監修医師:
林 良典(医師)
丹毒の概要
丹毒(たんどく)は、A群溶血性レンサ球菌という細菌が原因で起こる急性の皮膚感染症です。
主に顔や脚に発症し、突然皮膚が赤く腫れ、痛みや発熱が現れるのが特徴です。
この感染症は皮膚の浅い層に限られ、蜂窩織炎(ほうかしきえん)のように深い組織まで広がることはありません。
治療が遅れると、感染が広がり重い合併症を引き起こす恐れがあるため、早めの治療が大切です。
特に免疫力が低い人、糖尿病や心臓病などを持つ人、高齢者は、早期に診断し治療を始めることが重要です。
丹毒の原因
丹毒の主な原因はA群溶血性レンサ球菌による感染です。
A群溶血性レンサ球菌は、健康な皮膚にも存在しますが、皮膚のバリア機能が破壊されると感染が発生します。
外傷や手術後の傷、慢性皮膚疾患などでバリア機能が低下し、細菌が侵入します。また、乾燥や炎症によっても皮膚が弱まり、感染リスクが高まります。
特に糖尿病患者さんや免疫力が低下している人は、丹毒を引き起こしやすい状態にあります。
これらの患者さんでは、皮膚の修復力や免疫応答が低下しているため、細菌が侵入しやすくなっています。
さらに、過去に丹毒を経験したことがある人は、その後も再発しやすくなります。
これは、一度損傷した皮膚やリンパ系が完全に回復しないために、再感染しやすい状態が続くことが原因のようです。
再発を防ぐためには、適切な皮膚のケアや生活習慣の改善が重要です。
丹毒の前兆や初期症状について
丹毒の症状は、しばしば急に現れることが多く、前兆を察知することが難しい場合があります。
しかし、初期の段階で症状を認識することができれば、迅速な対応が可能です。
以下のような症状が一般的にみられます。
皮膚の発赤
丹毒の最も顕著な初期症状は、感染した部位の皮膚が赤くなることです。
この赤み(紅斑)は周囲の皮膚と明確な境界があることが特徴です。
発赤は一般的に顔や下肢に多くみられます。
腫れ(浮腫)
発赤に加えて、感染部位が腫れることがあります。
この腫れは触れると痛みを伴い、また熱感があることも多いです。
皮膚が硬く感じられることもあり、皮膚自体が強い炎症反応を起こしている証拠です。
痛み
感染部位の痛みは、軽度から重度までさまざまで、脚に発生した場合、歩行が困難になることがあります。
発熱
丹毒に伴って38度以上の高熱が出ることがよくみられます。
発熱に加えて悪寒や全身の倦怠感、頭痛などもよくみられます。
このような全身症状は、細菌感染による炎症反応が全身に広がっていることを示しています。
感染部位に近いリンパ節が腫れ、痛みが生じることがあります。
例えば、足に丹毒ができた場合、鼠径部(そけいぶ)のリンパ節が腫れることがよくみられます。
リンパ節の腫れは、体が細菌と戦っているサインであり、免疫反応が活発に行われていることを示します。
これらの症状がみられた場合、丹毒が疑われますので、皮膚科または総合診療科、一般内科での早急な受診が推奨されます。
丹毒の検査・診断
丹毒の診断は、主に臨床症状と身体所見に基づいて行われます。
患者さんの症状が典型的であれば、追加の検査を行わずに診断されることが多いですが、
ほかの疾患との鑑別や診断の確定のために追加の検査が行われることもあります。
身体所見
皮膚の発赤と腫れ
感染部位の皮膚が赤く腫れ、境界が明瞭で、周囲の皮膚と色調が異なることが診断の手がかりになります。
発赤の広がりも確認します。
熱感と疼痛
感染した部位は触れると熱感があり、触診で痛みが確認されることが一般的です。
痛みの程度は炎症の進行度合いに左右されます。
リンパ節の腫脹
感染が進行すると、近隣のリンパ節が腫れることがあります。
検査
血液検査
血液検査では、炎症反応の指標であるCRP(C反応性タンパク)や白血球数の増加が確認されます。
これにより、体内でどれほど強い炎症が起きているかを把握することができます。
培養検査
感染源となっている細菌を特定するために、皮膚の傷や水疱、血液からサンプルを採取し、培養検査を行います。
細菌が検出されない場合でも丹毒の可能性は否定できませんが、正確な診断には有効です。
画像検査
