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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

汗管腫の概要

汗管腫(かんかんしゅ)は、汗を分泌する汗腺の一種であるエクリン汗腺が真皮内で過剰に増殖することで、皮膚表面がイボ状に盛り上がった良性腫瘍です。
正常皮膚には体温や精神的緊張によって汗を産生し、体表面に分泌する汗腺(かんせん)が大量にあります。このうち腋窩や外陰部など限られた場所にのみ分布して毛穴の中に開口しているのがアポクリン汗腺で、それ以外の全身の皮膚に毛穴と独立して分布するのがエクリン汗腺です。

このエクリン汗腺は全身の皮膚に200万〜500万個あり、真皮内にある汗管部と表皮を貫いて体表面に開口する細い管からできていて、開口部から無味無臭の汗を分泌します。
このエクリン汗腺の真皮内の部分である汗管部が局所的に増殖して表皮を盛り上げているのが汗管腫です。

医学的には良性の皮膚腫瘍に分類され、「汗管腫瘤(かんかんしゅりゅう)」とも呼ばれます。皮膚と同じ色もしくは淡い黄色で表面は滑らか、直径1〜3ミリメートル程度の丸い隆起が、通常いくつか集まって出現します。
部位として最も多いのは目の周囲とくに下眼瞼から頬にかけてですが、上眼瞼や前胸部、脇などにも出現します。眼險以外の顔面や頚部、腋窩、体幹、外陰部に発生するときは広範囲に多発しやすく、特に急速に起こるものを発疹性汗管と呼び、比較的若い年齢層に多く起こります。

もともと汗を分泌する器官であり、汗管腫も汗を産生する機能があると考えられています。そのため夏には大きく目立ったり痒みを起こしたり、冬には小さく見えたりしますが、自然に消退することは原則ありません。

汗管腫の原因

汗管腫の正確な原因は未だ解明されていませんが、以下に示すいくつかの要因が関与していると考えられています。

遺伝的要因

家族に汗管腫の患者さんがいる場合は出現しやすいようです。アジア人や肌の色が濃い人種に多く、特に日本人に多いとされています。また、ダウン症候群の方の20%にみられるとの報告もあります。

女性ホルモン

女性ホルモンが汗管腫の発生に関わっていることがわかっています。そのため、女性は男性の3倍ほど多く出現します。

皮膚の老化

年齢とともに皮膚の構造が変化し、汗腺の機能が低下することが、汗管腫の発生に関係しているとされています。また、加齢に伴う皮膚の弾力性の低下が関与している可能性もあります。

外的要因

皮膚への外傷や刺激も、汗管腫の発生を誘発することがあるとされています。例えば、皮膚に対する摩擦や圧力がかかる部位に汗管腫ができやすい傾向があります。

汗管腫の前兆や初期症状について

汗管腫は一般的に無症状ですが、初期には小さな膨らみとして現れます。これらは、他の皮膚の問題(例えば、脂肪粒や扁平疣)と間違えられることがあります。汗管腫は目の周囲、特に下眼瞼に出現することが多く整容的に問題となりえますが、痛みやかゆみといった医学的な症状はありません。汗管腫が心配な方には、まずは皮膚科を受診することをおすすめします。

汗管腫の検査・診断

汗管腫の診断は、主に視診によって行われます。皮膚科医は、腫瘍の外観や位置を観察し、必要に応じて拡大鏡なども用いて詳細に確認します。稗粒腫、エクリン汗嚢腫、顔面播種状粟粒性狼着といった他の皮膚疾患との区別が難しい場合は組織検査(生検)を行うこともあります。

汗管腫の治療

汗管腫は良性腫瘍であり、医学的には治療を必要としませんが、美容面から治療を希望する場合は以下の方法があります。

レーザー治療

CO2(炭酸ガス)レーザーやエルビウムYAGレーザーを使用して、汗管腫を蒸発させる方法です。レーザー治療は、汗管腫の細胞を破壊して縮小させることができ、比較的ダメージが少ない治療法といえます。治療直後には照射部位に小さな孔が残りますが、10日程度で上皮化するので目立つ傷跡は残らないことが多いです。ただし、レーザーの熱効果が届かなかった深部で病変が再発する可能性があるため、時間をあけて繰り返し照射する必要があります。

高周波治療

毛穴よりも細い針を汗管腫内に差し込み、針の先から高周波の熱を伝えることで汗管腫の細胞を破壊し、縮小させる治療法です。高周波治療はレーザー照射に比べるとダウンタイムが短い利点があるとされる一方で、効果発現まで数ヶ月以上の時間がかかります。
一般に、大きな汗管腫が少数のみの場合はレーザー治療が、汗管腫の数が多い方は針電気凝固法が向いているようです。また、上肢や体幹部の汗管腫についてはエルビウムYAGレーザーで焼くと白点が残る場合があるため、針電気凝固法が勧められます。

自然治癒の可能性

汗管腫が自然に消失することは原則としてありません。

医薬品による治療

汗管腫は真皮内で汗腺が増殖して起こるもので、結果として盛り上がった表皮には治療すべき対象がありません。そのため外用薬の塗布、液体窒素、ケミカルピーリングといった表皮や角質層に働きかける治療には大きな効果が期待できないだけでなく、皮膚炎などの副作用を起こす危険性があります。

汗管腫になりやすい人・予防の方法

汗管腫は、前述の通り以下のような人々に多く見られます。

性別と年齢

  • 女性: 男性に比べて女性の発症率は3倍ほど高いとされています。特に30代から40代の女性に多く見られます。
  • 年齢: 思春期以降、年齢が上がるにつれて患者数が増加します。

ホルモンの影響

汗管腫は女性ホルモンに影響されることが知られており、ホルモンの変動が発症に関与している可能性があります。

遺伝的要因

家族に汗管腫の患者さんがいる場合、発症リスクが高まります。遺伝的な要因が関与している可能性があるため、家族に同様の症状がある場合は注意が必要です。

皮膚の状態

皮膚が敏感な人や、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を持つ人も、汗管腫が発生しやすいとされています。

予防の方法

汗管腫を完全に予防する方法は確立されていませんが、以下の対策が推奨されます。

適切なスキンケア

定期的な洗顔と保湿を行い、皮膚の健康を維持することが重要です。特に乾燥肌や敏感肌の人は、保湿をしっかり行うことで、皮膚のバリア機能を高めることができます。

外的刺激の回避

皮膚に対する過度な刺激や外傷を避けることが、汗管腫の発生を抑える可能性があります。例えば、強い摩擦や圧力がかかる部位には注意が必要です。

健康的なライフスタイル

バランスの取れた食事や十分な睡眠、ストレス管理が、皮膚の健康に寄与します。特にビタミンやミネラルを含む食品を摂取することで、皮膚の健康を保つことができます。


関連する病気

  • ネフローゼ症候群(Nephrotic Syndrome)
  • ポルフィリン症(Porphyria)
  • Gardner症候群(Gardner Syndrome)

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