監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
発声障害の概要
発声障害とは、声帯やのど(喉頭)の異常などが原因で、声を出しにくくなったり、かすれたりする状態です。何らかの疾患や喉頭の麻痺などによって発症する「器質性発声障害」と、声帯や喉頭の機能に器質的な異常がないにもかかわらず発声に問題が生じる「機能性発声障害」に大別されます。
肺から送られた空気が声帯を振動させることで声を出すことができます。声帯は喉頭に位置する左右一対の組織で、声帯に囲まれる空間は「声門」と呼ばれます。
声帯の振動には「反回神経」という神経の働きが関与しており、さまざまな組織が連携することで初めて発声することができます。
しかし、反回神経の麻痺やウイルス感染、ポリープ、結節、喉頭がんなどの疾患や心因性の問題によって声を正常に出せなくなることがあります。また、職業上よく声を出す人や誤った発声の癖がある人も発声障害が生じるすることがあります。
発声障害を認める場合には、原因に応じて保存療法や薬物療法、外科的手術が選択されます。
発声障害の原因
発声障害の原因は多岐に渡ります。
器質性発声障害では、「声帯ポリープ」や「声帯結節」、喉頭の悪性腫瘍のほか、「急性喉頭炎」などの炎症性疾患、喉頭の外傷、「膠原病」「甲状腺機能低下症」などの全身性疾患、「胃食道逆流症」「気管支喘息」などが原因になることがあります。
また、左右の声帯に溝ができ、声門がうまく閉じなくなる「声門閉鎖不全」によって発症するケースもあります。
一方、機能性発声障害では、声帯や喉頭の機能に器質的な異常がないにも関わらず発声障害を来すものを指します。「うつ病」などの精神疾患によって「心因性発声障害」が生じたり、誤った声の出し方によって「筋緊張性発声障害」が生じたりすることがあります。
このほか、「痙攣性発声障害」「声帯麻痺」などの神経疾患によって発声障害が生じることもあります。
発声障害の前兆や初期症状について
発声障害の前兆や初期症状として、声が出しにくくなったり声の質が悪くなったりすることがあります。
普段とは異なり、低過ぎる(高過ぎる)声が出たり、声が途切れてスムーズに出せなかったり、声がかすれたり(嗄声:させい)するケースもあります。
このような症状がみられる場合は、一般的な耳鼻咽喉科ではなく、音声言語専門医・音声言語専門士がいる施設を受診しましょう。
また心因性の機能性発声障害では、抑うつ症状や不眠、食欲低下などの精神的・身体的症状が前兆としてみられることもあるでしょう。
発声障害の検査・診断
発声障害が疑われる場合には、「GRBAS尺度」を含めた問診や、内視鏡検査、「空気力学的検査」「喉頭筋電図」などが行われます。
GRBAS尺度とは、Grade:嗄声度、Rough:粗糙性、Breathy:気息性、Asthenic:無力性、Strained:努力性の頭文字をとったもので、嗄声の程度や声の質を評価する検査です。
実際に声を出してもらい、嗄声の度合い、ガラガラした印象の有無、息漏れの有無、声の弱々しさ、無理をして発声している印象などについて医師が4段階で評価します。
このほか、喫煙や飲酒などの生活習慣や、これまでの既往歴、職業などについても問診で確認します。
内視鏡検査では、「喉頭ファイバースコープ」などの検査機器を用いて喉頭の状態を観察します。
空気力学的検査は、肺から空気が送られて声帯を通り、声が出るという発声の動態を分析する検査です。「発声機能検査装置」と呼ばれる検査機器を用い、発声の持続時間や声の強さ、声域などを総合的に分析します。
喉頭筋電図は、喉頭の筋肉や神経の状態を調べる検査です。喉頭の筋肉に電極を刺し、筋肉の活動を電気信号として捉えて記録します。
このような検査の結果を総合的に判断して、発声障害の診断を行います。
発声障害の治療
発声障害の治療は原因や症状の程度によって異なり、状態に応じて薬物療法や音声治療、外科的手術が選択されます。
主に職業上声をよく出す場合や急性喉頭炎などによって喉頭に炎症を認める場合には、薬物療法や音声治療を中心とした保存療法が行われます。
保存療法では、喉頭や声帯を安静に保つために発声を控え、喉頭や声帯の状態と声の質について経過観察を行います。
薬物療法
声帯炎や喉頭炎など細菌感染が原因の場合には抗菌薬が用いられます。また、発声障害の原因として声帯に赤みや出血を認める場合には、抗炎症作用や止血作用の期待できる薬剤や、粘膜を修復させる薬剤などを使用します。
発声する時に喉頭がけいれんする痙攣性発声障害に対しては、筋肉の緊張を和らげる「ボツリヌストキシン」の局所注射が行われることもあります。
このほか、精神的原因で発症障害を発症している場合には、抗不安薬などが用いられることもあります。
音声治療
音声治療は、声の出し過ぎや誤った発声をしている場合などに行われることがあり、単独で行われる場合と、薬物療法や手術と併用して行われる場合があります。
音声治療は言語聴覚士の指導のもと行われます。訓練方法としては「直接訓練」と「間接訓練」があり、発声障害を引き起こす原因や症状に応じて選択されます。
直接訓練では、発声障害の原因となる異常な声の出し方を正したり、喉頭の筋肉の緊張を緩めることで発声に関わるプロセスを包括的に調整したりする治療が行われます。
一方の間接訓練では、声の出し方だけでなく、生活習慣の改善指導やストレスマネジメントなどが行われます。
外科的手術
ポリープや結節などの良性疾患や声帯麻痺、声門閉鎖不全、機能性発声障害、痙攣性発声障害、悪性疾患などが原因の場合には、外科的手術が考慮されるケースがあります。
術式は原因となる疾患によってさまざまです。例として、ポリープや結節、声門閉鎖不全に対しては、声帯病変の切除や、脂肪やコラーゲンを声帯に注入する「声帯内注入術」などが行われることがあります。
手術は全身麻酔で行われるほか、局所麻酔を用いて鼻から内視鏡を挿入して行うケースもあります。
発声障害になりやすい人・予防の方法
急性喉頭炎などの炎症性疾患や、喉頭のポリープ、結節、発声に関わる組織の悪性腫瘍、反回神経麻痺などの疾患を発症している人は、発声障害になりやすいといえます。
このような疾患を認める場合には、音声言語専門医・音声言語専門士がいる医療機関を受診して、適切な治療を受けるようにしましょう。
また、喫煙習慣がある人や職業上よく声を出す人も発声障害になりやすい傾向があります。禁煙し、声を使い過ぎないよう心がけることが重要です。
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参考文献