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西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

乳児湿疹の概要

乳児湿疹は、生後1〜2週間頃から見られる赤い点状から斑状の皮疹のことです。場合によっては、これらの斑点が広がってつながり、皮膚全体が赤くなることもあります。特に顔や頬、おでこに好発し、身体にも発生することがあります。
また、かゆみの程度は乳児によって異なり、弱い場合もあれば強いかゆみを伴う場合もあります。

乳児湿疹は一般的にアトピー性皮膚炎とは異なり、自然に治癒する一過性の皮膚トラブルです。しかし、乳児湿疹を発症することで、その後の健康に影響を与える可能性もあります。
例えば、生後1年以内に湿疹があると、3歳時点での食物アレルギーのリスクが高まる可能性が示されています。

乳児湿疹の原因

乳児湿疹の原因は特定されておらず、いくつかの要因が関連し合って発症すると考えられています。
以下より、詳しく解説します。

皮脂の過剰分泌によるもの

生後3ヶ月くらいまでに見られる湿疹は、皮脂の過剰分泌が原因なことが多いです。
例えば、皮脂の分泌が多いおでこや頬などの顔の部分や頭皮に好発します。

皮膚の摩擦によるもの

生後3ヶ月くらいまでに見られる湿疹では、首や太ももの付け根など、皮膚の摩擦が起きやすい部分に湿疹が現れることがあります。
入浴時やスキンケアをする際には、皮膚の摩擦の起きやすい部分も丁寧に洗浄したり保湿したりするようにしましょう。
乳児湿疹としておむつかぶれを含むこともあります。
その原因として、赤ちゃんが出すおしっこやうんちに含まれる老廃物や酵素、大腸菌などが考えられます。これらが皮膚に当たることで炎症を起こします。
また、おむつによる汗や蒸れ、おむつそのものの刺激も原因となります。

乾燥によるもの

生後3ヶ月を過ぎると、湿疹の原因として乾燥が主な要因となることが多いです。この時期には、手足など外気にさらされやすい部分に湿疹ができやすくなります。
乳児は成人よりも皮膚構造が薄く、乾燥により皮膚のバリア機能が損なわれやすい傾向であるため、注意が必要です。

季節柄によるもの

生後1年以内の乳児の皮膚は加齢により変化しやすく、季節の影響も受けやすい傾向です。4ヶ月健診および10ヶ月健診における乳児湿疹の診断数は、2月頃に多く、8月頃は少なかったという研究報告があります。

乳児湿疹の前兆や初期症状について

前兆や初期症状については、以下のものが挙げられます。

乾燥とざらつき

肌が乾燥し、触るとざらざらとした感触になることがあります。
これが湿疹の初期段階でよく見られる兆候です。

皮膚の赤み

最初の兆候として、肌がやや赤くなり、特に顔(頬や額)、首、肘や膝の内側、さらにはおむつ周りなど、皮膚がこすれやすい部分に現れます。

小さなブツブツや湿疹

皮膚に小さな赤いブツブツや水泡が現れることがあり、これが湿疹の初期症状です。

かゆみ

乳児はまだ言葉で表現できないため、かゆみが原因で不機嫌になったり、泣いたりすることがあります。

お子さんの湿疹が心配な場合には、早い時期に小児科皮膚科で診てもらうようにしましょう。

乳児湿疹の検査・診断

乳児湿疹は一過性の皮膚トラブルで、自然に治ることもあります。
しかし、適切な治療を行うためには、アトピー性皮膚炎などのほかの皮膚疾患とは区別する必要があります。
乳児湿疹を診断する際には、問診や視診などでアトピー性皮膚炎やほかの皮膚疾患がないかを精査します。

問診・視診

以下では、乳児湿疹と類似性があるアトピー性皮膚炎を例にして解説します。

アトピー性皮膚炎を鑑別する際には、

  • かゆみがあること
  • 特徴的な皮疹の分布がみられること
  • 症状が慢性的に繰り返すこと

の3つが重要なポイントとなります。
さらに、家族歴や合併症の有無なども確認していきます。
アトピー性皮膚炎ではご家族の中にアレルギー素因(気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などアレルギー反応を起こしやすい体質)を持っていることが多い傾向です。

