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石灰化上皮腫
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

石灰化上皮腫の概要

石灰化上皮腫(せっかいかじょうひしゅ)は、皮膚に発生する良性腫瘍の一種で、主に顔面や上肢、特に耳や目の周囲に現れることが多く、毛包腫(もうほうしゅ)とも呼ばれています。石灰化上皮腫の特徴は、皮膚の一部が石灰のように硬くなることです。

石灰化上皮腫は若年層に多く見られますが、年齢に関係なく発症する可能性があります。皮膚表面に硬い数ミリ程度の隆起として現れますが、時間の経過とともに徐々に大きくなることがあります。一般的に単発性ですが、まれに多発性の症例も報告されています。

生命を脅かすものではありませんが、美容上の問題や、腫瘍が大きくなって破裂した場合の細菌感染のリスクがあるため、適切な診断と治療が大切です。

石灰化上皮腫

石灰化上皮腫の原因

石灰化上皮腫の正確な原因は、完全には解明されていませんが、胎生期の毛母が関与していると考えられています。

毛母は、毛の根元にある細胞で毛髪を成長させる役割です。胎生期の毛母は、頭部、顔面、体幹、尾部の順番で発生します。石灰化上皮腫は頭頸部や上肢で発症しやすく、体幹や下肢での発症は少ないです。胎生期の毛母の発生順序は石灰化上皮腫が発生する部位の頻度と同様である場合もあり、胎生期での毛母の発生が関わっていると考えられます。

石灰化上皮腫は遺伝的要因については否定的な意見が多いですが、遺伝性疾患である筋緊張性ジストロフィー、ガードナー症候群、ターナー症候群において発症することもあります。

また、外傷や熱傷などの傷が治癒する過程で腫瘍性変化が生じ、発症することもあります。外傷により傷ついた細胞がDNAを損傷し、修復が間に合わなかった場合に突然、腫瘍として発症する仕組みです。

これらの要因が複雑に絡み合うことで、石灰化上皮腫の発症リスクが高まります。遺伝子の変異が基盤となり、そこに環境要因やホルモンの影響が加わることで、腫瘍形成が進行すると推測されています。

石灰化上皮腫の前兆や初期症状について

石灰化上皮腫の前兆や初期症状は、無症状であることも多いため、早期発見が難しい場合があります。

主な特徴は、皮膚表面に小さなしこりが現れることです。しこりは、初期段階では非常に小さなものであり、触れてみると皮下に硬い粒のような感触があります。色は周囲の皮膚と同じか、やや白みがかっていることが多いです。

初期の段階では、痛みや痒みなどの不快な症状がほとんど伴わないため、患者自身が気づきにくいことが特徴です。しかし、時間の経過とともに、腫瘍は徐々に大きくなり、その過程で痒みや圧痛などの症状が現れ始めます。大きくなる早さは個人差がありますが、数ヶ月から数年にわたってゆっくりと大きくなるのが一般的です。

腫瘍が大きくなるにつれて、腫瘍内部の石灰化が進行し、周囲の組織を圧迫するため、皮膚表面に小さな凹みや陥没が現れることがあります。まれに、腫瘍が急速に成長したり、炎症を伴ったりすることもあります。

石灰化上皮腫の検査・診断

石灰化上皮腫の診断は、主に臨床所見と病理学的検査に基づいて行われます。まず、視診と触診を行い、腫瘍の大きさ、形状、硬さ、位置などを確認します。典型的な症例では、これらの臨床所見だけでも診断がつくことがありますが、確定診断のためには追加の検査が必要です。

皮膚生検は粉瘤(ふんりゅう)、ガングリオン、悪性腫瘍などの皮膚疾患と鑑別するために重要な診断手法で、腫瘍の一部または全体を採取し、顕微鏡で詳細に観察します。石灰化上皮腫を発症している場合、特徴的な石灰化した陰影細胞や好塩基性細胞の存在が確認されます。

画像診断としては、超音波検査やCTスキャンが用いられることがあり、腫瘍の深さや範囲、石灰化の程度を評価するのに有効です。特に、大きな腫瘍や深部に及ぶ腫瘍の場合はこれらを使用して、腫瘍の全体像を把握する必要があります。画像診断は鑑別診断においても大切で、症状が似ている他の皮膚腫瘍との区別を行います。

石灰化上皮腫の治療

石灰化上皮腫の治療方法は、腫瘍の大きさ、位置、患者の年齢や全身状態などを考慮して決定されます。一般的な治療法は外科的切除で、腫瘍を周囲の組織とともに完全に切除します。局所麻酔下で行われることが多く、比較的短時間で終了する低侵襲な手術です。切除後は、必要に応じて縫合が行われ、傷跡を最小限に抑える工夫が施されます。特に顔面など目立つ部位の場合は、美容的な配慮が大切です。

小学校高学年以上では、局所麻酔による日帰り手術が可能です。一方、年少児や腫瘍が大きい場合には全身麻酔が必要になる場合があります。

外科的切除以外の治療法は、レーザー治療や凍結療法などです。レーザー治療は、腫瘍を焼灼して除去する方法で、比較的小さな腫瘍に適しています。凍結療法は、液体窒素を用いて腫瘍を凍結させ、壊死させる方法です。これらの方法は、外科的切除に比べて侵襲性が低いですが、再発のリスクが若干高くなります。大きな腫瘍や深部に及ぶ腫瘍の場合は、効果が限定的である可能性もあります。

治療後は定期的な経過観察が大切で、再発の有無の確認も必要です。再発率は比較的低いですが、完全に除去されなかった場合や、遺伝的要因が強い場合には再発が起こる可能性があります。

石灰化上皮腫になりやすい人・予防の方法

石灰化上皮腫になりやすい人の特徴は、年齢層が挙げられます。石灰化上皮腫は10代から20代の若年層に多く見られ、特に思春期から若年成人期にかけて発症しやすいです。外傷などで皮膚への刺激を受けやすい環境にある人も、発症リスクが高くなる傾向があります。

石灰化上皮腫は、完全に発症を予防することは難しいですが、リスクを軽減させるために皮膚への強い刺激を避けることが大切です。日焼け止めの使用や帽子や長袖の着用など、紫外線から皮膚を保護するように努めましょう。顔や頭部の皮膚を過剰に擦ったり、強い化学物質にさらしたりすることも腫瘍性変化の要因となるため避けるべきです。


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