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ハンセン病
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

ハンセン病の概要

ハンセン病は、らい菌(抗酸菌)に感染して起こる慢性感染症です。ハンセン病は、1996年4月1日以前まではらい※と呼ばれていましたが、らい予防法の廃止とともにハンセン病と正式に病名が変わりました。
1945年以前は治らない病気といわれていましたが、現在では後遺症がない治る病気として認識されています。
感染すると皮膚・末梢神経・上気道粘膜・目などに症状がでますが、治療が可能な病気であり早期に治療すれば後遺症を残すこともほとんどありません。
感染経路は、未治療の感染者と免疫機能が低下した乳幼児が長期間接触して、感染しますが発症するまでには数年以上かかります。
現在、ハンセン病の治療は、WHO(世界保健機関)の推奨する多剤併用療法(リファンピシン・スルホン薬・クロファジミン)で行われています。
多剤併用療法は治癒力が高く、感染者が治療を開始している場合は感染力はなくなり、早期に治療を開始すれば後遺症もほとんど残りません。

ハンセン病の原因

ハンセン病は、長期間の密接な接触と衛生状態・栄養状態など環境が感染の要因となります。そのため、主に近親者間で感染が広がる傾向にありますが免疫機能が低下していない健康な人に感染はしません。ハンセン病は、抗酸菌のなかのらい菌に感染して起こる慢性感染症です。抗酸菌はらい菌のほかには結核菌があります。

らい菌は31度前後が至適温度のため未治療感染者からの人から人への飛沫感染で感染しますが、らい菌に毒性はほとんどありません。

感染者の感染時期は、乳幼児期に頻繁に未治療感染者と濃厚接触し、らい菌が口や鼻から侵入して感染する場合がほとんどです。もし感染しても発病するまでには数年から数十年かかります。

また、ハンセン病は、菌量・免疫機能・衛生状態・栄養状態・環境などのあらゆる要因が関与して発病します。そのため、感染しても一生発病しない人も少なくなく、遺伝する病気ではありません。なお、ハンセン病感染者との握手・ハグ・食事・隣席などで感染はしません。

ハンセン病の前兆や初期症状について

ハンセン病は、皮膚や末梢神経を侵す病気です。初期症状は主に皮疹と知覚麻痺で潜伏期間の長い進行性の慢性感染症です。

ハンセン病の症状には以下のものがあります。

  • 皮疹=結節・白斑・紅斑・環状紅斑
  • 神経障害=知覚麻痺・運動麻痺・神経肥厚
  • 脱毛
  • 発汗低下
  • 運動障害

症状の発生は1つだけとは限らずいくつかの症状が組み合わさって発生する場合があります。なお、皮疹が多発しても痒みや痛みはありません。痒みや痛みなどの知覚の低下によってケガや火傷をしていても気付かないことがあり、重傷になることがあります。

未治療や治療の遅れで、手・足・顔の変形や視力障害などの後遺症が残ることもありますが、現在は有効な治療薬が開発され早期に治療を行えば完治します。

症状があった場合には、皮膚科あるいは神経内科の外来で受診しましょう。

ハンセン病の検査・診断

ハンセン病は皮疹や神経障害などの症状があらわれますが、痒みや痛みなどの知覚が乏しい病気ですので、検査でハンセン病の確定を行います。

末梢神経がらい菌に侵されると感覚が鈍ったり麻痺が起こったりしますが、らい菌は病変が多様なため人によって症状が異なるのが特徴です。

そのため、診断は臨床的観点から行う必要があります。

検査

ハンセン病は、ほかの疾患と類似する症状があるため複数の検査を行います。

  • 知覚検査=痛覚・触覚・温冷感
  • 皮膚スメア検査=らい菌を検出する
  • 臨床検査=血液検査・尿検査
  • 神経伝導速度検査
  • 神経学的検査=神経の肥厚・運動障害
  • 病理組織検査=皮疹部の組織・肥厚神経採取
  • 血清抗PGL-I抗体検査

ハンセン病は、皮疹の数、神経症状の有無、皮膚スメア検査での菌の有無によって、少菌型(PB)と多菌型(MB)に分類され、治療法を選択する基準になります。

診断

ハンセン病は一般的には皮膚病変および末梢神経の検査を基準に診断します。

  • 色素沈着の低下
  • 知覚障害
  • 運動障害
  • 末梢神経の肥厚・肥大
  • スリット皮膚塗抹標本中の桿菌の検出
  • らい菌の検出

らい菌が検出されればハンセン病と確定できますが、少菌型の場合検出が困難な場合があるので、上記の徴候が1つでも検出できればハンセン病の診断基準になります。

ハンセン病の治療

治療の目的は神経炎・らい反応・後遺症などの神経症状を起こさず、らい菌の排除ができることです。ハンセン病は、抗菌薬を服用すれば完治できます。

現在治療に使用する薬剤は、リファンピシン(RFP)・スルホン薬(DDS)・クロファジミン(CLF)の3種の抗菌薬の多剤併用療法です。

少菌型のハンセン病は抗菌薬を半年間服用し、多菌型は数年間服用を継続すれば治癒する病気です。なお、WHOでは多剤併用療法(MDT)を無償提供しています。神経炎の症状がある場合の治療には、多剤併用療法を続けながらステロイド内服薬を併用します。

ハンセン病は、知覚が低下して外傷や火傷などに気付かず重症化にいたることがあるので、毎日の身体の点検が重要です。ハンセン病を放置して治療開始が遅れると、後遺症が残ることがあります。

ハンセン病になりやすい人・予防の方法

ハンセン病は慢性の感染症ですが、毒性が弱いためほとんどの人が感染しても発症はしません。日本の新たな感染者数も毎年数名程で稀な病気と位置づけられています。

ただし、同居家族に未治療の感染者がいる場合は感染者本人へは早期の治療を促すとともに、未発症の同居家族もリファンピシンを単独服用すればハンセン病の発症を予防することができます。

ハンセン病になりやすい人

ハンセン病に罹患する人は、治療前の感染者に頻繁に接触する機会のある濃厚接触者ですが、菌が体内に入っても免疫機能によってほとんどの人は発症しません。ただし、免疫機能が低下している乳幼児が未治療の感染者と数ヵ月以上頻繁に接触した場合は、感染するリスクがあります。感染しやすい人は衛生状態や栄養状態の悪化・免疫機能の低下などの環境にあり、かつ未治療感染者と長期間の濃厚接触状態であればハンセン病に感染するリスクが高くなります。しかし、ハンセン病は免疫機能の低下や衛生状態・栄養状態などの環境も発病するリスクの要因となるため、現在の日本では発病する可能性は極めて低い病気です。

ハンセン病の予防方法

ハンセン病は免疫機能が低下していると感染するリスクが高くなるので、未治療感染者が同居している場合は、乳幼児の接触は極力控えます。また、感染リスクの高い同居家族はリファンピシンの単剤投与で感染予防ができます。なお、治療中の人や治療が終了した人と接触しても感染しません。ハンセン病は、現在も120国以上で発生している感染症で新規感染者は減少傾向にありますが、ワクチン開発は現在も世界中で進められています。しかし、ハンセン病は熱帯病ともいわれ公衆衛生が行き届かない国では、現在もハンセン病新規感染者の症例報告があります。インド・インドネシア・ブラジル・エチオピア・ナイジェリアなどは、現在も新規感染者の発生が少なくありません。日本の新規感染者は毎年数名程ですが、在日外国人がハンセン病に感染したまま来日するケースも毎年発生しています。


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