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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

癜風の概要

癜風(でんぷう)は、皮膚に存在するマラセチアという真菌(カビ)が異常に増殖することによって引き起こされる皮膚疾患です。
主に胸や背中、肩、首など、皮脂腺が活発な部位に、境界が明瞭ではっきりとした斑点が現れます。
癜風を英語の医学用語で pityriasis versicolor といいますが、versicolorは「色が変化する」という意味です。
その名の通り斑点の色はさまざまで、褐色の斑点を黒色癜風(俗称くろなまず)と呼び、逆に色が白く抜けて見える斑点を白色癜風と呼びます。
どちらも同じ真菌によって引き起こされる同じ疾患です。
一般に、もとの皮膚色が濃かったり日焼けしやすい場所(露光部)では白色癜風に、皮膚色が薄かったり衣服で隠れる場所(非露光部)では黒色癜風になりやすいようです。
癜風は、特に高温多湿の環境で発症しやすく、思春期以降の若い男女に多く見られます。
症状は通常軽度で、かゆみを伴わないことが多いですが、見た目が気になるため、治療を希望する人が多いです。

癜風の原因

癜風の主な原因は、マラセチア属に属する真菌の異常増殖です。
マラセチア菌は、皮膚の常在菌として普段から存在していますが、以下のような条件が整うと増殖しやすくなります。

1. 高温多湿の環境

特に夏場や湿度の高い季節に、汗をかくことで皮膚が湿った状態が続くと、マラセチア菌が増殖しやすくなります。

2. 皮脂の過剰分泌

思春期やホルモンバランスの変化により皮脂の分泌が増えると、マラセチア菌が好む環境が整います。
特に胸や背中、肩などの皮脂腺が多い部位で発症しやすいです。

3. 免疫力の低下

ストレスや病気、栄養不足などによって免疫力が低下すると、マラセチア菌が異常に増殖するリスクが高まります。

4. 抗生物質の使用

抗生物質を使用すると、皮膚の常在菌のバランスが崩れ、マラセチア菌が増えやすい状態になることがあります。

5. ステロイドの使用

ステロイド剤を使用することで、皮膚の免疫機能が抑制され、マラセチア菌が増殖しやすくなります。

これらの要因が重なることで、マラセチア菌が過剰に増殖し、結果として癜風が発症します。

癜風の前兆や初期症状について

癜風の初期症状には、以下のようなものがあります。

淡い茶色や白い斑点

主に胸や背中、肩、首に現れます。
斑点の大きさは数mmから数cmまでさまざまで、通常は平坦ですが、少し盛り上がっている場合もあります。
正常な皮膚との境界ははっきりしていますが、斑点の数が増えると、隣接する斑点が次第に融合して、より大きな一つの病変へと変わっていきます。
毛孔に小さな脱色素斑が多発してみえることもあります。

軽度の鱗屑(りんせつ)

斑点の表面には、フケのような、乾燥した軽い鱗屑が斑点の表面に現れることがあります。
はっきりしない場合でも、爪や刃物で軽くこすると次々とフケのような落屑が落ちてくるのが特徴的で、カンナ屑現象と呼ばれます。

かゆみ

癜風は通常かゆみを伴いませんが、わずかなかゆみを感じる場合もあります。

これらの症状は、初期段階では軽度であるため放置されることが多いですが、皮膚科を受診することで早期に診断・治療を受けることができます。

癜風の検査・診断

癜風の診断は、主に皮膚科の外来で以下の方法によって行われます。

1. 問診

患者さんの症状や病歴、生活環境について詳しく聞き取ります。
特に、発疹が現れた部位や時期、かゆみの有無などが重要です。

2. 視診

皮膚の状態を直接観察して特徴的な斑点を確認したり、カンナ屑現象をチェックすることもあります。
また、Wood灯(長波長の紫外線を出す蛍光管)を当てると黄色の蛍光を発するので、診断および病変の拡大を把握するために用いることがあります。

3. 顕微鏡検査

皮膚の鱗屑を採取し、顕微鏡でマラセチア菌の存在を確認します。
この際、ズームブルーという染色法を用いると真菌が容易に観察できます。
通常、癜風では大量のマラセチアが見つかります。

これらの検査を通じて、癜風の診断が確定されます。

癜風の治療

癜風の治療は、主に以下の方法が用いられます。

1. 抗真菌薬

外用薬

イミダゾール系の抗真菌薬(例:クロトリマゾール、ミコナゾールなど)の軟膏やクリームを、1日1回、数週間にわたり患部に塗布します。
通常、2~4週間で症状の改善が期待できます。

内服薬

外用薬で効果が不十分な場合や症状が広範囲に及ぶ場合には、イトラコナゾールなどの内服薬が考慮されます。
内服薬は全身に作用し、効果が早く現れることが期待できます。

2. 生活習慣の改善

清潔を保つ

汗や皮脂をこまめに拭き取り、清潔な状態を保つことが重要です。
特に、運動後や暑い日には、シャワーを浴びることが推奨されます。

適切な衣服選び

通気性の良い衣服を着用し、高温多湿の環境を避けることで、皮膚が蒸れてマラセチア菌が増殖しやすくなるのを防ぐことができます。

3. 色素脱失への対策

癜風感染を起こした皮膚には、色素脱失が長期間にわたり後遺症として残る可能性があります。
これは、マラセチア菌が産生するアゼライン酸という酵素が、皮膚の色であるメラニンを産生するために必要なチロシナーゼの活性を抑制するためと推測されています。
マラセチア菌の数を治療によってコントロールして待てば色素は徐々に再生されますが、ときには何ヶ月もかかる場合があります。

4. 再発防止策

癜風は再発しやすいため、治療が終わったあとも長期間にわたって注意が必要です。
特に、皮脂の分泌が多い環境を避けることや、抗真菌成分を含むシャンプーやボディソープを使用することが効果的です。

癜風になりやすい人、予防の方法

癜風は、以下のような人々に多く見られます。

思春期の若者

ホルモンバランスの変化により皮脂の分泌が増えるため、特に思春期の若者に多く見られます。

高温多湿の環境にいる人

夏場や湿度の高い地域に住んでいる人は、マラセチア菌が増殖しやすくなります。

免疫力が低下している人

ストレスや病気、栄養不足などにより免疫力が低下している人は、癜風を発症しやすいです。

ステロイドや抗生物質を使用している人

これらの薬剤を使用していると、皮膚の常在菌バランスが崩れ、マラセチアが増殖しやすくなります。

予防の方法

癜風を予防するためには、以下の方法が効果的です。

1. 清潔を保つ

皮膚を清潔に保ち、汗や皮脂をこまめに拭き取ることが重要です。
特に、運動後や暑い日にはシャワーを浴びることを心がけましょう。

2. 通気性の良い衣服を着用

皮膚が蒸れないように、通気性の良い衣服を選ぶことが大切です。

3. 抗真菌成分を含む製品の使用

マラセチアの増殖を抑える成分が含まれたシャンプーやボディソープを使用することで、予防効果が期待できます。

4. ストレス管理

ストレスは免疫力を低下させるため、リラクゼーションや趣味の時間を持つことが推奨されます。

5. 健康的な生活習慣

バランスの取れた食事や十分な睡眠を確保し、免疫力を高めることが重要です。

癜風は再発しやすいため、早期の診断と適切な管理が重要です。
症状が現れた場合は、早めに医師に相談することをお勧めします。


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