監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
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多形紅斑の概要
多形紅斑(たけいこうはん)は、皮膚や粘膜に特徴的な発疹(はっしん)が現れる炎症性の皮膚疾患です。この疾患の名称は、多様な形態(多形)の紅い発疹(紅斑)が現れることに由来しています。
多形紅斑の特徴的な症状は、標的状または虹彩状と呼ばれる発疹です。これらの発疹は通常、手や足、腕や脚に対称的に現れます。重症度によっては、口腔内や生殖器などの粘膜にも症状が現れることがあります。
多形紅斑は、軽度から重度までさまざまです。軽症型は主に皮膚症状が主にみられますが、重症型では口の中など粘膜病変を伴い、全身症状も現れることがあります。
多形紅斑は通常、2〜4週間程度で自然に軽快する傾向にありますが、再発することもあります。適切な治療と管理により、症状の緩和と合併症の予防が可能です。
多形紅斑の原因
多形紅斑の発症メカニズムは完全には解明されていません。しかし、免疫系の過剰反応が関与していると考えられています。主な原因をみてみましょう。
感染症
- ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなど)
- 溶連菌
- マイコプラズマ
薬剤
多形紅斑の推定原因医薬品は、広範囲に渡ります。
- 抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)
- 解熱鎮痛剤(アスピリン、イブプロフェンなど)
- 風邪薬
- 非イオン性造影剤
- 抗悪性腫瘍薬
- 抗てんかん薬
- 痛風治療薬
- サルフ薬剤
- 消化性潰瘍薬
- 筋弛緩薬
- 高血圧治療薬
原因と考えられる医薬品を服用してから約2週間以内での発生が多くみられます。しかし1ヶ月以上経った後に発症する可能性もあります。薬剤性の場合、服用した医薬品の種類を医師に伝えることが重要です。
その他
- 全身性エリテマトーデス
- 悪性腫瘍(グルカゴノーマなど)
- 放射線療法
- ワクチン接種
以上の要因が引き金となり、免疫系が過剰に反応することで皮膚や粘膜に炎症が生じ、多形紅斑の症状が現れると考えられています。しかし約半数の症例では、明確な原因が特定できていません。
患者さんにより原因が異なるため、詳細な問診と検査を行い、可能な限り原因を特定することが重要です。原因の特定は、適切な治療方針の決定や再発予防に役立ちます。
多形紅斑の前兆や初期症状について
多形紅斑は、突然に症状がみられることが多い疾患ですが、一部の患者さんでは、前兆症状がみられることもあります。多形紅斑の前兆や初期症状、そして推奨される受診科目について解説します。
前兆症状
- 軽度の発熱
- 倦怠感
- 関節痛
- のどの痛み
- 上気道感染症状(咳、鼻水など)
しかし上記の症状は非特異的であり、多くの疾患でみられるため、必ずしも多形紅斑の前兆とは限りません。
多形紅斑の症状
- 皮膚の広い範囲が赤くなる
- 水ぶくれが皮膚の赤い部分にできる
- 唇のただれ
- 口腔内の水疱
- 目の充血
受診すべき診療科
多形紅斑の症状が疑われる場合、まずは皮膚科の受診をおすすめします。多形紅斑は主に皮膚症状であり、皮膚科医が診断と治療の中心的な役割を担うからです。皮膚科医は発疹の特徴や分布を詳細に観察し、適切な診断と治療を行います。
ほかに原因となる感染症や全身疾患の評価が必要な場合、内科医の診察を受けることが重要です。特に発熱や全身症状を伴う場合は、内科での精査が推奨されます。
重症例で眼粘膜に症状が現れる場合は眼科、口腔内や咽頭に症状がある場合は耳鼻咽喉科医の診察を受けることも考慮されます。
重要なのは、症状が急速に悪化する場合や、38℃以上の高熱、息苦しさなどの呼吸困難、広範囲の粘膜症状などの重症徴候がある場合は、速やかに医療機関を受診することです。
唇や目の症状が強い場合や急激な皮疹の拡大がある場合は、スティーヴンス・ジョンソン症候群と診断される場合もあるので早急に専門機関を受診しましょう。
多形紅斑の検査・診断
多形紅斑の診断は、主に臨床症状と皮疹の特徴的な外観に基づいて行われます。確定診断や原因の特定、ほかの疾患との鑑別のために、いくつかの検査が行われることがあります。以下に、多形紅斑の診断プロセスと主な検査について説明します。
身体診察
- 症状が出ている場所の診察
- 粘膜病変の有無と程度の確認
