監修医師:
伊藤 規絵(医師)
壊疽性膿皮症の概要
壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう:Pyoderma gangrenosum;以下PG)は、慢性に経過し繰り返す蚕蝕性(蚕(カイコ)が桑の葉を食べるように、皮膚組織が徐々に破壊されていく様子)の皮膚潰瘍を特徴とする疾患です。稀な炎症性疾患であり、好中球性の壊死性皮膚病変を特徴とします。通常、外傷や手術後に発症することが多く、自己免疫応答が関与していると考えられています。成人に多く見られ、特に25〜55歳の年齢層で発症することが一般的です。PGは、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎やクローン病)や関節リウマチ、血液疾患(白血病など)などの全身性疾患にしばしば合併します。これらの基礎疾患を持つ患者さんにおいて、免疫系の異常が引き金となって発症することがあります。正確な病因は不明ですが、好中球(白血球の一種で、細菌や真菌から体を守る役割を持つ免疫細胞)の機能異常やサイトカイン(免疫細胞から分泌される情報伝達タンパク質)の過剰発現が関与していると考えられています。特にインターロイキン8(IL-8)が病変部位で過剰に発現することが示されており、これが好中球の集積を引き起こし、炎症を助長します。また、約30%の患者さんでは外傷や手術後に潰瘍化が見られる「パテルギー現象(pathergy)」が観察されます。初期には紅色丘疹や膿疱として現れ、その後急速に潰瘍化します。潰瘍は通常、潰瘍底が壊死を伴い腫脹しており、辺縁は暗褐色から紫色で隆起しており、周囲の皮膚と明確に区別され、全身症状として発熱や倦怠感などが伴うことが多いようです。主に下肢や体幹部(特に殿部や会陰)に好発し、複数の潰瘍が融合して大きな潰瘍を形成することがあります。診断は主に臨床所見に基づいて行われ、生検は通常推奨されません。治療には創傷ケアや抗炎症薬、免疫抑制薬が使用されます。重症度によって治療法を選択し、患者さんごとの管理が重要です。PGは慢性的で再発しやすい疾患であり、適切な診断と治療が求められます。
壊疽性膿皮症の原因
総じて、PGは複雑な病態を持つ疾患であり、完全には解明されていませんが、免疫系の異常、遺伝的要因、全身性疾患の合併、外的刺激など、複数の要因が相互に作用して発症すると考えられています。特に好中球の機能異常が注目されています。好中球は通常、細菌感染などに対する防御機能を担いますが、PGでは過剰に活性化され、無菌性の炎症を引き起こすと考えられています。また、炎症性サイトカインの関与も重要です。特にIL-8の過剰発現が病変部位で観察されており、これが好中球の局所への浸潤や異常な活性化を誘導していると考えられています。遺伝的要因も関与している可能性があり、2011年のNesterovitchらの研究でPG患者さんの遺伝子変異(PTPN6遺伝子の自然挿入変異)が報告されています。これにより、PGが自己炎症性疾患の一種である可能性が示唆されています。さらに、さまざまな全身性疾患に合併することがあります。炎症性腸疾患、関節リウマチ、血液疾患などが代表的です。これらの基礎疾患が免疫系のバランスを崩し、PGの発症につながる可能性があります。また、外傷や手術後に症状が発現するパテルギー現象が観察されます。これは、外的刺激に対する過剰な免疫反応を示唆しています。
壊疽性膿皮症の前兆や初期症状について
通常、皮膚に現れる紅色丘疹や膿疱、水疱から始まります。これらの病変は、虫刺されや吹き出物に似た外観を持ち、急速に大きくなり潰瘍化することがあります。潰瘍が形成されると、強い痛みを伴うことが多く、潰瘍の周囲は暗褐色または紫色に隆起し、下掘りが見られることもあります。壊疽性膿皮症の特徴的な点は、これらの初期症状が他の皮膚疾患や外傷と混同されやすいことです。しかし、病変が急速に進行・拡大するため、早期の医療介入が重要です。初期段階での適切な診断と治療が、症状の悪化を防ぐ鍵となります。
壊疽性膿皮症の病院探し
皮膚科や血液内科、消化器内科の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
壊疽性膿皮症の検査・診断
明確な診断基準は確立されていませんが、主に臨床所見に基づいて行われます。
