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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

マラセチア毛包炎の概要

マラセチア毛包炎は、マラセチアと呼ばれる真菌(カビ)が毛包(毛穴のなか)に感染することによって引き起こされる皮膚疾患です。
この病気は、特に胸や背中、肩などの皮脂の分泌が多い部位に赤いポツポツとした発疹が現れることが特徴です。
特に夏季に多く見られるため、「夏季痤瘡(かきざそう)」とも称されることもあります。

マラセチア毛包炎を起こすマラセチア属の真菌は、もともと皮膚に住み着いている常在真菌であるため、マラセチア毛包炎はいちど治療しても再発しやすい特徴があります。
またマラセチア真菌は皮膚感染症である「癜風」の原因でもあり、実際に合併することもありますが、マラセチア毛包炎と癜風は病態が異なる別の疾患です。

マラセチア毛包炎の原因

マラセチア毛包炎の主な原因は、マラセチア菌の異常増殖です。
マラセチア菌は、皮膚に常在する真菌であり通常は無害ですが、以下のような条件が揃うと異常増殖を引き起こし、毛包炎を発症します。

1. 高温多湿

マラセチアは高温多湿の環境を好むため、夏場や湿度の高い環境で増殖しやすくなります。

2. 皮脂の過剰分泌

マラセチアはヒトの皮脂を栄養とするため、思春期やホルモンバランスの変化により皮脂の分泌が増えると、マラセチア菌が増殖しやすくなります。
特に、胸や背中、肩といった皮脂腺が活発な部位によく発症します。

3. 免疫力の低下

ストレスや病気、栄養不足などにより免疫力が低下すると、マラセチア菌が異常に増殖するリスクが高まります。

4. 抗生物質の使用

抗生物質を使用すると、皮膚の常在菌のバランスが崩れ、マラセチア菌が優勢になることがあります。

5. ステロイドの使用

ほかの皮膚疾患などでステロイド成分を含む軟膏やクリームを使用することで、皮膚の免疫機能が抑制され、マラセチア菌が増殖しやすくなります。

これらの要因が組み合わさることで、マラセチア毛包炎が発症します。

マラセチア毛包炎の前兆や初期症状について

マラセチア毛包炎の初期症状には、以下のようなものがあります。

赤い発疹

毛穴に一致する形で、赤いポツポツが現れます。
これらは通常、痛みや腫れを伴わず、見た目にはニキビに似ています。
ただし、ニキビ(医学的に正確な名称は尋常性ざ瘡)はアクネ菌とよばれる細菌が原因であり、マラセチア毛包炎とは原因となる微生物が違います。

かゆみ

発疹はかゆみを伴うことが多く、特に汗をかいたり、湿度が高い環境にいたりすると感じやすくなります。

膿の形成

症状が進行すると、赤い発疹の中心に白い膿が見られることがあります。
この膿はマラセチア菌による感染の兆候の一つです。

これらの症状は、初期段階では軽度であることが多いため放置されがちですが、早めに皮膚科を受診し、医師に相談することで症状が悪化する前に治療を開始できます。

マラセチア毛包炎の検査・診断

マラセチア毛包炎の診断は、主に皮膚科の外来で以下の方法で行われます。

1. 問診

患者さんの症状や病歴、生活環境について詳しく聞き取ります。
特に、発疹が現れた部位や時期、かゆみの有無などを確認します。
また、皮膚の免疫に影響を与えてしまうステロイドを含む塗り薬を使っていないかも重要です。

2. 視診

皮膚の状態を直接観察し、特徴的な赤いポツポツを確認します。
見た目がニキビと似ているため、皮膚科専門医でないと区別できない場合があります。

3. 顕微鏡検査

必要に応じて皮膚の表面を削って検体を採取し、顕微鏡でマラセチア菌の存在を確認します。
この際、特定の染色法を用いて菌を可視化します。

4. 皮膚のスワブ(綿棒状の検体採取キット)検査

皮膚の表面からサンプルを採取し、マラセチア菌の数を測定することもあります。

これらの検査を通じて、マラセチア毛包炎と診断します。

マラセチア毛包炎の治療

マラセチア毛包炎の治療は、主に以下の方法が用いられます。

1. 抗真菌薬

外用薬

イトラコナゾールやフルコナゾールなどの抗真菌薬が、外用薬として使用されます。
これらの薬は、マラセチア菌を直接攻撃し、増殖を抑える効果があります。

内服薬

外用薬で効果が不十分な場合、内服薬として同様の抗真菌薬が処方されることがあります。
内服薬は全身に作用するため、効果が早く現れることが期待できます。

2. 生活習慣の改善

清潔を保つ

汗や皮脂をこまめに拭き取り、清潔な状態を保つことが重要です。
特に、運動後や暑い日には、シャワーを浴びることが推奨されます。
また、治療が完了するまでは発疹をひっかかないよう気をつけましょう。
ひっかくと、傷口に細菌や別の真菌が入り込んで感染症を起こしたり、傷跡が残ったりする恐れがあります。

適切な衣服選び

通気性の良い衣服を着用し、高温多湿の環境を避けることが大切です。

3. 再発防止策

マラセチア毛包炎は再発しやすいため、治療後も注意が必要です。
特に、皮脂の分泌が多い環境を避けることや、抗真菌成分を含むシャンプーやボディソープを使用することが効果的です。

マラセチア毛包炎になりやすい人、予防の方法

マラセチア毛包炎は、以下のような人々に多く見られます。

思春期の若者

ホルモンバランスの変化により皮脂の分泌が増えるため、特に思春期の若者に多く見られます。

高温多湿の環境にいる人

夏場や湿度の高い地域に住んでいる人は、マラセチア菌が増殖しやすくなります。

免疫力が低下している人

ストレスや病気、栄養不足などにより免疫力が低下していると、マラセチア毛包炎を発症しやすくなります。

ステロイドや抗生物質を使用している人

これらの薬剤を使用していると、皮膚の常在菌バランスが崩れ、マラセチアが増殖しやすくなります。

予防の方法

マラセチア毛包炎を予防するためには、以下の方法が効果的です。

1. 清潔を保つ

皮膚を清潔に保ち、汗や皮脂をこまめに拭き取ることが重要です。
特に、運動後や暑い日に汗をかいたら、放置しないでシャワーをすぐ浴びることを心がけましょう。

2. 通気性の良い衣服を着用

皮膚が蒸れないように、通気性の良い衣服を選ぶことが大切です。

3. 抗真菌成分を含む製品の使用

マラセチアの増殖を抑える成分が含まれたシャンプーやボディソープを使用することで、予防効果が期待できます。

4. ストレス管理

ストレスは免疫力を低下させるため、リラクゼーションや趣味の時間を持つことが推奨されます。

5. 健康的な生活習慣

バランスの取れた食事や十分な睡眠を確保し、免疫力を高めることが重要です。

この病気は再発しやすいため、早期の診断と適切な治療が重要です。
症状が現れた場合は、早めに医師に相談することをおすすめします。


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