

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
皮膚悪性リンパ腫の概要
皮膚悪性リンパ腫(cutaneous malignant lymphoma)は、皮膚に発生するリンパ球由来の悪性腫瘍です。
一般に、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)と皮膚B細胞リンパ腫(CBCL)の二つのタイプに分類されます。皮膚悪性リンパ腫はがんの中でも珍しい疾患であり、年齢や性別にかかわらず発症する可能性がありますが、特に中高年に多く見られます。進行が緩やかで、初期段階では症状が軽微なことが多く、皮膚症状のみを呈する場合があるため、診断が難しく通院を繰り返すことが重要な場合もあります。
皮膚悪性リンパ腫の原因
皮膚悪性リンパ腫の原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与している可能性があるとされています。
遺伝的要因
遺伝的素因が発症リスクに影響を及ぼすとされています。
ウイルス感染
一部のリンパ腫、特にT細胞リンパ腫では、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)との関連が指摘されています。
免疫異常
自己免疫疾患や免疫不全状態がリンパ腫発症のリスク因子の一つと考えられています。
皮膚悪性リンパ腫の前兆や初期症状について
皮膚悪性リンパ腫の初期症状は多岐にわたり、一般的には以下のような症状が現れます。これらの症状は悪性腫瘍のタイプや進行度によって異なるため、注意が必要です。気になる症状がある場合は、内科や血液内科を受診しましょう。
紅斑・結節
皮膚に赤みを帯びた斑点や、隆起したしこりが出現することがあります。
潰瘍形成
腫瘍が進行することで、皮膚に潰瘍が形成される場合があります。
かゆみ
初期段階でかゆみを伴うことがあり、痒疹と紛らわしく、診断まで時間がかかることもあります。
リンパ節腫脹
腫瘍細胞がリンパ節に及ぶと、リンパ節の腫れが見られることがあります。リンパ節の腫れは病変がある部位の近くのことが多いですが、遠くに及ぶ場合もあります。
皮膚悪性リンパ腫の検査・診断
皮膚悪性リンパ腫の診断には、病変部の組織や血液、遺伝子など多角的な検査が必要です。以下に主要な検査を示します。
皮膚生検
病変部の皮膚組織を採取し、顕微鏡で腫瘍の有無やリンパ球の形態を確認します。これは確定診断に重要な役割を果たし、リンパ腫の種類や進行度の判断に使用されます。
免疫組織化学染色
採取した組織を特定の抗体で染色し、リンパ腫細胞の種類やその特徴を明らかにします。皮膚悪性リンパ腫がT細胞リンパ腫なのかB細胞リンパ腫なのかを判別するために重要な検査の一つです。
遺伝子解析
リンパ腫細胞の遺伝子異常を調べるためにPCRやFISH法といった技術が使用されます。これにより特定の遺伝子や染色体の異常を確認し、診断や治療方針の決定に役立てます。
血液検査
全身状態の把握やリンパ球数の異常を確認するために行われます。血液検査では、特に白血球の数や炎症反応が観察され、場合によってはHTLV-1感染の有無も検査されます。そのほかに臓器の機能を確認することもでき、治療方針の決定に重要な役割を持っています。
画像診断(CT・MRI)
腫瘍の大きさや進展している範囲を評価したり、腫瘍が皮膚のみならずリンパ節や他の臓器に転移しているかを確認するために、CTやMRIが使用されます。特にリンパ節の腫脹がある場合、ほかの部位への転移リスクが高いため、画像診断は病状の把握に重要です。
各検査結果を総合的に評価することで、皮膚悪性リンパ腫の診断と進行度を確定します。診断は多数の検査を必要とする場合もあり、複数回の通院が必要な場合もありますが、適切な治療を行うために欠かせないものです。
皮膚悪性リンパ腫の治療
皮膚悪性リンパ腫の治療は、病変の広がりや種類、患者さんの年齢や全身状態に応じて選択されます。以下に代表的な治療法を記します。実際にはいくつかの選択肢がある場合もあります。治療の身体的、精神的な負担などを考慮して行います。
光線療法
早期の皮膚悪性リンパ腫に対してよく用いられる治療法です。PUVA療法(光感作剤と紫外線A照射)やナローバンドUVB療法が行われ、紫外線の照射により腫瘍細胞の増殖を抑制します。患者さんは治療中に軽度の皮膚乾燥や日焼け様の反応を感じることがあり、照射後は肌のケアが必要となります。
局所治療
ステロイド外用薬を皮膚病変に直接塗布し、炎症を抑えたり腫瘍細胞の増殖を抑制します。塗布する量や頻度は医師の指示に基づき、定期的に通院が必要です。患者さんは、塗布部分が多少の痒みや乾燥感を感じることがありますが、皮膚症状が軽減するまでの経過を観察しながら使用します。
放射線療法
皮膚病変が広がっていない場合や、出血などの症状がある場合に放射線で腫瘍細胞を破壊します。外用薬の治療と比較すると放射線治療の効果はすぐに出ることが多いですが、一箇所にできる回数に上限があります。放射線療法後、皮膚に赤みや乾燥が生じることがありますが、通常は一時的で、治療終了後1ヶ月程度もすれば回復します。
化学療法
進行した皮膚悪性リンパ腫には、シクロホスファミドやビンクリスチンなどの薬剤が用いられます。化学療法は体全体に作用し、腫瘍細胞の増殖を抑える効果がありますが、吐き気や脱毛、疲労感といった副作用が生じることもあります。治療を受ける場合は定期的な診察、血液検査で体調を管理することが必要です。
免疫療法
B細胞性リンパ腫の場合、リツキシマブと呼ばれる抗体治療が効果的とされています。リツキシマブはB細胞を標的にして腫瘍細胞を破壊する薬剤で、点滴により投与されます。治療中に患者さんは軽度の発熱や倦怠感を感じることがありますが、通常は一過性のものであり、数回の治療で症状が改善するケースも多いです。
幹細胞移植
特に進行が進んだ例や再発例に対しては、同種造血幹細胞移植が検討されることがあります。これは、化学療法や放射線療法で腫瘍細胞を一掃した後に、新たな血液細胞を再生するために健康なドナーから幹細胞を移植する治療法です。患者さんは強力な化学療法や放射線療法を経るため、免疫機能が一時的に低下し、感染症への対策が重要です。また、入院中の隔離管理が求められるケースもあります。
皮膚悪性リンパ腫になりやすい人・予防の方法
皮膚悪性リンパ腫のリスク因子として、明確に特定されているものは少ないですが、皮膚悪性リンパ腫のリスクを増大させる要因としては、以下が挙げられます。
高齢
年齢と共に発症リスクが増加する傾向があります。
免疫抑制
臓器移植後の免疫抑制療法や、HIV感染症がリスクを高めます。
自己免疫疾患
関節リウマチやSLEなどの自己免疫疾患を持つ人は発症リスクが高いとされています。
現時点で皮膚悪性リンパ腫を予防する明確な方法は確立されていません。家族歴がなく、一般的な生活環境では予防が難しい腫瘍であるため、定期的な健康診断や症状が現れた場合の早期受診が重要です。特に、皮膚に赤みを帯びた斑点やしこり、潰瘍、かゆみなどが持続している場合は、早期に医療機関を受診することが推奨されます。早期発見と迅速な治療が予後を改善するための鍵となります。ただし、皮膚悪性リンパ腫について日光曝露がリスクを高めるという明確な証拠はありませんが、長時間の運転や野外での活動を行う際は日焼け止めを使用することは他の皮膚がんの予防になりえます。
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