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おむつかぶれ
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

おむつかぶれの概要

おむつ皮膚炎、一般的に「オムツかぶれ」と呼ばれる症状は、乳幼児の皮膚トラブルの中で最も一般的なものの一つです。この状態は、おむつを着用している部位の皮膚に炎症が生じる現象を指します。おむつ皮膚炎は、おむつを着用している乳幼児の約7-35%に発生すると報告されています。特に生後9-12ヶ月の乳児に多く見られ、この時期は固形食の導入により便の性状が変化することが一因とされています。症状は軽度の発赤から重度の皮膚びらんまで様々で、適切な対処がなされない場合、二次感染を引き起こす可能性があります。

おむつかぶれの原因

おむつ皮膚炎の発生メカニズムは複合的であり、複数の要因が相互に作用しています。最も重要な要因は、おむつ内の湿潤環境による皮膚の浸軟(ふやけ)と、尿や便に含まれる刺激物質の接触です。おむつ内の湿度上昇により皮膚が浸軟すると、皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に対して脆弱になります。さらに、尿と便が混合することで化学的な変化が起こります。尿中のウレアーゼが便中の細菌により分解され、その結果アンモニアが生成されます。このアンモニアにより皮膚のpHが上昇し、皮膚を刺激する要因となります。また、おむつと皮膚の間に生じる摩擦も皮膚バリア機能の低下を引き起こし、皮膚炎の発生リスクを高めます。加えて、湿潤環境はさまざまな微生物の増殖を促進します。特に皮膚常在菌である細菌やカンジダなどの真菌が過剰に増殖することで、皮膚の炎症や感染のリスクが高まります。これらの要因が複雑に絡み合い、おむつ皮膚炎の発生と悪化につながるのです。

おむつかぶれの前兆や初期症状について

おむつ皮膚炎の症状は以下の通りです。

軽度

おむつが当たる部分の皮膚の発赤

中等度

より広範囲の発赤、軽度の浮腫、丘疹の出現

重度

びらん、潰瘍形成、二次感染による膿疱の形成
症状は主におむつが当たる部位(臀部、外陰部、下腹部、大腿内側)に現れますが、重症例では皮膚のひだにも及ぶことがあります。

おむつかぶれの検査・診断

おむつ皮膚炎の診断は主に視診によって行われます。通常、臨床所見のみで診断が可能ですが、重症例や治療抵抗性の場合は以下の検査が考慮されることがあります。

KOH直接鏡検

カンジダ感染の確認

細菌培養

細菌感染の確認

皮膚生検

他の皮膚疾患との鑑別が必要な場合

おむつかぶれの治療

おむつ皮膚炎の治療は、予防的ケアと症状に応じた治療的介入からなります。

予防的ケア

頻繁なおむつ交換(最低でも3-4時間ごと)
おむつ交換時の優しい洗浄と完全な乾燥
バリア剤の使用(亜鉛華軟膏など)

軽度〜中等度の場合

低刺激性の保湿剤の使用
必要に応じて弱めのステロイド外用薬(0.5-1%ヒドロコルチゾン)の短期使用

重度の場合

より強力なステロイド外用薬の使用(医師の指示のもと)
二次感染が疑われる場合は抗真菌薬や抗菌薬の使用

おむつかぶれになりやすい人・予防の方法

おむつかぶれになりやすい人

オムツかぶれは多くの乳幼児に発生する一般的な皮膚トラブルですが、特定の要因により発症リスクが高まることが研究により示されています。特に生後9-12ヶ月の乳児は、固形食の導入により便の性状が変化し、皮膚刺激性が増すため、オムツかぶれのリスクが高くなります。また、アトピー性皮膚炎や湿疹などの既存の皮膚疾患を持つ子どもも、皮膚バリア機能の低下によりリスクが上昇します。さらに、下痢や頻繁な排便がある子どもは、便による皮膚刺激の機会が増えるため、オムツかぶれを発症しやすくなります。

予防の方法

オムツかぶれの予防には、複数の効果的な方法が科学的に裏付けられています。
最も重要な予防策は、おむつを頻繁に交換することです。研究によると、3-4時間ごと、または排泄のたびにおむつを交換することで、皮膚が尿や便に長時間さらされることを防ぎ、オムツかぶれのリスクを大幅に低減できることが示されています。
おむつ交換時の適切な皮膚ケアも重要です。ぬるま湯での優しい洗浄が基本となりますが、必要に応じて低刺激性の洗浄剤を使用することも推奨されています。ただし、過度の洗浄や強い石鹸の使用は皮膚バリア機能を損なう可能性があるため、最小限に抑えることが重要です。洗浄後は、皮膚を完全に乾燥させることが crucial です。特に皮膚のひだの部分は湿気がたまりやすいので、注意深く乾燥させることが効果的です。
バリア剤の使用も科学的に支持されている予防法の一つです。亜鉛華軟膏などのバリア剤を薄く塗布することで、皮膚を保護し、湿気から守ることができます。ただし、過剰な使用は避け、薄く均一に塗ることが大切です。
通気性の確保もオムツかぶれの予防に重要な役割を果たします。タイトすぎないおむつの着用や、可能な限りおむつを外す時間(おむつフリータイム)を設けることで、皮膚の通気性を確保し、湿潤を防ぐことができます。これにより、オムツかぶれのリスクを低減できることが研究により示されています。
適切なおむつの選択も予防に寄与します。通気性が良く、吸収力の高いおむつを使用することで、皮膚への刺激を最小限に抑えることができます。特に、素材や構造が改良された最新のおむつは、従来のものと比較してオムツかぶれのリスクを低減することが示されています。
これらの予防策を日常的に実践することで、オムツかぶれのリスクを大幅に低減できることが、多くの研究により裏付けられています。
ただし、個々の赤ちゃんの皮膚の状態や反応は異なるため、様子を見ながら最適なケア方法を見つけていくことが重要です。また、症状が改善しない場合や悪化する場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。


関連する病気

参考文献

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