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色素性乾皮症
井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

色素性乾皮症の概要

色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum;以下XP)は、太陽光に対して過度に敏感に反応する遺伝性の疾患です。この病気では、露出した皮膚に乾燥、色素沈着が生じ、皮膚がんのリスクが著しく高まります。XPの患者さんは、通常の人なら問題ない程度の日光でも、深刻な日焼け症状を引き起こすことがあり、その回復には1~2週間ほどかかることもあります。日本における発症率は約2.2万人に1人と推定されており、国内の患者数は300人から600人程度と考えられています。

色素性乾皮症の原因

XPは遺伝的特徴により、A~G群とV型の8つのタイプに分けられます。各タイプには特定の遺伝子の異常が関連しています。A~G群の遺伝子は、DNAの修復システムに必要なタンパク質の生成に関わっています。一方、V型の遺伝子は、DNAに損傷があっても複製を続けるためのタンパク質を作ります。これらの遺伝子が正常に機能しないことで、XP患者さんではDNAの損傷が蓄積し、細胞のがん化リスクが高まると考えられています。
日本では、A群とV型の患者さんが多く見られます。その割合としては、A群が55%、V型が25%、D型が8%、F型が7%、C型が4%であり、E型は稀です。B型は日本での報告例はありません。

色素性乾皮症の前兆や初期症状について

XPの初期症状は主に皮膚症状神経症状の2つに分類されます。皮膚症状はさらに、わずかな日光でも強い反応を示す「サンバーン増強型」と、穏やかな反応を示す「色素異常型」に分けられます。

サンバーン増強型

サンバーン増強型は、A群、B群、D群、F群、G群に見られます。この型では、通常なら日焼けを起こさないような少量の日光でも、皮膚に激しい反応が現れます。具体的には、以下のような反応(症状)が現れます。

  • 日光に当たった部分が赤く腫れ上がる
  • 強い炎症を伴う浮腫(むくみ)が生じる
  • 水ぶくれができる
  • 皮膚がただれる(びらん)

なお、サンバーン増強型の中でもA群は最も症状が重くなります。これらの症状は日光曝露後3~4日間強く現れ、治癒までに1週間以上かかることもあります。繰り返し反応が起こると、1~2歳頃から日光に当たる部分にそばかすに似た色素斑(しみ)が目立つようになります。また、目の白い部分(強膜)が赤く充血することもあります。

色素異常型

色素異常型はC群やV型に多く見られます。この型では激しい反応はあまり起こりませんが、幼児期から日光に当たる部分に多数のそばかすに似た色素斑(しみ)が現れます。また、脱色素斑(皮膚の白斑)が見られることもあります。

色素異常型では、日光曝露の程度により、早い場合は10歳頃から日光に当たる部位に皮膚がんが発生することがあります。中年以降になって皮膚がんが多発し、それをきっかけにXPと診断されるケースも存在します。

神経症状

神経症状は日本ではA群で多く見られます。主な症状には聴力低下や平衡感覚の障害(転倒しやすくなる)などがあります。神経症状を伴うXP患者さんは、次のような経過をたどることが多いとされています。
乳幼児期は、運動機能(寝返りや歩行など)の発達がやや遅れることがありますが、基本的な運動機能は獲得できます。しかし、6歳頃に運動機能がピークに達すると、その後は、徐々に転倒しやすくなるなど、神経症状が顕在化してきます。
小学校低学年の頃に聴力低下が始まり、小学校高学年の頃には補聴器が必要になることがあります。15歳頃(中学校卒業時期)には知的障害の進行により、言語機能が失われることもあります。

色素性乾皮症が疑われる際の受診科

皮膚症状は全ての患者さんに出現し、発症時期も早いことから、まずは皮膚科を受診することが推奨されます。ただし、XPと診断された場合には、皮膚科や神経内科、小児科、眼科などの医師がチームを組んで対応します。

色素性乾皮症の検査・診断

XPの診断は、症状の観察、各種検査結果、そして遺伝子診断を組み合わせて行われます。XPには8種類の原因遺伝子があり、神経症状の有無や光線過敏の程度によってタイプが異なります。そのため、早期の遺伝子診断は患者さんの予後予測や生活指導に重要な役割を果たします。
Pの診断基準となる主な症状には以下のようなものがあります。

  • 年齢不相応な色素斑(しみ)が日光露出部位にのみ見られる
  • 通常では日焼けを起こさない程度の紫外線で、水疱を伴う強い浮腫性紅斑が発生する
  • 50歳未満で日光露出部位に皮膚がんが多発する
  • 原因不明の神経障害(難聴や歩行障害など)が見られる

XPの診断に用いられる検査には、患者さんの細胞を用いたDNA修復能力の評価や聴力検査などがあります。最終的な確定診断には、上記の症状や検査所見に加えて、遺伝子診断が重要な役割を果たします。日本では、現在、神戸大学医学部附属病院と大阪医科大学附属病院で遺伝子診断を受けることが可能です。

色素性乾皮症の治療

現在のところ、XPを完治させる治療法は確立されていません。治療は主に以下の3つの側面から行われます。

  • 徹底的な遮光
  • 皮膚がんへの対応
  • 神経症状に対するケア

ただし、XPの症状は個々の患者さんによって異なるため、定期的な医師の診察が欠かせません。

遮光の重要性

XP患者さんにとって、生涯にわたる徹底的な遮光は最も重要な対策です。具体的には以下の点に注意が必要です。
外出時の対策

  • SPF30以上の日焼け止めを2時間ごとに塗り直す
  • 長袖、長ズボン、帽子、サングラス、UVカットマスクを着用する

室内での対策

  • 窓ガラスにUVカットフィルムを貼る
  • 窓を開ける際は遮光カーテンを使用する

皮膚がんへの対応

皮膚がんが発生した場合、早期発見と迅速な切除が重要です。通常のがん治療と同様に、がんとその周囲の正常組織を切除しますが、XP患者さんの場合は特に、切除部位に日光に曝されていない皮膚を移植する「植皮」という方法がよく用いられます。

神経症状への対応

現在のところ、神経症状に対する効果的な治療法は確立されていません。神経症状の発生メカニズムについては研究が進行中であり、その解明が新たな治療法の開発につながる可能性があります。
神経症状を伴うXP患者さんでは、長期の入院などで体を動かす機会が減ると、日常生活動作が困難になることがあります。リハビリテーションが症状の進行を遅らせる可能性はありますが、適切な運動負荷の程度についてはまだ明確になっていません。

色素性乾皮症になりやすい人・予防の方法

XPは遺伝性疾患であるため、特定の人々が特になりやすいということはありません。また、遺伝性疾患である性質上、予防することは困難です。
遺伝的な観点から見ると、両親がともにXP遺伝子を保有している場合、その子どもがXPを発症する確率は理論上25%となります。日本ではXPの発症率が欧米と比べて高く、約100人に1人がA群の遺伝子変異を持っているという報告もあります。

XPは早期診断と適切な治療、そしてその後の生活指導が重要です。そのため、少しでも気になる症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診することをお勧めします。早期の対応が、患者さんのQOL(生活の質)向上につながる可能性があります。


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  • 基底細胞癌(Basal Cell Carcinoma)
  • 扁平上皮癌(Squamous Cell Carcinoma)
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