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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

慢性蕁麻疹の概要

蕁麻疹は、赤み(紅斑)を伴う、皮膚の小さな膨らみ(膨疹)が一時的に出現する病気のことです。そして多くの場合かゆみを伴い、その感じ方は下記のようにさまざまです。

  • むずむず
  • チクチク
  • 焼けるような感じ

蕁麻疹の症状は毎日のように出現し、発症からの期間によって分類されます。

  • 発症から6週間を超えたもの:慢性蕁麻疹
  • 発症から6週間以内のもの:急性蕁麻疹

慢性蕁麻疹によって生じる皮膚の変化(皮疹)はさまざまで、小豆大ほどの大きさのものから手のひらより大きく広がる膨疹もあります。また、皮疹の形も多様です。

  • 円形
  • 楕円形
  • 線状
  • 花びら状
  • 地図状

ただし、これらの形状自体には本質的な意義はないとされています。なお、皮疹の持続時間は数十分から数時間程度のことも多いですが、人によっては2〜3日続くこともあるようです。慢性蕁麻疹の症状が出やすい、または悪化しやすい時間帯は、夕方から夜間にかけてといわれています。したがって、診察時に症状が治まっている場合もあります。また慢性蕁麻疹の治療は、数ヶ月から数年と長期間にわたることも多いようです。

慢性蕁麻疹の原因

慢性蕁麻疹は、ほとんどの場合原因がわかりません。特定の原因というよりも、さまざまな要因が関与しており、ある種の閾値を超えた場合に蕁麻疹の症状が現れると考えられています。

たとえば感染やストレス、疲労、治療のための薬そのものが、慢性蕁麻疹の原因や症状悪化につながることもあります。また自己抗体(IgEや高親和性IgE受容体)や、ヘリコバクターピロリ菌の感染が関与することも知られていますが、これだけが原因とはいえないようです。

慢性蕁麻疹の前兆や初期症状について

慢性蕁麻疹は、明確な原因がないまま、突然自発的に紅斑、膨疹が出現します。皮疹が1日に数十分だけだったとしても、毎日のように続くようであれば、慢性蕁麻疹の可能性があります。慢性蕁麻疹が疑われる場合は、皮膚科を受診してください。

慢性蕁麻疹の検査・診断

慢性蕁麻疹は、主に問診と症状に基づいて診断されます。なぜなら多くの場合、皮疹の状態や経過、ほかの疾患や蕁麻疹の病型を除外することで判断できるからです。そのため蕁麻疹以外に明らかな所見がなく、皮疹に変わった特徴がない場合、検査は行いません。つまり慢性蕁麻疹の診断には、丁寧な問診と身体所見が重要です。なお皮疹のほか、全身の倦怠感や関節痛、発熱などが併発している場合は、内臓疾患が疑われるため詳しい検査が必要となります。

慢性蕁麻疹の治療

慢性蕁麻疹の治療は、抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)を基本とする薬物療法が中心となります。抗ヒスタミン薬を内服することで、慢性蕁麻疹の症状出現が抑えられることも多いからです。また抗ヒスタミン薬の内服を続けることで、皮疹出現を抑制する効果が期待できます。

ただし、抗ヒスタミン薬の効き方には下記のように個人差があります。

  • 薬の治療効果が現れるまでに、3~4日かかることもある
  • 内服を続けると、週単位で症状が軽減することもある

そのため1つの抗ヒスタミン薬の効果を判断するには、1〜2週間継続して内服する必要があります。ただし、症状が重く抗ヒスタミン薬による軽減が待てない場合、速やかに症状の軽減を図る必要がある場合は、早期に治療をステップアップすることもあるようです。

治療のステップアップ手順

蕁麻疹の症状と効果に応じて行う、ステップアップ方法を紹介します。ステップアップするときは、下記の点に留意しましょう。

  • 症状の程度
  • 追加する治療薬の効果の大きさ
  • 追加する治療薬の副作用
  • 経済的負担

なおステップアップによって蕁麻疹症状の軽減が見られたときは、原則として患者さんにとって負担の高いものから優先的に減量、中止していきます。

【ステップ1】

抗ヒスタミン薬を2倍量まで増量(※)
ほかの抗ヒスタミン薬へ変更、もしくは2種類の抗ヒスタミン薬を併用
(※)増量が認められていない薬もあるため、種類選択には注意が必要である。

