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中毒疹
伊藤 規絵

監修医師
伊藤 規絵(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。

中毒疹の概要

中毒疹(ちゅうどくしん、toxicoderma)は、全身に皮疹が出現する非特異的な皮膚疾患の総称です。
この用語は主に日本で使用され、欧米ではtoxicodermaという表現はあまり用いられません。特徴と症状は、全身に左右対称性の紅斑(皮膚に現れる赤い斑点や広がりで、炎症やアレルギー反応の一部として生じる)の出現や、斑状丘疹状の発疹(maculopapular rash)が一般的です。また掻痒(かゆみ)の程度はさまざまです。
原因は多岐にわたり、特定が困難な場合がありますが、ウイルス感染症や細菌感染症、薬剤の影響が多い傾向にあります。診断は主に臨床症状に基づいて行われますが、多くの場合、暫定的となります。原因が特定できた場合、より具体的な病名に変更されることがあります。例えば、薬剤が原因と特定された場合は薬疹となり、ウイルスの種類が特定された場合は水痘、麻疹などと診断されます。
治療は症状の重症度や原因によって異なります。軽症の場合はステロイド外用薬と抗アレルギー薬の内服が主体となります。重症の場合はステロイド剤の内服や注射となります。原因薬剤がある場合は、直ちに薬剤の変更または中止を行います。注意すべき点は、中毒疹の診断は暫定的なものであり、継続的な観察と原因究明を行うことです。特に、症状が改善せず悪化する場合では、スティーヴンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS、皮膚粘膜眼症候群)や中毒性表皮壊死融解症( Toxic epidermal necrolysis:TEN)などの生命を脅かす可能性のある状態に進行することもあるため、専門医による迅速な診断と治療が必要となります。

中毒疹の原因

中毒疹の原因は多岐にわたり、特定が困難な場合が多いようです。主な原因別分類として以下が挙げられます。

1.環境毒素性中毒疹
ヒ素、水銀などの単純化学物質(毒物)による発疹
2.薬物性中毒疹
薬疹
3.食事性中毒疹
食物誘導性の蕁麻疹・湿疹・痒疹・紅斑(例:牛乳誘導性湿疹)、食品添加物誘導性の蕁麻疹・湿疹・紅斑など
4.刺螫(ししゃく)性中毒疹
ハチやムカデ、ダニなどの有毒動物の刺傷から生じる発疹
5.感染性中毒疹
溶連菌(レンサ球菌属)やブドウ球菌属などの細菌感染、またはヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)、EBウイスル、サイトメガロウイルス、ヒトパルボウイルス、マイコプラズマ、麻疹、風疹、肝炎ウイルスなどのウイルス感染
6.全身疾患性中毒疹
糖尿病・腎疾患・肝疾患癌誘導性の発疹

中毒疹の前兆や初期症状について

原因や個人によって異なりますが、一般的に次のような特徴が見られます。皮膚症状は、全身に左右対称性の淡い紅斑が出現します。斑状丘疹状の発疹(平坦な紅斑に小さな隆起性の丘疹が散在する特徴的な皮疹)が最も一般的な初期症状です。発疹は通常、体幹部から始まり、四肢に広がる傾向があります。全身症状は軽度の発熱や倦怠感を伴うことがあります。かゆみの程度はさまざまで、軽度から中等度のかゆみを感じる場合があります。
粘膜症状は口腔内や眼の粘膜に軽度の炎症が見られることがあります。また口唇の腫脹や口内炎が初期症状として現れる場合もあります。注意点として、中毒疹の初期症状は非特異的であり、ほかの皮膚疾患との鑑別が難しい場合があります。症状の進行速度や重症度は原因によって異なるため、早期の医療機関受診が重要です。特に薬剤性の場合、初期症状が現れてから重症化するまでの時間が短いことがあるため、注意が必要です。
中毒疹の前兆や初期症状は多様であり、専門医による適切な診断と経過観察が重要です。

