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肺動静脈瘻
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

肺動静脈瘻の概要

肺動静脈瘻(はいどうじょうみゃくろう)は、肺の血液を循環させる肺動脈と肺静脈が直接つながる異常な状態を指します。
通常、肺動脈を流れる血液は毛細血管を通って酸素を取り込んだ後、肺静脈を通じて全身に酸素を送ります。
しかし、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さず直接つながってしまうと、血液が酸素を十分に取り込めず、低酸素血症と呼ばれる状態が起き、体に十分な酸素が供給されません。

肺動静脈瘻は先天性(生まれつき)によって発症するケースが多く、特に遺伝性出血性毛細血管拡張症(以下HHT)という遺伝性の病気と関係していることがあります。
症状が出ない場合も多いですが、進行すると息切れや肌の青白さ(チアノーゼ)が現れます。
血液中の異物を除去するフィルター機能が働かないため、血栓や細菌が全身に広がり、脳梗塞や脳膿瘍などの合併症を引き起こすこともあります。
血管が脆弱になっていることから膨らんで破裂する場合があり、多量出血によって命に関わる危険性もあります。

肺動静脈瘻の治療法は、カテーテルを用いた低侵襲な手術が主流で、早期発見と適切な治療により良好な経過をたどることができます。

肺動静脈瘻の原因

肺動静脈瘻の原因の一つは、先天的な血管の発育異常です。
胎児の発育中に正常な血管形成が障害されることで、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながる異常が発生します。

特にHHTの患者では肺動静脈瘻が高頻度で見られ、単心室症などの先天性心疾患に対する手術を受けた患者も後天的に肺動静脈瘻が発生することがあります。
遺伝や手術と無関係に発症する孤発性のケースも報告されています。

肺動静脈瘻の前兆や初期症状について

肺動静脈瘻は多くの場合、無症状のまま進行し、健康診断や他の病気の検査中に偶然発見されることが少なくありません。
進行すると体に酸素が十分行き渡らない低酸素血症が発生し、さまざまな症状が現れることがあります。
運動時の息切れやチアノーゼ(皮膚や唇が青紫色に変色する)、疲れやすさ、胸部の違和感などが主な症状として挙げられます。

血液中の酸素不足を補うために赤血球が増え、多血症になることも肺動静脈瘻の特徴の一つです。
重症例では、血栓や細菌が全身に広がることが原因で、脳梗塞や脳膿瘍、心筋梗塞などの命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。
咳とともに血液が混じる喀血や、胸の中に血がたまる血胸などの出血症状が見られることもあります。

肺動静脈瘻の検査・診断

肺動静脈瘻の診断は、胸部X線検査やCT検査、心エコー検査、血管造影検査によって行われます。
肺動静脈瘻の有無や病変の詳細を確認し、治療方針を決定します。

胸部X線検査

肺動静脈瘻の初期検査として胸部X線検査が行われることがあります。
肺に異常な影が見られる場合があり、結節状や円形の影が特徴とされています。

胸部CT検査

胸部CT検査は病変の大きさや位置、血管の異常なつながりを詳細に把握できます。

心エコー検査

心エコー検査は心臓の血液の流れを観察し、簡易的に異常を見つけるスクリーニング検査として役立ちます。
肺動脈と肺静脈が異常につながっている「右左シャント」の存在を確認できます。

血管造影検査

血管造影検査では造影剤を用いて血管の流れを観察し、瘻がどのように動脈と静脈をつないでいるかを明らかにします。
肺動静脈瘻の形状を詳細に確認するための検査で、治療計画にも利用されます。

肺動静脈瘻の治療

肺動静脈瘻の主な治療はカテーテルを用いた血管塞栓術で、異常血管を閉塞することで症状の進行を防ぎます。
瘻をつくっている流入動脈が太い場合には、手術による切除が検討されます。

治療後は、再発を防ぐために定期的な検査とフォローアップが重要です。
症状がない場合や、軽度の症状しかない場合には、経過観察が選択されることがあります。

カテーテル塞栓術

カテーテル塞栓術は、カテーテルという細い管を足の付け根から血管内に挿入することで、肺動脈の処置をおこないます。
治療中は局所麻酔が使用され、多くの場合、患者が痛みを感じることはありません。
カテーテルで瘻のある部分に到達した後、金属コイルや専用のプラグを使って異常な血管を塞ぎます。
従来の外科手術に比べて体への負担が少なく、短い入院期間で実施可能です。
瘻の数が多い場合には、数回に分けて治療を行うことがあります。

外科的手術

カテーテル治療が適用できない場合や、瘻が非常に大きい場合は、外科的手術が選択され、異常な血管を含む肺の一部を切除する手術が行われます。
手術は体に大きな負担がかかるため、カテーテル治療が困難なケースに限定されます。

肺動静脈瘻になりやすい人・予防の方法

肺動静脈瘻は、遺伝的な要因が関係することが多く、特にHHTの家族歴がある人は発症リスクが高いとされています。
HHTは鼻血や皮膚の毛細血管の拡張といった症状が現れるため、こうした兆候がある場合には医療機関での検査を検討しましょう。
特にHHT患者や患者の家族は、定期的に検査を受けることが勧められています。

肺動静脈瘻は先天性の病気であることが多く、予防が難しい疾患ですが、早期診断と治療によって合併症を防ぐことが可能です。
自覚症状が乏しいことも多いため、健康診断などの定期的な検診を受けて早期発見に努めましょう。

発症後、歯科治療や怪我の際には細菌感染を防ぐために抗生物質の使用が推奨されています。
スキューバダイビングや高山登山など、空気塞栓や低酸素血症のリスクを伴う行動を避けることも重要です。


関連する病気

  • 遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT、オスラー病)
  • 脳膿瘍
  • 細菌性心内膜炎
  • 肺高血圧症

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