【ステップ2】

ステップ1に追加して、ヒスタミンH2拮抗薬または/および抗ロイコトリエン薬を併用
適宜そのほかの補助的治療剤(※)の併用も可能
(※)補助的治療剤とは、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(注射)、グリチルリチン製剤(注射)、ジアフェニルスルホン、抗不安薬、トラネキサム酸、漢方薬などのこと。

【ステップ3】

ステップ2に追加して、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン換算量 <0.2mg/kg/日)を内服(※1)
これらの治療でも蕁麻疹症状が強い場合や、副作用の影響でこれらの方法で症状制御が困難な場合は、オマリズマブ(注射)またはシクロスポリンに変更(※2)
(※1)ステロイドの内服は、できるだけ短期間に留めることが望ましい。目安は1~3週間で、症状が激しいときのみ使用する。
(※2)シクロスポリンは副作用の危険性があるため、慎重な管理が必要。

治療期間

慢性蕁麻疹の薬物治療期間は、人によってさまざまです。蕁麻疹の症状が消失したら、段階的に内服を減らしていきます。

【症状消失後の流れ】

抗ヒスタミン薬や、抗ヒスタミン薬と補助的治療剤での治療で蕁麻疹症状が消失した場合は、同じ薬剤によって予防的な内服を続ける

さらに一定の期間(※)、蕁麻疹症状が現れなかった場合は1日あたりの内服量を減量するか、内服間隔を空ける

3日に1度ほどの内服で症状が現れない状態になったら、一度内服を中止する
内服中止後、症状出現が週2~3程度で、1回に現れる膨疹数が数個以内であれば頓服に変更
(※)一定の期間は、蕁麻疹発症から消失までの期間(病脳期間)によって異なる。病脳期間が1〜2ヶ月の場合は予防的な内服が1ヶ月、それ以上の場合は2ヶ月が目安となる。

妊婦・授乳婦の治療法

妊婦に対する慢性蕁麻疹の薬物療法に関しては、十分な安全性が確立されていません。とくに器官形成期である妊娠4ヶ月ごろまでは、薬物治療をしないことが望ましいとされています。ただし、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合には、十分な説明と同意を得れば抗ヒスタミン薬を使用することが認められています。

授乳中の女性も薬物治療は避けた方がよいでしょう。また、抗ヒスタミン薬の使用を優先する場合は授乳を止めることが望ましいとされています。なぜなら、体内に吸収された抗ヒスタミンは乳汁中にも移行するからです。ただし、経口抗ヒスタミン薬は乳汁への移行量が少ないと考えられるため、使用についてはリスクと有用性を踏まえての判断が必要となります。

小児の治療法

小児の慢性蕁麻疹では、基本的に成人のガイドラインに準じて治療を進めます。ただし小児の薬物療法についてはエビデンスが乏しいため、より安全性への配慮が必要です。

  • 抗ヒスタミン薬の増量に関するエビデンスはないため、至適用量を基本とする
  • コントロールが難しい場合は、効果と危険性のバランスを考慮し、成人のアルゴリズムを適用する
  • ステロイドの内服は3~7日間が望ましい

慢性蕁麻疹になりやすい人・予防の方法

慢性蕁麻疹は原因がはっきりしないため、症状の出現を避けることは困難です。ただし精神的ストレスや身体的ストレスが、慢性蕁麻疹の症状悪化につながりやすいともいわれています。たとえば慢性蕁麻疹をわずらっている方は、下記のような傾向があるようです。

  • ストレスを抱えている自覚のない方
  • ストレスに対して内向的に考えてしまう方

職場や家庭の環境変化によって蕁麻疹が出現したり消失したりする場合はストレスが原因の1つとなっている可能性があります。ストレスをためない、十分な睡眠をとり疲労をためない、趣味を見つけるなど、生活スタイルを見直すことが慢性蕁麻疹の予防に役立つ可能性があります。


参考文献

  • 日本皮膚科学会 蕁麻疹診療ガイドライン 2018
  • 公益社団法人 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A蕁麻疹

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