監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
悪性黒色腫の概要
悪性黒色腫は、メラニン色素を作るメラノサイトが、がん化して起こる悪性腫瘍です。
日本では10万人あたり1〜2人の割合で発生しており、希少がんに分類されます。
皮膚がん全体で見ても、基底細胞がんや有棘細胞がんに次ぐ頻度ですが、悪性黒色腫は進行が早く、転移しやすいため、早期の発見と治療が重要です。
このがんは、皮膚にあるメラノサイトやほくろの細胞から発生し、体のさまざまな場所に現れる可能性があります。
特に鼻腔や消化管、尿道、膣、眼や結膜などにも発生することがあり、アジア人は欧米人に比べてこれらの部位に発生しやすいことがわかっています。
悪性黒色腫は、主に皮膚にでき、その特徴に基づいて次の4つのタイプに分類されます。
- 末端黒子型
- 表在拡大型
- 悪性黒子型
- 結節型
日本皮膚悪性腫瘍学会によると、末端黒子型が全体の42%、表在拡大型が20%、結節型が10%、悪性黒子型が8%を占めます。
外見上では、褐色や黒色の色素斑や腫瘤として現れることが多く、ほくろと区別するためには、左右非対称で不規則な形、色のむら、境界がぼやけている、サイズが大きい、表面の隆起などを確認することが必要です。
また、稀に赤みを帯びた色素の薄い病変もあり、診断が難しい場合もあります。
悪性黒色腫の原因
悪性黒色腫の明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、紫外線や外的刺激が関与していると考えられています。
特に、長時間の太陽光への曝露や強い日焼けが発症リスクを高める主要な要因とされています。
紫外線がDNAを損傷し、その結果、細胞の変異が起こり、がん化するリスクが高まります。
また、先天的な大きな色素性母斑(黒あざ)に悪性黒色腫が発生するケースもあり、遺伝的要因や先天的なリスクも影響していると考えられます。
さらに、皮膚に何度も繰り返し外的な刺激が加わることも、細胞の悪性化を引き起こす可能性があるとされています。
悪性黒色腫の前兆や初期症状について
悪性黒色腫の初期症状では、新しく現れたシミや、以前からあったほくろに似たシミが、時間とともに徐々に拡大し、ある時点から急激に大きくなることがよく見られます。
特に形や色が変わった場合や、シミが不規則に広がったり、境界が不明瞭になった場合は、早めに医師の診察を受けることが望ましいでしょう。
悪性黒色腫のタイプ別の症状
悪性黒色腫のタイプ別の症状は、以下の通りです。
- 末端黒子型黒色腫
手のひら、足の裏、爪などに発生し、特に足の裏に多く見られます。
このタイプは日本人に最も多く、全体の40〜50%を占めます。
最初は扁平な褐色や黒褐色の色素斑として現れ、拡大とともに色調が均一でなくなり、進行するとしこりや潰瘍が生じることもあります。
爪では黒褐色の縦の筋が拡大し、周囲の皮膚まで広がることがあります。 - 表在拡大型黒色腫
体のどの部位にも発生する可能性があり、少し隆起したシミとして現れます。
境界が不明瞭で、色調がまだらになるのが特徴で、ゆっくり進行します。 - 悪性黒子型黒色腫
主に高齢者の顔面に発生し、境界が不整でまだらな黒褐色の平らな色素斑として現れます。
長期間にわたって徐々に広がり、最終的には腫瘤や潰瘍を形成します。 - 結節型黒色腫
全身のどこにでも発生し、黒色やまだらな結節や小さな腫瘤として現れ、急速に成長します。
周囲に色素斑がないことが多く、他のタイプに比べて悪性度が高いのが特徴です。
診療科の受診について
悪性黒色腫が疑われる場合は、早期に皮膚科を受診することが重要です。
特に皮膚がんや腫瘍を専門に扱う医師の診察が推奨され、診断が難しい場合や特殊な部位に発生している場合は、大学病院などの高度医療機関での診察も検討されます。
悪性黒色腫の検査・診断
悪性黒色腫はの診断は、その見た目の特徴をもとに、古くから4つのタイプに分類されて行われています。
視診
悪性黒色腫の診断には、ABCD(E)ルールが使われ、ほくろや色素斑との違いを視診で判断します。
Asymmetry(非対称性)
形が左右非対称
Border irregularity(境界の不明瞭さ)
境界が不規則
Color variegation(色調の不均一さ)
色が均一でない
Diameter(直径が6mm以上)
直径が6mmを超える
