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尋常性疣贅
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

尋常性疣贅の概要

尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)とは良性の腫瘍で、一般的に「イボ」と呼ばれるものの一種です。

「イボ」を大きく分類すると、ウイルス性疣贅、脂漏性角化症、軟性線維腫の3つに分類されます。さらにウイルス性疣贅は、尋常性疣贅(典型例、非典型例)、特殊型、伝染性軟属腫(水イボ)に分類されます。

ウイルス性疣贅は伝染性軟属腫を除いて、すべてHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染によって生じる良性の腫瘍です。HPVは200種類以上の型が確認されていて、その中の一部の型が伝染性軟属腫を除くウイルス性疣贅を引き起こしています。
出典:厚生労働省「HPVワクチンについて知ってください」

また、尋常性疣贅の非典型例はさらに、以下のように分類されます。

  • 指/糸状疣贅:指や糸状に見えるイボで、顔や首に生じる
  • 足底疣贅:表面がざらざらしているイボで、足の裏に生じる
  • モザイク疣贅:複数のイボが融合し、モザイクのように見える
  • 爪囲疣贅:治療が難しくなることが多く、爪の周囲に生じる
  • 爪甲下疣贅:治療が難しくなることが多く、爪の下に生じる
  • ドーナツ疣贅(リング疣贅):再発時に見られることが多く、ドーナツ状の形をしている

日本では尋常性疣贅の有病率に関する調査はあまりありませんが、若年者では高くなる傾向があります。これは他国の調査結果の傾向と一致します。

尋常性疣贅の治療ではHPVに対する有効な抗ウイルス薬がないため現時点では液体窒素凍結療法が用いられることが多いです。

尋常性疣贅

尋常性疣贅の原因

尋常性疣贅の原因は、HPVによる感染です。HPVには200種類以上の型がありますが、イボを生じるのは一部の型です。尋常性疣贅を起こすHPVの型は、HPV2a型、HPV27型、HPV57型の3種類と考えられています。

尋常性疣贅の感染経路は主に人から人の接触感染で、HPVは小さな傷からでも体内に侵入します。また、プールや銭湯・ジムなどでの間接的な接触で感染するケースもあります。尋常性疣贅はいずれかの経路でHPVに感染したあと体内で増殖し、3週間~8か月間の潜伏期間を経て発症します。
出典:国立感染研究所「ヒトパピローマウイルス感染症」

尋常性疣贅の前兆や初期症状について

尋常性疣贅には「タコ」や「ウオノメ」のような痛みは、ほとんどのケースでありません。しかし、皮膚の盛り上がりが強い場合には痛みが発生することもあります。皮膚の盛り上がりによって皮膚の1番外側にある表皮と表皮の下に位置する真皮が入り組んだ状態になります。真皮には痛みを感じる組織や血管が多いため、圧迫や激しい摩擦で真皮が傷つくと、痛みや出血を伴う場合があります。このようなケースは、足底疣贅で見られることが多い症状です。

また、尋常性疣贅は種類によってイボが発生する場所は異なり、手足や足底、爪の周辺、爪の下にあらわれます。なかでも手足の皮膚に数mm~1cm程度の小さなイボが見られることが多く、あらわれた尋常性疣贅は次第に数が増えたり、大きくなったりして融合するのが特徴です。

尋常性疣贅の検査・診断

尋常性疣贅の典型例では、ほとんどのケースが視診で診断できます。視診で診断できない場合は、正確な診断のためにダーモスコピー検査や病理組織学的検査、免疫組織学的検査、HPV遺伝子型同定検査を実施するケースもあります。

ダーモスコピー検査

ダーモスコピー検査とは、超音波検査用のジェルを病変部に塗った後、ダーモスコープ(特殊なルーペ)と呼ばれる特殊な機器を表面に当て、病変部の構造を詳しく調べる検査です。皮膚を通る毛細血管の状態も観察できるため、尋常性疣贅の診断に有効な検査となります。

また、検査だけでなく尋常性疣贅の治療中に、病変の残存がどれくらいあるかを確認するための手段としても活用されます。

病理組織検査

病変部位を一部採取し、顕微鏡で病変組織を調べる検査で、他の病気との鑑別をしたい場合に使用されます。具体的には、ボーエン病や日光角化症、エクリン汗孔腫などとの鑑別が行われます。

尋常性疣贅の病理組織検査の所見では、角質の肥厚や表皮が真皮に入り込んでいる部分の延長などが見られます。

免疫組織学的検査

HPV抗原があるかどうかを確認する検査方法です。HPVは正二十面体の球状構造をしたウイルス粒子で、粒子が検出されればHPVに感染していると診断されます。しかし、ウイルス粒子が少ないと検出器で検出できないこともあり、HPVに感染していても陽性所見が得られない場合があります。

HPV遺伝子型同定検査

HPV遺伝子型同定検査は、ダーモスコピー検査や病理組織検査でも診断がつかない場合に、最終的な手段として使用される検査です。尋常性疣贅を引き起こすHPVの遺伝子型を増幅できるものを用いて増幅および解析することで、HPVの型を特定できます。

しかし、検査には針を使用する必要があり身体に負担がかかります。そのため前述のとおり、最終的な手段として活用され、実際に行われる頻度は少ないです。

尋常性疣贅の治療

尋常性疣贅の治療では、主に液体窒素凍結療法が使用されます。液体窒素凍結療法とは、マイナス196℃の液体窒素を当てて、凍傷を起こすことで病変部位の細胞を壊死させて除去する治療法です。日にちを空けながら繰り返し、根治を目指します。

液体窒素凍結療法の他には、サリチル酸も有効だとされています。サリチル酸は角質をやわらかくすることでイボの除去を促進します。日本では「サリチル酸絆創膏」として処方されることが多い処方薬です。

液体窒素凍結療法とサリチル酸は「尋常性疣贅診療ガイドライン 2019(第1版)」にて強く推奨されている治療法です。また、サリチル酸単独で治療を行うよりも、液体窒素凍結療法と併用して治療を行った方が、効果が高いという報告もあります。

治療法の選択肢として他にも、尋常性疣贅の外科的切除やいぼ剥き法、レーザー療法、電気凝固、フェノール外用、プレオマイシン局所注入療法、ヨクイニンエキス内服などが挙げられます。

尋常性疣贅は自然に消失するケースもありますが、感染の拡大や自然治癒しても再発する可能性があるため、適切な治療を受けることが重要です。

尋常性疣贅になりやすい人・予防の方法

尋常性疣贅は皮膚が乾燥している人がなりやすい傾向があります。皮膚の乾燥により皮膚のバリア機能が低下し、傷を作りやすくなるためです。尋常性疣贅の原因となるHPVは、小さな傷からでも体内に侵入して感染するため皮膚が乾燥していると尋常性疣贅を発症しやすいといえます。

予防策としては皮膚の健康を保つことが重要です。特に発症しやすい手足を清潔にして皮膚のバリア機能を高め、傷を作らないように心がけてください。また、爪を噛むことで傷ができ、感染のリスクが高まるため爪を噛む癖がある人は改善が必要です。

なお、HPVの感染が原因となる子宮頸がんについてはワクチンが開発されていますが、イボを起こすHPVの型とは異なるため、尋常性疣贅の予防策にはなりません。2024年時点では尋常性疣贅に効果のあるワクチンは開発されていないため、前述のとおり健康な皮膚を保つことが一番の予防となります。


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