監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
扁平母斑の概要
扁平母斑(へんぺいぼはん)は、皮膚に発生する良性の色素性病変です。一般的に皮膚の浅い箇所にメラニンが増え、茶色いあざのようになるため「茶あざ」とも呼ばれます。色調は個人差があり、淡い茶色から濃い褐色までさまざまです。
扁平母斑は通常、出生時または生後間もなく現れ、年齢とともに大きくなることがあります。思春期になって発生する遅発性のものもあり、その場合は毛が生えることがあります。扁平母斑は、表皮に存在するメラノサイトと呼ばれる色素細胞の局所的な増殖によって生じ、身体のどの部位にも発生しえます。ほくろのような盛り上がりはありません。
薄い茶色のものは「カフェオレ斑」と呼ばれます。またカフェオレ斑の中に色調の濃い点状の黒褐色斑が散在するものは「点状集簇性母斑」といい、肩に発生し、遅発性・発毛性があるものを「ベッカー母斑」と呼びます。いずれも基本的に良性で健康上の問題は稀ですが、美容的観点から治療を希望することも少なくありません。
扁平母斑の原因
扁平母斑は、メラノサイト細胞の異常な活発化が原因でメラニンが増え、表皮に沈着することによって生じます。しかし、メラノサイトがなぜ活発化するのか、その根本原因は未解明です。
外傷や擦り傷などが直接的な原因となることはなく、紫外線などの外的要因が既存の扁平母斑を濃くする可能性はあるものの、発生自体の明確な環境的要因は立証されていません。
扁平母斑の前兆や初期症状について
扁平母斑は、多くの場合、生まれつきあるいは生後間もなく出現します。そのため、特定の「前兆」や「初期症状」という概念は乏しいですが、以下の特徴があります。
- 出生時または生後数ヶ月以内に淡い色素斑が出現
- 成長とともにサイズや濃さが変化する場合がある
- 思春期や妊娠中などホルモン変化の時期に色調が濃くなることがある
- 紫外線曝露で一時的に濃くなることもある
診療科目としては、皮膚科や形成外科が適し、乳幼児の場合は小児科も考慮されます。
扁平母斑の検査・診断
視診
医師による視診が診断の基本です。色調、形状、大きさ、個数などを確認します。
問診
発症時期、家族歴、最近の変化(色、形、大きさ)や自覚症状(かゆみ、出血など)について確認します。
ダーモスコピー検査
拡大鏡で皮膚表面を観察し、悪性病変との鑑別を行います。
これらの情報を総合して診断します。
扁平母斑の治療
扁平母斑は良性であり、健康上のリスクは少ないため、必ずしも治療の必要はありません。しかし、美容的な理由や心理的負担軽減のため、以下の治療オプションがあります。
経過観察
小さな扁平母斑や問題のない場合は定期的な観察のみで十分です。
レーザー治療
Qスイッチレーザーやアレキサンドライトレーザーなど、メラニンを選択的に破壊するレーザーを用います。複数回の治療が必要となることが多く、完全な消失は難しい場合があります。
外科的切除
レーザー治療で効果がない場合や再発を繰り返す場合、外科的切除も選択肢となりえます。
凍結療法
液体窒素で病変部を凍結させる方法。色素脱失や瘢痕のリスクがあり、現在はレーザー治療が主流です。
薬物療法・ケミカルピーリング
ハイドロキノンなど漂白剤を用いた外用薬や、ケミカルピーリングによる色素薄化が試みられることもありますが、効果は限定的です。
治療後の再発や色調変化、色素脱失がありうることを理解した上で治療を検討します。
扁平母斑になりやすい人・予防の方法
扁平母斑は先天的要因が大きく、誰がなりやすいか明確な特徴はありません。健常人の約10人に1人は扁平母斑を持っています。予防策としては発生自体を防ぐことは難しいですが、色素が濃くなる要因を減らすことは可能です。
紫外線対策
日焼け止めを使用し、直射日光を避けることで、既存の扁平母斑が濃くなるのを防ぎます。
定期的な自己チェック
月に一度程度、扁平母斑の状態を確認し、色や大きさの変化を早期発見します。
適切なスキンケア
刺激の少ないケアを行い、こすらないよう注意します。
外傷の予防
直接的な原因にはなりませんが、外傷による色素沈着を防ぐため、扁平母斑のある部位を過度に刺激しないようにしましょう。
扁平母斑は基本的に良性であるため、健康上の大きな問題は少ないですが、美容的な悩みや心理的負担がある場合は、皮膚科や形成外科医と相談して最適な治療法を検討しましょう。
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