Evolution(進行性の変化)
形や色が変化する
視診による診断精度は、医師の経験によって向上し、特に、ほくろやほかの色素斑と比較することが診断に役立つとされています。
悪性黒色腫の病期分類
悪性黒色腫は、進行度合いにより「0期」から「Ⅳ期」に分類されます。
これは腫瘍の厚み、潰瘍の有無、リンパ節や他臓器への転移の有無などで判断され、以下のように分けられます。
0期
がん細胞が表皮内にとどまる
Ⅰ期
リンパ節や他の臓器に転移がなく、腫瘍の厚みが1mm以下または2mm以下(潰瘍があるかないかによる)
Ⅱ期
腫瘍が2mmを超えるが、リンパ節や臓器には転移がない
Ⅲ期
リンパ節または皮膚周囲に転移がある
Ⅳ期
他の臓器に転移がある
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーは、皮膚の色素沈着や血管のパターンを10〜30倍に拡大して観察できる検査法です。
この検査では、肉眼で見えにくい病変の特徴が詳細に観察でき、悪性黒色腫と他の皮膚病変との区別が容易になります。
日本では2006年から保険適用され、広く利用されています。
確定診断と追加検査
悪性黒色腫が疑われる場合、病変の一部または全体を外科的に切除し、病理組織検査によって確定診断を行います。
診断が確定したら、病期を決定するためにCT、MRI、PET、X線、超音波などの画像検査が行われます。
腫瘍マーカーは進行した状態では役立つことがありますが、早期診断にはあまり有用ではありません。
悪性黒色腫の治療
悪性黒色腫の治療は、病期や腫瘍の進行状況に応じて異なります。
0期からⅢ期では、病変を手術で完全に切除することが基本的な治療法です。
病変が深く広がっている場合や、リンパ節に転移が認められた場合は、広範囲の切除やリンパ節の手術(リンパ節郭清)を行うことがあります。
各病期における切除範囲の目安
各病期における切除範囲の目安は、以下の通りです。
- 0期:病変の周囲3~5mmを切除
- Ⅰ期:病変の周囲約1cmを切除
- Ⅱ期:病変の周囲約1~2cmを切除
- Ⅲ期:転移がある場合、周辺の皮膚も含めて1~2cmを切除
センチネルリンパ節生検
リンパ節に転移が疑われる場合、センチネルリンパ節生検が行われます。
センチネルリンパ節はがん細胞が最初に到達するリンパ節で、ここに転移がなければ、他のリンパ節への転移もないと判断されます。
この検査により、不要なリンパ節郭清を避け、低侵襲な治療を行うことが可能です。
術後補助療法
手術後に再発や転移のリスクが高い場合、術後補助療法が行われます。
以前は抗がん剤を用いた化学療法が一般的でしたが、効果が限定的であるため、使用頻度は減少しています。
最近では、インターフェロン療法や免疫療法が再発予防に利用されることが増えています。
進行期の治療
Ⅳ期や臓器への転移が認められる場合には、手術以外の治療が中心となります。
免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬などの新しい治療法が登場し、治療成績が向上しています。
また、放射線療法や緩和治療も併用され、症状の緩和や予後の延長が期待されます。
進行度に応じ、複数の治療法を組み合わせた治療を行うことで、悪性黒色腫に対する治療の効果が期待されます。
悪性黒色腫になりやすい人・予防の方法
悪性黒色腫は、Ⅰ期の段階で治療を開始することで95〜100%の治癒率が期待されます。
リスクが高いのは、色白で日焼けしやすい人、家族に皮膚がんの既往歴がある人、多くのほくろを持つ人です。
予防のためには、定期的に皮膚の自己チェックを行い、皮膚科での定期健診を受けることが推奨されます。
また、紫外線から肌を守るため、日焼け止めの使用や、長袖の服装、帽子、サングラスを着用することが重要です。
紫外線を避ける日常的な対策を徹底することで、悪性黒色腫の発症リスクを減らすことができます。
関連する病気
- 異型母斑症候群(Dysplastic Nevus Syndrome)
- 色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum
- XP)
- 先天性巨大母斑(Congenital Giant Nevus)
- 免疫不全疾患
- 家族性悪性黒色腫(Familial Melanoma)
- 眼メラノーマ(Uveal Melanoma)