監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
太田母斑の概要
太田母斑は、1939年8月に太田正雄によって「眼上顎褐青色母斑(がんじょうがくかっせいしょくぼはん)」として初めて報告された疾患です。同年、谷野博により「太田母斑」としてその詳細が報告されました。
アジア人や有色人種に多いといわれ、男女比は約1:5で、女性に多く発症します。太田母斑は、皮膚と目に影響を及ぼす良性の色素沈着症で、主に顔の片側に現れ、目やその周辺部に青みがかった斑点が見られることが特徴です。額、目の周り、頬、鼻、耳介などに発生し、稀に両側性に生じる場合もあります。
太田母斑は美容的な悩みとして多くの方に影響を与える一方、健康への直接的なリスクは少なく、治療により改善が期待できます。
太田母斑の原因
太田母斑は、出生児から1歳までに発症する場合と、思春期頃に発症する場合があり、二峰性の発症パターンを示しています。思春期以降や成人になってから発症する原因については、外傷説も提唱されていますが、いまだ明確には解明されていません。
組織学的に見ると、太田母斑は真皮内に存在するメラノサイトが特徴です。メラノサイトとは、皮膚や髪、目の色を決定する「メラニン」という色素を作り出す細胞のことで、例えば、黒人ではメラニンが多く、白人ではメラニンが少ないため、皮膚の色に差が生まれます。
メラノサイトは、主に皮膚の最外層である「表皮」の基底層に存在します。しかし、太田母斑の場合、メラノサイトが真皮層にまで入り込むことで、皮膚が青く見える現象が起こります。これは、メラニンが皮膚の深い部分にあると、光の散乱により青く見えるためです。この現象により、太田母斑は特有の青灰色の斑点として現れます。
太田母斑の前兆や初期症状について
太田母斑の色素沈着は、出生時から思春期にかけて現れることが一般的です。
太田母斑の症状
太田母斑は、特に以下の部位に発生します。
- 目の強膜や結膜
- まぶた
- 眼窩周囲
- 頬
- こめかみ
- 額など
稀に耳や額の側面、鼻、口の粘膜にまで色素沈着が広がることがあります。典型的な太田母斑は、青紫色から灰紫色の色素斑が特徴で、薄い褐色の小さな斑点が混在する場合もあります。
初期症状としては、淡い青紫色の斑点が顔や目の周辺に現れることが多く、特に目の下にできる「くま」や、白眼に青色の色素斑が出現することがあります。これらの症状は、しばしばシミやソバカス、茶アザと誤診されることがあるため、色が一様な褐色斑である場合や、左右対称に小さな褐色斑が見られる場合には注意が必要です。また、片側性に現れることが多いものの、まれに両側に現れるケースもあります。
出生時には見られないこともありますが、ほとんどのケースで思春期までに症状が現れ、進行するのが一般的です。早発型として生後数日から数週間で発症する場合もあり、思春期以降、ホルモンバランスが変わる時期(妊娠、出産、閉経など)に新たに色素斑が出現したり、色が濃くなったりする遅発型も見られます。
受診すべき診療科目
太田母斑が疑われる場合、まず皮膚科(美容皮膚科含む)または形成外科を受診するのが適切です。皮膚科で診断が行われ、必要に応じてレーザー治療などを行うため、形成外科との連携が取られる場合もあります。早期の診断と治療が、症状の進行を防ぐために重要です。
かかる予定の病院で対応可能か必ず電話などで問い合わせてから受診しましょう。
太田母斑の検査・診断
典型的な太田母斑は、その好発年齢や臨床症状から比較的簡単に診断できます。診察では、主に目視での確認が行われ、必要に応じて皮膚生検を行うこともあります。生検により、真皮内にメラノサイトの存在が確認されれば、太田母斑と確定診断されます。
太田母斑自体は良性で健康に大きな影響を与えることはほとんどありませんが、いくつかの潜在的なリスクも存在します。
緑内障
太田母斑のある患者は、特に斑点がある側の目に緑内障を発症するリスクが高くなります。定期的に眼科での検査を受け、早期に異常を発見することが重要です。
悪性転嫁
稀ではありますが、太田母斑が悪性黒色腫(メラノーマ)に転化するリスクがあります。長期間にわたり色素斑が急激に変化した場合や、新たな斑点が発生した場合は、皮膚科での追加検査が推奨されます。
太田母斑の治療
太田母斑は、自然に治ることはほとんどなく、その治療の主な目的は整容面での改善となります。
主な治療法
太田母斑の青紫色の色素沈着に対する治療は、Qスイッチ・レーザーが主流となっています。
Qスイッチ・レーザーには、ルビー、ヤグ、アレキサンドライトレーザーなどがありますが、特にQスイッチ・ルビーレーザーが最も効果的とされています。改良型のアレキサンドライトレーザーも、ルビーレーザーと同等の効果を示すため、保険適用の範囲内で利用可能です。
治療の経過と注意点
レーザー治療は通常、数ヶ月おきに行われ、複数回の照射が必要です。
レーザー治療後、色素斑は一時的に濃くなることがありますが、これは炎症後色素沈着によるもので、通常3~4ヶ月で自然に消失します。回数を重ねることで色素斑が徐々に薄くなり、最終的にはほとんど目立たなくなります。
治療は年齢によっても効果が異なり、特に小児期に行うと治療回数が少なくて済むことがあります。しかし、レーザー治療には痛みが伴うため、小児の場合は全身麻酔が必要となる場合もあります。麻酔による副作用も考慮しなければならず、さらに思春期に再び色素斑が現れる可能性があるため、治療のタイミングは慎重に考える必要があるでしょう。
レーザー治療のリスクと合併症
治療後には、水疱形成、色素沈着、色素脱失、瘢痕、肥厚性瘢痕などの合併症が発生する可能性があります。特に炎症性色素沈着や色素脱失を防ぐため、治療後は日焼けを避け、適切なスキンケアが重要です。
また、照射後に形成された薄いかさぶたは無理に剥がさないよう、注意が必要です。瘢痕形成を防ぐためにも、治療後は保湿剤の使用や紫外線予防のケアが推奨されます。
太田母斑になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
太田母斑は、特にアジア人や有色人種に多く見られます。男女比では女性に多く、約1:5の割合で発症する傾向があります。
皮膚病変は、生後半年以内に現れることが多いですが、出生時にすでに存在することは稀です。思春期になるとホルモンバランスの変化により色が濃くなったり、新たに色素斑が生じることがあります。また、20~40歳台に発症するケースも珍しくありません。
予防の方法
太田母斑の発症自体を予防することは難しいですが、ホルモンバランスの変化や紫外線の影響が症状を悪化させる可能性があるため、適切なケアが重要です。
特に紫外線による色素沈着の悪化を防ぐため、日焼け止めの使用や日常的なUV対策を徹底することが推奨されます。
レーザー治療後も、色素沈着を防ぐため紫外線からの保護が重要で、治療後3ヶ月間は遮光を行い、再発や色素沈着を避けるための対策が必要です。
関連する病気
- 悪性黒色腫(メラノーマ)
- 蒙古斑
- 眼メラノサイトーシス
- メラノサイトーシス
参考文献
- https://www.dermatol.or.jp/qa/qa21/q04.html
- https://www.dermatol.or.jp/qa/qa21/q01.html
- https://www.dermatol.or.jp/qa/qa21/q05.html
- https://www.dermatol.or.jp/qa/qa21/q06.html
- https://kantoh.johas.go.jp/column/20210609_3.html
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslsm/advpub/0/advpub_jslsm-42_0005/_pdf/-char/ja