血液検査

治療がうまく行かない場合や家族歴がある場合、また、他の疾患が疑われる場合などに、血液検査を行うこともあります。

ほかにも乳児湿疹と鑑別が難しい、乳児脂漏性皮膚炎や接触皮膚炎、突発性発疹症、汗疹、おむつ皮膚炎などとの鑑別が必要不可欠です。

乳児湿疹の治療

乳児湿疹の治療には、清潔と保湿をすることが優先されます。
また、皮膚を傷つけてしまうと症状が悪化してしまうおそれがあるので、かかないようにすることもポイントとなります。

清潔

乳児の身体を洗う際は、乳児用の石鹸や低刺激性の洗浄剤を使って、湿疹ができやすい部分や洗いにくい部分を丁寧に洗いましょう。

身体についた汚れを落とすにはたっぷりの泡で洗うことを心がけましょう。乳児の関節のしわなどは汚れがたまりやすい場所なので、しっかりと伸ばして洗うようにしてください。
また、石鹸を使った後は、しっかりと泡を洗い流してください。

保湿

肌の乾燥を避け乳児湿疹を予防するためには、お風呂の後などに保湿剤を塗る習慣をつけるようにしましょう。
保湿剤を塗るときのポイントは以下になります。

  • 皮膚の乾燥を防ぐため、入浴後に水分を拭き取ったらすぐに塗る
  • 保湿剤の効果を引き出すため、適切な量の保湿剤を塗る
  • 関節のしわなどを伸ばして塗る

かかないようにする

湿疹ではかゆみを伴う場合があり、どうしてもかいてしまうお子さんもいます。しかし、かいてしまうと皮膚を傷つけて、さらにかゆみを助長してしまう危険性があります。
そのため、手足などに湿疹が出ている場合には長袖や長ズボンを着用し、できるだけかかないように工夫することが大切です。
なお、乳児の爪を短く切っておくことで、引っ掻いたときに皮膚が傷つくのを防ぐことができます。
また、夜間や睡眠中に乳児が引っ掻かないように、手袋やミトンを装着することも効果的です。

上記で紹介したスキンケアをしっかり行えば、ほとんどの乳児湿疹は改善が期待できます。
なお、上記でも改善が乏しい場合やひどい場合は、保湿剤やステロイドの外用を使用することもあります。
しかし、症状が改善せず悪化してしまった場合には、ほかの疾患の可能性がありますので注意が必要です。

乳児湿疹になりやすい人・予防の方法

乳児湿疹になりやすい人や予防の方法について以下に解説します。

乳児湿疹になりやすい人

乳児湿疹の原因は特定されておらず、さまざまな要因が関連し合って発症すると考えられています。
そのため、皮脂の過剰分泌や皮膚の摩擦、乾燥などの条件がそろえば発症する可能性があります。

生後3ヶ月頃までの乳児では皮脂の分泌が多い頭皮やおでこ、頬に乳児湿疹ができやすい傾向です。また、皮膚の摩擦が生じやすい首部や太ももの付け根にも湿疹ができやすくなっています。

生後3ヶ月を過ぎると乾燥が主な原因であると言われ、手足などの外気に触れやすい部分に湿疹ができやすい傾向です。

乳児湿疹の予防の方法

乳児湿疹の予防は治療と同様に、皮膚の清潔や保湿をすることが重要なポイントになります。

乳児の皮膚の構造は成人の半分ほどの厚さのため、皮脂や水分が少なく、皮膚が乾燥状態となりやすいのです。
また、乳児の皮膚はバリア機能が弱く、病原菌やアレルギーの原因となる物質が侵入し、肌トラブルに陥りやすくなっています。

乳児湿疹の発症やそのほかの肌トラブルを予防するためには、日頃から乳児の皮膚を清潔にし、乾燥を防ぐためにも保湿を習慣づけるように心がけてください。

また、汗やよだれ、ダニなどの皮膚トラブルを招く要因を見つけ、可能な範囲ですばやく取り除くことも乳児湿疹を予防するうえで重要になってきます。


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