中毒疹の病院探し

皮膚科歯科口腔外科耳鼻咽喉科アレルギー科の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。

中毒疹の検査・診断

中毒疹の検査・診断は、症状の多様性と原因の複雑さから、問診や身体所見、検査所見などを組み合わせたアプローチが必要です。

1)問診と視診
発疹の出現時期と進行状況や最近使用した薬剤や摂取した食品、感染症の症状や接触歴、全身症状(発熱、倦怠感など)の有無などを確認します。
2)血液検査
白血球分画で好酸球増多は薬疹の可能性を示唆します。肝機能・腎機能検査では内臓臓器障害の有無を確認します。感染症関連検査ではヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)、EBウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトパルボウイルス、マイコプラズマ、麻疹、風疹、肝炎ウイルスなどの抗体検査を行います。
3)皮膚生検
皮膚の一部を採取して顕微鏡で観察する病理検査は、診断の確定に有用です。
4)アレルギー検査
薬剤アレルギーが疑われる場合、パッチテスト(皮膚に薬剤を貼付して反応を観察)やリンパ球刺激試験((DLST):患者さんの血液から分離したリンパ球と疑わしい薬剤を反応させ、刺激の有無を確認)を行います。

中毒疹の治療

中毒疹の治療は、原因や症状の重症度に応じて適切に行われますが、治療の第一歩は原因の特定と除去です。薬剤が原因の場合、疑わしい薬剤の使用を中止します。感染症が原因の場合、適切な抗菌薬や抗ウイルス薬を投与します。
また、症状の緩和と炎症の抑制のために外用剤や内服薬を用います。外用療法は、ステロイド外用剤(炎症を抑制し、かゆみを軽減)や抗ヒスタミン外用剤(かゆみの軽減に効果)があります。内服療法には、抗ヒスタミン剤(かゆみを抑制)やステロイド内服薬(重症例や広範囲の発疹に対して使用)があります。
また、十分な水分摂取と栄養管理が重要です。入浴は皮膚の清潔を保つためにシャワーのみとし、刺激を避けます。
重症例や全身症状を伴う場合は、ステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法が考慮されます。
さらに治療開始後も定期的な経過観察(症状の改善を確認や副作用のモニタリング、原因の再評価)が必要です。

中毒疹の対処法

スティーヴンス・ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は厚生労働省の特定疾患(指定難病)に指定されており、治療費の助成を受けることができます。

スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)とは

SJSは、38℃以上の高熱を伴い全身の皮膚に紅斑や水疱・びらんが生じる重篤な疾患です。眼球結膜や角膜、口腔、外陰部などの粘膜にもびらんや出血が現れます。皮膚粘膜眼症候群とも呼ばれます。主に薬剤が原因とされ、早期診断と適切な治療が重要です。重症化すると生命を脅かす可能性があり、視力の低下や失明などの後遺症を残すこともあります。

中毒性表皮壊死融解症(TEN)とは

TENは、SJSから進展する場合が多いようです。重篤な皮膚粘膜障害を特徴とする生命を脅かす疾患です。主に薬剤が原因となり、全身の皮膚に広範囲な紅斑、水疱、表皮剥離が生じます。体表面積の30%以上に病変が及び、口腔、眼、外陰部などの粘膜にもびらんが発生します。高熱や全身倦怠感を伴い、死亡率は20〜40%と高く、敗血症や多臓器不全が主な死因です。早期診断と原因薬剤の中止、集中治療室での支持療法が重要です。

中毒疹になりやすい人・予防の方法

アトピー素因を持つ人、アレルギー反応を起こしやすい体質の人は中毒疹のリスクが高くなります。また複数の薬剤を服用している人、特に高齢者や慢性疾患患者さんは、薬物相互作用のリスクが高まります。免疫機能が低下している人、HIV感染者や免疫抑制剤を使用している患者さんは、中毒疹のリスクが増加します。

予防方法はまず、薬剤使用、特に新しい薬を開始する際は、医師や薬剤師に副作用について確認し、慎重に使用します。またアレルギー歴の把握も大切です。自身のアレルギー歴を把握し、医療従事者に伝えることが重要です。生活習慣の改善、適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠など、免疫機能を維持する生活習慣を心がけます。また感染症の予防、手洗いやマスク着用など、基本的な感染予防策を実践します。中毒疹の完全な予防は困難ですが、これらの対策を講じることでリスクを軽減できます。また、症状が現れた場合は早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。


関連する病気

  • 薬物過敏症
  • スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
  • 中毒性表皮壊死症(TEN)
  • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

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