

監修医師:
前田 広太郎(医師)
脂腺母斑の概要
脂腺母斑は出生時から頭部に多くみられる母斑(あざ)で、新生児期にみられる脱毛の原因として最多です。良性で皮膚の過誤腫であり、表皮の過形成、未熟な毛包、脂腺およびアポクリン腺の増殖を特徴とします。加齢に伴い皮膚症状は進行し、皮膚所見や生検などで診断を行います。加齢に伴い二次性腫瘍を合併することが多く、根治治療は外科的切除です。
脂腺母斑の原因
出生時から存在する母斑の多くは発生過程の突然変異が原因とされます。脂腺母斑は、脂腺の増生を伴う未熟で奇形の毛包が特徴であり、様々な皮膚付属器が増生しており、アポクリン腺の増殖が特徴的です。
脂腺母斑の前兆や初期症状について
通常出生時から存在し、頭部に最も多くみられますが、顔面にもみられることがあります。頭部では境界明瞭な無毛性脱毛局面としてみられます。出生時~乳幼児期は、類円形の脱毛局面で、白色~淡黄色もしくは正常な皮膚色であり、平坦もしくはわずかに扁平隆起しています。表面は平滑であったり、細顆粒状でざらざらすることがあります。学童~思春期は、色がやや黄色から黄褐色調となり、肥厚や角化が進み、扁平に隆起してきます。表面は顆粒状から乳頭状に変化してきます。痒みを伴ったり、痒みで掻くと出血がみられることがあります。成人期以降では、褐色となり、表面の凹凸が強くなってきます。数%の頻度で他の腫瘍(二次性腫瘍)を合併するようになり、結節やびらん、浸出液などがみられ気づかれることが多いです。
広範囲に脂腺母斑が線上としてみられる場合は、脂腺母斑症候群の可能性があります。脂腺母斑症候群は遺伝子変異を持つ細胞が広範囲にみられる病態で、中枢神経系や骨格系に分布する場合、中枢神経症状(てんかん、知能低下、片側大脳萎縮/肥大、水頭症)、眼症状(眼瞼類脂肪腫、虹彩欠損、角膜血管増生など)、骨格異常(骨格低形成、低身長、脊柱側弯症、ビタミンD抵抗性低リン血症性くる病)などの所見がみられる場合があります。
脂腺母斑の検査・診断
ダーモスコピー検査では、白色を帯びた黄色点がみられます。皮膚生検による病理組織学的検査では、表皮の増殖性肥厚、脂腺の肥大増生、未熟な毛包や脂腺、異所性アポクリン腺の出現、炎症細胞浸潤、真皮膠原繊維の硬化像などがさまざまな所見がみられます。幼少期は表皮の軽度肥厚および未熟な毛包や脂腺が優位ですが、加齢にともない脂腺の増生やアポクリン腺構造が目立つようになります。鑑別疾患としては、先天性皮膚欠損症、先天性三角形脱毛症、機械性脱毛症、若年性黄色肉芽腫、表皮母斑、乳頭状汗腺嚢胞腺腫、単発型肥満細胞腫などがあります。合併する二次性腫瘍としては、良性腫瘍(毛芽腫、脂腺腫、外毛根鞘腫など)が多いですが、悪性腫瘍(基底細胞癌、有棘細胞癌、脂腺癌、アポクリン腺癌)も報告されています。また、脂腺母斑症候群が疑われる場合は、必要に応じて眼科的検査、神経学的検査やCT、MRIなど各種精密検査を各専門家と連携して行います。
脂腺母斑の治療
治療としては外科的切除が施行されます。単純縫縮による全層切除が行われることが多いですが、病変が広範囲の場合は皮弁や組織拡張器も用いられます。二次性腫瘍を合併する可能性があることから、基本的に切除は必須であり、成人前に切除することが望ましいとされますが、切除のタイミングは個々の症状に応じて柔軟に対応する必要があります。小児期の切除の是非に関しては定まった見解はありませんが、40歳以上で腫瘍発生が多くなるとされ、小児期の悪性転化のリスクは低いとされます。16歳未満の757人の脂腺母斑切除を行った報告では、16歳未満の基底細胞癌の合併は0であったという報告もあります。一方、690人を対象とした研究では基底細胞癌が5人(全体の0.8%、平均年齢12.5歳、9.7〜17.4歳) 乳頭状汗管囊胞腺腫が7人(1.1%、平均年齢8.8歳、1.7〜16.9歳、まれに悪性化)と報告され、小児期から思春期の間でも悪性化する場合があることから、早期切除を推奨する報告もあります。切除を幼児期~小学校低学年の比較的早期に行う場合は、メリットとして患者本人が意識する前であること、園や学校で他人に指摘される前に切除できること、保護者が早く安心感が得られること、などがあります。デメリットとして全身麻酔が必要であることが挙げられます。一方、小学校高学年以降では局所麻酔で施行可能であるというメリットがあり、保護者と十分に相談することが必要です。切除後の線上瘢痕は徐々に拡大することが多く、概ね元の病変の1/4~1/2程度まで大きくなり、最大で同じ程度まで拡大することもあり、脱毛局面は多少なりとも残存することが多いです。頭皮の脂腺母斑切除後の合併症の頻度(脱毛や肥厚性瘢痕など)は小児において28.1%、成人で6.7%よりも高頻度に発症したという報告があり、年齢が若いほど頭皮の柔軟性が低く、縫合が困難なため、整容的結果に影響しやすいとされます。よって、切除のタイミングは定められた見解はなく、メリットとデメリットを十分に相談して決めることが重要です。
切除以外の治療は光線力学療法や炭酸ガスレーザー治療、ダーマブレーション(皮膚研磨術)などが報告されていますが、これらの方法では病変の完全切除ができず、再発や腫瘍発生のリスクが残存し、十分なエビデンスはありません。
脂腺母斑症候群の場合は、皮膚以外にも神経系、眼、骨格、心理など多系統にわたる合併症を伴うことが多いため、多職種連携による包括的な管理が必要です。
脂腺母斑になりやすい人・予防の方法
脂腺母斑症は出生時から出現し、遺伝子変異による異常であることから、予防の方法はありません。二次性腫瘍の発生予防として、成人前には切除を行い悪性腫瘍の発症を予防することが重要です。
参考文献
- 1)Santibanez-Gallerani A, et al:Should nevus sebaceus of Jadassohn in children be excised? A study of 757 cases, and literature review. J Craniofac Surg. 2003;14(5):658.
- 2)Rosen H, Schmidt B, et al: Management of nevus sebaceous and the risk of Basal cell carcinoma: an 18-year review. Pediatr Dermatol. 2009 Nov;26(6):676-81. Epub 2009 Jul 20.
- 3)Kong SH, et al: Optimal Timing for Surgical Excision of Nevus Sebaceus on the Scalp: A Single-Center Experience. Dermatol Surg. 2020;46(1):20.
- 4)玉城 善史郎:脂腺母斑. 小児内科 54巻 8号 pp. 1422-1425. 2022
- 5)日本形成外科学会 日本創傷外科学会 日本頭蓋骨顔面外科学会 編:形成外科診療ガイドライン1 皮膚疾患 皮膚軟部腫瘍/母斑・色素性疾患(レーザー治療). 第1版. 金原出版. 東京. 2015