ガス壊疽や壊死性筋膜炎といった重篤な疾患との鑑別を行うために、CTやMRIなどの画像検査が行われることがあります。
重篤な合併症を早期に見つけるためには重要な検査です。
丹毒の治療
丹毒の治療は、主に抗生物質の投与によって行われます。
細菌感染が原因であるため、早期に抗生物質を使用することが重要です。
以下に、具体的な治療法を説明します。
抗生物質
ペニシリン系抗生物質
ペニシリンやその誘導体(アモキシシリンなど)は、丹毒治療で最も一般的に使用されます。
これらは細菌の細胞壁を破壊し、特にA群溶血性レンサ球菌に対して非常に有効です。
セファロスポリン系抗生物質
ペニシリンに対して軽度のアレルギーがある場合、セファロスポリン系抗生物質が使用されます。
セファロスポリンもペニシリンと同様に細胞壁の合成を阻害しますが、両者の交差反応があるため、アレルギーの程度によっては注意が必要です。
マクロライド系抗生物質
ペニシリンやセファロスポリン系抗生物質が使用できない場合、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質が処方されます。
これらは細菌のタンパク質合成を阻害し、細菌の増殖を抑えます。
抗生物質に加えて、発熱や痛みには解熱鎮痛薬が使われます。
さらに、腫れや痛みを和らげるために、冷却パックを使うことも効果的です。
治療期間
抗生物質治療の期間は通常1〜2週間程度ですが、感染の重症度や治療開始のタイミングによって異なります。
症状が改善したとしても、医師の指示に従い、処方された薬を最後まで飲み続けることが重要です。
治療を途中で止めると、再発や耐性菌の出現のリスクが高まるため、治療完了まで自己判断で中断することは避けましょう。
丹毒になりやすい人・予防の方法
丹毒になりやすい人
高齢者
加齢に伴う皮膚の免疫機能の低下が原因で、細菌感染に対して抵抗力が低くなります。
糖尿病患者
糖尿病患者さんは、白血球の免疫力や皮膚の治癒能力が低下するため感染のリスクが増加します。
免疫力が低下している人
免疫抑制剤を使用している人や、慢性疾患を抱えている人は、細菌に対する抵抗力が弱くなります。
慢性的な皮膚疾患を持つ人
アトピー性皮膚炎や湿疹を持つ人は、皮膚バリアが弱いため、感染リスクが高まります。
予防の方法
皮膚の清潔を保つ
皮膚を常に清潔に保ち、細菌の繁殖を防ぎましょう。特に傷や擦り傷がある場合は、早めに消毒し、適切に保護することが大切です。適切なスキンケア
乾燥や湿疹がみられる場合は、適切な保湿剤を使用して、皮膚のバリア機能を維持することが予防に役立ちます。
免疫力を高める
バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠を心がけ、免疫力を高めることが、丹毒の予防に効果的です。
丹毒は迅速に治療すれば治癒が期待できる病気ですが、放置すると重篤な合併症を引き起こすことがあります。
皮膚に異常がみられた場合は、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることが重要です。
早期の発見と治療が、病気の重症化を防ぐ重要なポイントとなります。
関連する病気
- 蜂窩織炎(Cellulitis)
- 敗血症(Sepsis)
- リンパ管炎(Lymphangitis)
参考文献
- Brindle R, Williams OM, Barton E, Featherstone P. Assessment of Antibiotic Treatment of Cellulitis and Erysipelas: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Dermatol. 2019;155(9):1033–1040.
- Brindle, R.J., O’Neill, L.A. & Williams, O.M. Risk, Prevention, Diagnosis, and Management of Cellulitis and Erysipelas. Curr Derm Rep 9, 73–82 (2020).