多くはシャンバーグ病によると考えられています。
これらは見た目の差によって分類されますが、本質的な紫斑は同じものであり、混在していることも少なくありません。また、皮膚にできる悪性のリンパ腫である菌状息肉症(きんじょうそくにくしょう)の初期症状と見た目が似ているため、生検検査などによって鑑別する必要があります。
慢性色素性紫斑の原因
慢性色素性紫斑の原因はいまだ判明していません。しかし多くのケースで静脈性循環障害を合併しているため、循環障害による症状の可能性が指摘されています。
また、過去の症例では漢方薬によって体温を上げることで、血液の循環・免疫が向上し、症状の改善に効果がみられたことが報告されています。これは慢性色素性紫斑が静脈のうっ血などによる循環障害とアレルギーなどの炎症によって生じていることを示唆するものです。
そのほかでは薬剤の影響により慢性色素性紫斑を発症したケースやアレルギー反応によって結果発症したものもありました。さらに、妊娠によって発症したケースもあると報告されています。
慢性色素性紫斑の前兆や初期症状について
慢性色素性紫斑は主に40代以上の中年に発症しやすい皮膚の病気です。下腿(膝から下のすね・ふくらはぎ)の前面に出現する点状出血と褐色斑(かっしょくはん)を特徴としています。
初期症状は色素沈着程度ですが徐々に症状が進行し、慢性化・悪化しやすい病気です。また再発もしやすく、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返します。
ただし慢性色素性紫斑は自覚症状が出ないケースが多く、自覚症状が出たとしても少しかゆい程度のことも多々あります。症状が進行しても皮膚のみの病変で、粘膜や全身の臓器から出血することはありません。
慢性色素性紫斑の検査・診断
慢性色素性紫斑の多くは特徴的な見た目から視診によって診断されます。しかし、悪性リンパ腫の菌状息肉症と見た目が似ていることから、必要に応じて鑑別のための検査が行われます。
慢性色素性紫斑と菌状息肉症は生検検査や血液検査で鑑別ができます。慢性色素性紫斑の検査では、凝固機能など血液検査で異常がみられないことが特徴です。生検検査では真皮上層にリンパ球の浸潤があり、赤血球も血管外に漏れている所見が観察されます。
進行した菌状息肉症の場合、血液検査において白血球やリンパ球などの検査をすると異常がみられ、生検では腫瘍組織がみつかるでしょう。そのほか菌状息肉症では範囲の広さを確定するためにCTなどの画像検査も有効です。
慢性色素性紫斑の治療
慢性色素性紫斑は原因が明らかになっていないため、現在のところ根本的治療法も確立していません。そのため、治療は症状を抑える対症療法が中心となります。多くのケースでは外用ステロイド剤が選択され、痒みを伴う場合にはアレルギーを抑える薬を使用することもあるでしょう。
また、慢性色素性紫斑は下肢の血流障害を併発しやすいため、下腿のむくみをともなうことも少なくありません。そのようなケースでは弾性ストッキングによってむくみの解消を試みます。
そのほか血管の脆弱性が疑われる場合には血管を強くする作用のあるルチン・ビタミンC・ビタミンKの薬も服用されてきましたが、いずれも効果は一定しないのが現状です。
慢性色素性紫斑になりやすい人・予防の方法
慢性色素性紫斑は血流障害や血管の炎症によって生じると考えられているため、下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)など血流障害につながる病気を抱えている人は発症しやすいと考えられます。また、ステロイドを長く服用している人も血管が弱くなりやすいため、発症リスクが高まるでしょう。
慢性色素性紫斑を予防するためには下肢の血流を促していくことが重要です。過去の症例では体温を上げる漢方薬に効果があったことから、体温を上げて血流を促進することで慢性色素性紫斑の発症を予防する効果があるのではないかと示唆されています。
下肢の静脈瘤によるむくみなどにたいして弾性ストッキングを使うなど、持病に対する治療も大切です。ステロイドなどの薬の副作用が考えられるケースでは、内服薬の量をコントロールする必要もあります。
また、慢性色素性紫斑は症状の悪化と軽減を繰り返しながら、徐々に進行することが特徴です。そのため定期的に皮膚科を受診し、適切な治療を受けることで症状の重症化を予防できるでしょう。
参考文献