問診
- 症状の発症時期と経過
- 最近の感染症や薬剤使用の有無
- アレルギー歴
- 既往歴(特に自己免疫疾患や悪性腫瘍)
- 家族歴
皮膚生検
診断が不確実な場合や、ほかの疾患との鑑別が必要な場合に行われます。皮疹の一部を採取し、顕微鏡で組織学的に観察します。
血液検査や感染症検査
発熱やだるさがある場合に行われます。ほかにも尿検査、胸部レントゲン撮影などが行われることもあります。
鑑別診断
診断の過程で、以下の疾患との鑑別が重要です。
- スティーヴンス・ジョンソン症候群
- 中毒性表皮壊死症(TEN)
- 薬疹
- 水痘
- 膠原病
- 自己免疫性水疱症
- 慢性蕁麻疹
多形紅斑の診断は、これらの検査結果と臨床症状を総合的に評価して行われます。重症度の評価も同時に行い、適切な治療方針を決定します。
多形紅斑の治療
多形紅斑は自然に治癒することが多いため、対症療法が中心となります。基礎疾患が原因の場合は、その治療を行うことが重要です。以下に主な治療方法を説明します。
原因の除去
- 薬剤性の場合は、原因と考えられる薬剤を中止します。ただし、症状がよくなったからといって自己判断で薬剤を再開することは禁止です。医師の指示に従い、慎重に対応することが必要です。
外用薬
ステロイド外用薬
皮疹に対して使用します。
内服薬
抗ヒスタミン薬
痒みの軽減に使用します。
ステロイド内服薬
炎症や発熱を軽減するために使用します。重症例や広範囲の病変がある場合に適応されます。
抗ウイルス薬
ヘルペスウイルスが原因と考えられる場合、アシクロビルやバラシクロビルなどを投与します。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
炎症や疼痛の緩和に使用します。ただし、NSAIDsが原因の可能性がある場合は使用を避けます。
治療の選択と経過観察は皮膚科医が中心となりますが、必要に応じて内科、眼科、耳鼻咽喉科などと連携して治療を行うこともあります。
治療期間は、症状の程度や原因によって異なります。多形紅斑は多くの場合2〜4週間程度で症状が改善することの多い疾患です。ただし、重症例や原因が持続する場合は、より長期の治療が必要になることがあります。
多形紅斑になりやすい人・予防の方法
多形紅斑の原因は、さまざまです。どのような人がなりやすいかなどの傾向はありません。春から夏にかけて若い女性に多いという報告もあります。しかし明確なエビデンスは存在しません。
以下に多形紅斑になりやすい人のリスクをあげますが、必ずしも当てはまるからといって多形紅斑になるわけではないのが実態です。
既往歴
- ヘルペスウイルス感染の既往がある人
- 自己免疫疾患(特に全身性エリテマトーデス、ベーチェット病など)を有する人
- アレルギー体質の人
薬剤感受性
- 特定の薬剤(抗生物質、解熱鎮痛剤、抗てんかん薬など)に対して過敏症がある人
免疫機能
- 免疫機能が低下している人(HIV感染症、化学療法中の患者さんなど)
予防の方法
明確な予防方法がないため、多形紅斑の完全な予防は困難です。しかし以下の方法によりリスクを軽減できる可能性があります。
原因の回避
- 過去に多形紅斑を引き起こした薬剤の使用を避ける
- 原因となった感染症(特にヘルペスウイルス感染)の再発予防
感染症予防
- 適切な手洗いやうがいの実施
- バランスの取れた食事と十分な睡眠による免疫力の維持
- 必要に応じてワクチン接種
薬剤使用の注意
- 新しい薬剤を使用する際は医師や薬剤師に相談する
- 処方薬の説明書をよく読み、副作用に注意する
皮膚ケア
- 保湿剤の使用による皮膚バリア機能の維持
- 過度の紫外線曝露を避け、日焼け止めを適切に使用する
ストレス管理
- ストレスは免疫機能に影響を与える可能性があるため、適切なストレス管理を行う
生活習慣の改善
- 禁煙(喫煙は免疫機能に悪影響を与える可能性がある)
- 適度な運動の実施
- アルコールの過剰摂取を避ける
定期的な健康チェック
- 基礎疾患(自己免疫疾患など)がある場合は定期的に受診し、適切な管理を行う
早期発見・早期治療
- 皮膚に異常を感じたら早めに皮膚科を受診する
これらの予防法は、多形紅斑の発症リスクを完全に排除するものではありません。しかしリスクを軽減し、早期発見・早期治療につながる可能性があります。特に過去に多形紅斑の既往があれば、再発のリスクが高いため注意を払うことが重要です。
関連する病気
- 単純ヘルペスウイルス感染症(HSV)
- 薬剤性過敏反応
- 感染症
- 膠原病