特徴的な臨床所見:炎症性の紅色丘疹、膿疱、または結節から始まり、急速に拡大し潰瘍化します。潰瘍底は壊死性で腫脹しており、辺縁は暗褐色から紫色を帯び、隆起しています。また辺縁部の下掘れがみられます。
除外診断:感染症、血管障害、悪性腫瘍など、他の潰瘍形成の原因を除外します。
パテルギー現象:約30%の患者さんで、皮膚の外傷や損傷後に潰瘍化が生じます。
関連疾患の評価:炎症性腸疾患、関節リウマチ、血液疾患などの合併の有無を確認します。
組織学的所見:生検は通常推奨されませんが、診断が不確実な場合に行われることがあるます。好中球浸潤を伴う非特異的な炎症所見が見られます。
治療反応性:ステロイドや免疫抑制剤への反応が良好な場合、診断の裏付けとなります。
さらに経験豊富な皮膚科医による総合的な評価が重要で、特に皮膚への侵襲的な処置は症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。また、PGは稀な疾患であるため、他の一般的な皮膚疾患との鑑別が重要となります。
壊疽性膿皮症の治療
患者さんの症状や病歴に応じて個別に行われます。また、治療の基本方針は、潰瘍への外的刺激を避け、安静を保つことです。これにより、潰瘍の悪化を防ぎます。また、治療中は副作用に注意しながら、主治医と密に連携することが重要です。
ステロイド治療:初期治療として、ステロイド外用剤(塗り薬)が使用され、潰瘍の炎症を抑えることを目的とします。外用剤で効果が不十分な場合には、経口ステロイドや免疫抑制剤が投与されることがあります。
生物学的製剤:中等症または重症の場合には、抗TNFα抗体薬(アダリムマブ:ヒュミラ® )が使用されることがあります。これにより、炎症を引き起こす物質であるTNFαの活動を抑制し、潰瘍の縮小や痛みの軽減が期待されます。
創傷管理:潰瘍部位の適切なケアも重要であり、感染予防や創傷の清潔を保つために、適切な包帯やドレッシングが使用されます。
壊疽性膿皮症の対処法
PGそのものは、難病指定されていません。ただし、PGのきっかけとなり得る自己免疫性疾患の一部や、Pyogenic Arthritis(化膿性関節炎)、Pyoderma gangrenosum(壊疽性膿皮症)、Acne(ニキビ)の頭文字を取っているPAPA 症候群という壊疽性膿皮症を一症状とする遺伝性疾患は、難病指定されています。治療費の助成を受けることができます。
壊疽性膿皮症になりやすい人・予防の方法
特定のリスク要因を持つ人々に発症しやすい皮膚疾患です。主に基礎疾患を持つ人や外的刺激を受ける状況が、PGになりやすいとされています。
基礎疾患の存在:炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)、関節リウマチ、血液疾患(白血病など)を抱える患者さんは、PGのリスクが高まります。これらの疾患は免疫系に影響を与え、自己免疫反応を引き起こす可能性があります。
外的刺激:外傷や手術後に潰瘍が発生することが多いため、身体に対する外的刺激を受けやすい環境にいる人もリスクが高いです。特に、過去に皮膚に傷や炎症があった場合は注意が必要です。またPGは慢性経過で、特に基礎疾患を持つ患者さんは再発しやすいため、定期的な医療のフォローアップと予防が大切です。
創部(傷口)の管理:皮膚に傷ができた場合は、清潔に保ち、感染を防ぐために適切な処置を行うことが重要です。特に免疫抑制剤を使用している場合は、感染リスクが高まるため注意が必要です。
健康的な生活習慣:バランスの取れた食事や十分な睡眠、ストレス管理など通して健康を維持することも予防につながります。特に免疫力を低下させない生活習慣は重要です。
基礎疾患の管理:炎症性腸疾患や関節リウマチなどの基礎疾患がある場合は、定期的な診察と適切な治療を受けることが推奨されます。これにより、PGの発症リスクを低減できます。
早期発見・早期治療:初期症状(紅色丘疹や膿疱)に気づいたら、速やかに皮膚科を受診することが重要です。早期の適切な治療により、症状の悪化を防ぐことができます。
関連する病気
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- 関節炎(Arthritis)
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